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お盆と言うと、一面に咲いた松葉ボタンの、あのいじらしい花の姿を思い出します。 母方の祖母に溺愛されていた小さい頃の僕は、春と秋のお彼岸やお盆の季節になると母親と祖母の3人連れで、町中にある小さなお寺にいったものです。 通りから庫裡に向う路地のような参道の両脇には、住職の奥さんが丹精していた松葉ボタンが一面に咲いていて、とても美しいのですが・・・子供心にもなにかしら切なくなるような風景でした。丈の低い花が地を覆うように咲いていて、お盆の季節になると帰ってくるという祖父達をひっそりと迎えるかのように、控えめでいて可憐なあの花びらが僕はとても好きでした。 一声かけると奥から住職の奥さんが現れて祖母と母親が季節の挨拶を交しているのを横目に、さかきの入ったバケツを持たされた僕は庫裡の横にある手押しポンプでガッタンゴットンとバケツに水を組み、一人で墓地に向う。 入口から数えてひとつ・ふたつ・・・9番目の列の奥に見慣れた祖父の小さな墓がある。そうして数えないと同じような墓石ばかりですぐに迷ってしまうからだった。 バケツの中のひしゃくで水を汲むと、少し背伸びしながら頭から水をかける。お隣とお向いさんといった感じで、廻りの墓石にも少しずつ水をかけながら、教わった通りに手を合わせてみるのだが、なにを祈って良いのか・・・幼い僕には良く判ってなかったりする。やがて住職らと連れだって祖母達がやってくると、墓石の前には線香と蝋燭、それにお菓子やら煙草やらが大人達の手でテキパキと備えられる。 住職の読経が蝉時雨の中で流れ出す頃には、退屈した僕はバケツにもう一度水を汲んで来ては、墓石のひとつひとつに水をかけてまわる事に熱中する。墓地の奥には無数の無縁墓が山積みされていて、何度もバケツを持って往復したものでした。そう言えば・・・帰りには、何時もとは少し感じの違った店で3人で食事をすることも楽しみのひとつでした。 とても懐かしい記憶のような気がするのは、それが松葉ボタンの花のように、ちっぽけでいじましい記憶だからかも知れません。かなり前に、久しぶりに訪ねたそのお寺には既に住職夫婦の姿はなく、松葉ボタンの植えられていた場所はすっかり整地され、新たな分譲墓地に様変りしていました。
墓参りというものをやらなくなってから随分たちます。まぁ、別に死者を弔うには埋葬された場所である必要はないような気がします。まして火葬の現代では、小さな骨壷に入った骨のかけらに故人の思い出を託すのはなかなな難しいかも。手を合わせることに意味があるとするなら、死者が場所を問題にすることもないでしょう。
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