デーテーペーな1日 デーテーペーな1日


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8月30日(Sun)


おなじ

 明け方、ふと目覚める。

 外は未だに薄暗いままで、ゆうべから降りしきる雨は一向にやむ気配すらなく、ひさしを伝い落ちる雨垂れの音が、こんな明け方の時間にはひどく大きく響いていた。
 それでも、窓の外は少しずつ朝の気配が漂いはじめたようで、隣のベットで眠る妻の顔がボンヤリと確かめられた。一度目覚めてしまうともう一度眠ることの出来ないわたしは、このまま眠れないなら昨日の続きから読もうかと・・・枕元に開いたままで伏せられていた本を手に取ると、ベットサイドの明りをつける。

 「・・・眠れないの?」

 「あ、おこした? ごめん」

 夢を見ながら泣いていて、そんな自分があまりに可哀想になって目が覚めてしまったと彼女が言い、「どんな夢だった?」とわたしが訊くと、「なにも覚えていない」と答える・・・ここの処、同じような事が何度もあったような気がする。
 わたしの隣りに潜り込んできた彼女の目には、確かに涙の跡が残っていた。そのまま、わたしの首筋に両腕をまわすと強く身体を押しつけてくる。

 「ず〜っとここにいるの」

 なぜそんな事を言うのかと尋ねることの出来ぬまま、わたしは彼女のパジャマのボタンをひとつずつ外す。
 性急にひとつになることを望んでいるようで、気持だけではなく彼女の身体までもがじれているのがわかった。
 着ているものを脱ぎ捨てると、わたしに添えた右手が導くままに、ひと思いに彼女を押し開く。微かな抵抗感はいっそう深く重なることですぐになめらか湿り気と温もりに包まれて、彼女の口からは深い喜悦の声が漏れる。愛撫らしい愛撫もないままに彼女はひと思いに登り詰め、わたしを求めて何度も飽きることがなかった。

 「いや」と言い「もっと」とせがみ、「やめて」と拒絶する彼女が、そうしながら泣いていることに気付いたのは、何度目かの絶頂の後の事だった。
 わたしの身体の下で快感に融けながら、しかしとめどもなく涙を流す彼女を見て、わたしの裡で何十年も眠っていた過去の記憶が不意に、例えようもないほどの切実さで蘇ってきた・・・

オマエ ノ ナミダ ノ イミ ヲ

ワタシ ハ

シッテイルガ ユエニ

ワタシ ハ オマエ ノ ナミダ ヲ

ヒタスラ オソレルノダ

 まるでおなじなのだ・・・記憶の中でわたしが抱きしめ、わたしが殺し、わたしが森の奧に埋めた女と、いま私の下で淫らにうごめきながら声をたてずに泣く女の身体や顔つきばかりではなく、わたしの耳元で囁くそのかすれた声や枕を顔に埋めるようにして堪えようとするその様子が、すべてにおいて生写しなのだ。なぜ今ごろになってそんなことを思い出したのか? 或は、わたしは本当にその事を忘れていたのか?
 蘇った記憶の生々しさが一層わたしをせき立てる。そうか・・・彼女はだから夢で泣くのか。
 汗ばんだ彼女の首に指を添えると、そのままひと思いに締める。何度か痙攣をくり返すと、彼女はじっと動かなくなった。

 今度の彼女を埋めるための森が何処にもないことに気付いたわたしは、そのまま、いつまでも途方に暮れていた

 過去の記憶が少しずつ現実に重なるような予感がするとき、その結末を恐れるのはまさしくわたし自身がその過去の記憶からいつまでも逃れることが出来ないことの証明なのでしょう。改変することの出来ぬ過去によって身動きがとれぬことの言訳は、やはりこんなカタチでしか伝える事は不可能なようです。


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