デーテーペーな1日

日記関係の発言はこちらで。
4月16日(Wed)
日々の日課

 執拗に鳴り続ける玄関のチャイム・・・その音に目覚めると、海の底のように蒼黒い光が何重にも閉ざしたカーテン越しに部屋中にゆらめいているような気がした。今は夜なのか昼なのか、それすらも判らない。なにやらひどく長く寝ていたような気がする。昨夜の記憶を探ってみても、まるで突然の記憶喪失者のように一切が曖昧で、何ひとつ浮んでこない。方向感覚を失ったまま玄関に向う間もしきりに記憶の襞を探ってみるが、真っ黒な記憶の闇だけが頭の中でカラコロと音をたてるだけだった。

 「印鑑お願いします」

 Tシャツ姿に宅配業者の帽子だけをかぶった男が認め印を返すと、かなり大きめの荷物をドア越しにズルズルと押込んだ。長さはおよそ1M以上・・・精密機械の移送にでも使いそうな厚手の段ボール製のその荷物は固く凍り付いていて、ひとりで持運ぶのに苦労するほど重かった。傾けると何かがゴトリと動いた。宛先欄の書かれたシールはひどく傷んでいて。辛うじてラベルにある私の名前だけは読みとれたが、後は破けたりインクが滲んだりでどこから届いたものか、まるで見当もつかなかった。ガムテープを剥がすと、中の荷物も凍っていた。
 透明なビニール袋で何重にも縛られたその中味は・・・年若い女性の完璧なトルソーだった。
 両手両足は付け根の関節にそってきれいに切断されていた。そこから覗いた真っ白な骨とそれにまとわりつく靭帯や筋肉の組織は少し融けかかって、ピンク色のしずくが灰色の段ボールにぽたりぽたりと音をたてて滴り落ちていた。

 ポーズを取ることを拒絶するトルソーの、それ自体がもつ厳しい美しさに魅せられた私は、ただ黙って「それ」を眺める。
 小ぶりな乳房はすでに弾力を失ってはいたが、バランスの取れたその優美なカーブはいささかの崩れもなく、凍り付いた乳首はいまだに固く張りつめていた。扁平に引き締った下腹部から続く茂みと、その奥のふたつに合わさったラビア・・・そこに見覚えのあるほくろを見いだした私は、現実世界の記憶が一気に蘇える。

 そこにもう一度玄関のチャイムが・・・今度はみかん箱ほどの荷物が届く。そう、この中にはやはり私自身が荷造りしたおまえの首が凍り付いたまま入っている。午後には両腕と両足が届くのだろう。お前のトルソーも荷札を貼替え、もう一度宅配業者に持たせることになる筈だ。
 こうしてお前は何度でも私の元に届けられ、私は印鑑を用意して待つことが日課となる・・・

 見知らぬ宛先から荷物が届いたりすると、妙に胸騒ぎがすることがあります。何が出てくるのか・・・いろんなモノを宅配便で送る人間と言うのは確かに存在するようです。


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