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2月1日(Mon) 人間を平手で殴ったりすると自分の掌も赤く腫上がったりするものだと知った母は、それからはほうきやはたきの柄を使うようになった。その上、洋服が破けるからと言って下着までもはぎ取って素裸にして、はたきの柄がささくれ立つほど打ちすえるものだから僕の背中はみるみる裡に赤いみみずばれでいっぱいになった。 見かねた隣の部屋の住人が止めに入ろうとしても、そんな日の母親は誰の言う言葉にも一切耳を貸さず、ひたすら己の裡にある憤怒に身を焼かれて地団駄踏んでいた。他者が顔を出せばさらに逆上するその様子に言葉を飲込んだ隣人はなにも言えないまま、ドアを閉めた。 裸のままで部屋の外に放り出そうとする母の意図を知った僕は、部屋の隅にむき出しになったままの柱に抱きついてなんとかそれだけは逃れようと、子供ながらに必死の思いでいた。指先が真っ白になるほどに固く握りしめた指をひとつひとつ剥がすようにして柱から引離すと、それでも外に出されまいとして暴れる僕を横抱きにして廊下に出ると、そのまま板壁に犬の子を捨てるように投げ出し、ドアを思いきり閉めた。 そう・・・まさしく僕は捨てられた犬の子そのもののような気がしていた。新聞紙を敷きつめた段ボール箱さえなくて、薄暗い廊下の隅で裸でブルブル震えている、弱々しく泣くことしかできぬ存在だった。誰かが僕の背中越しに通って行くのだが、決してそれ以上近づこうとはせず、まるでなにも見えないかの如くに足早に通り過ぎていった。 寒くて、痛くて、苦しくて・・・古い木造アパートの廊下の片隅で素裸で震えている筈なのだが、いつしか僕はこの「時」と「場所」がはたして夢なのか現実なのかが解らなくなっていた。夢の中ではすべてが曖昧で、想いだけが鮮烈だった。 ドアが開いた気配に振り返った僕は、胸の奥でひとこえ唸りをあげると、目の前に立つ女の喉首めがけて飛びかかった。 私の裡にある妄想が時として確固たる記憶だったように思えるときがあります。その生々しいまでの感触に触れたとき、私の妄想はきっと現実に変化しているのかも知れません。
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