デーテーペーな1日 デーテーペーな1日


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5月27日(Wed)


雨の夜

 ぐっしょり濡れた紙袋の重みにも耐えきれずに、それでも紙袋がこれ以上濡れることを恐れた男は、赤ん坊を抱くように両手にそれを抱えて、目の前のポルノ映画のポスターをじっと眺めていた。
 豊かな下半身を捻るようにして男を見返す全裸の女のポスターが、古ぼけて明滅をくり返す蛍光灯にてらされて、まるで雷鳴のなかで見るロートレックの娼婦像のように見えた。あるいは、日に照らされ退色した全体の調子とその豊かな肉付きから、ミケランジェロが描く天井画の中の一人のようにも思えた。

 雨のなかに立ち尽してそのポスターを眺めていた男は、そのままポスターの貼られた壁の下に座って、道行く人をみるでもなく眠るでもなく・・・ひたすら降りしきる雨にぐっしょりと濡れていた。大事そうに上着の下に抱えた紙袋もあちこち濡れて、取っ手のあたりはすでに破れかかっているようだった。
 胃袋のあたりをキリキリと締めつける空腹感も、男には余り感じなかった。ただ、唇が乾くたびに紙袋のなかに入ったペットボトルの水を驚くほど大量に飲みつづけていた。

 ふと目の前に赤い小さな長靴が立ち止ったことに気付いた男が顔をあげると、6才ばかりの少女の姿が目に入った。驚くほど肌が白くて、夜の闇の中でもハッキリ判るほどに赤い髪の少女だった。
 座り込んだ男と同じようにしゃがんだ少女が黄色い傘を男にさしかけるのだが、あまりに小さな傘なのでほとんどなんの役にもたたず、かえって少女と男を濡らすだけだった。
 男が少女の傘をきちんと肩口に戻してやると、まるでそれと引換えるように男の傍らに近づいた少女が、そっと口づけをした。決して幼い子供がするそれではなく、ひどく大人びた仕草で男の首筋に手を添えてゆっくりと、慈しむように・・・

 硬直した姿勢のまま、濡れた路上にそのまま倒れるように横たわった男は、じっと自分を見下ろしている少女の瞳に一切の色がないことに、その時初めて気付いた。少女の真っ白な光彩がキラキラと輝いて、その瞳から一筋の涙がこぼれ落ちたことに男は不思議な安堵感を覚えながら、意識はすでに虚無の裡に在った。

 どこもかしこもじっとりと濡れた、そんな雨の夜に、ひっそりと路上で眠ったまま目覚めることがない男に、ひそかに羨望する事があります。


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