デーテーペーな1日

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9月4日(Thu)
 大阪西成区の住宅密集地帯の木造アパートでの火事・・・焼跡から見つかった焼死体の年令を聞いて暗澹たる思いがした。80才台がふたりに70才台がひとり。いずれもひとり住いで、戦後すぐに建てられたその木造アパートでひっそりと暮していた老婆のようだった。
 連添いを先になくしたのか、あるいは戦後の数十年間を孤独に暮してきたものか・・・僕自身の内なる妄想の中にいる彼女たちは、深く刻まれたシワと白く濁ってあたかも死魚のソレのような目で、路地の奥からじっと僕を見返していた。

 色あせた絣の着物をきて、誰にとも知れぬ手招きをくり返すその老婆に誘われるように、僕は路地の奥にふらふらと迷い込んだ。

 小さな老婆の前に立つと、それまではまるで無関心に僕の背後にある空を見ていた老婆がいきなり僕の腕をつかんだ。ある種・・・僕自身の記憶の中にある濃厚な匂いがふいに鼻につく。「死」を予感させるそれは、生きながら腐りつつある者が放つ腐臭と糞尿のいりまじった匂いだった。思わず顔をしかめる僕を見上げると、そのまま後ずさりしながら背後にある薄暗い廊下の向うへと、老婆とも思えぬ力で僕を引きずり込もうとする。
 何故かしら抵抗できないまま・・・僕はズルズルと闇の奥へと老婆と共に進む。

 廊下に並んだ無数のドアの陰では、ひからびた老人達が黙々と食事をしているかと思うと、シミだらけの肌をくねらせて二人して重なり合っている老人達の姿もみえた。低い天井にロープを渡して首をつっている老人の隣では、無言でテレビを眺めている巨大な紙おむつの老人達・・・何処までも続く廊下の向うは、ただ漠然とした闇が拡がるだけの薄暮のような世界だった。

 80才を越えて一人暮しを続ける老婆達の日常と、その結末のあまりの孤独が身につまされるのは、やはり僕自身が自分の「死」についてそろそろ実感する処があるからでしょうか。人生の半ば以上を生きてきた実感というのは確実にあるようです。ただ・・・お気楽に平均寿命80年とうそぶいてみても、今までの人生とこれからの残り半分が等価だとは、我ながら信じていないだけです。無限の可能性が既に通り過ぎたことをなんとなく実感してしまう毎日・・・それ以後の、ただ死んでいくために残りの数十年があるのだとするなら、後半の人生はまさに煉獄に繋がれたも同然。その事実が耐え難いが故に、人は子供などを生み育てるのかもしれません。

 老朽化したアパートの一室で窒息しそうなわが身の存在すらも半ば無関心なまま、明日の朝の目覚めを恐れつつ眠りにつこうとする老人達はこれからも増え続けていくのでしょう。

 故なく生れてきた人間が、なんの意味もなく死んでいくのは当然の結果かも知れません。数十年生きてきた己の人生がなんの意味もないとはなかなか認めたくはないモノですが・・・だからと言って、つましい己の家族を見渡して安堵する人生もまた寂しいような気がします。


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