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なぜ妻がそんなモノを欲しがるのか?私には理解できなかった。もともと人混みの中では見つけだすのに苦労するほど目立たない容姿の妻は、生来オシャレなどに興味を示すことはなかった。普段からほとんど化粧らしい化粧をするでもなく、私がもう少し派手めなものを着てみては、と奨めるほどに洋服の趣味も地味な女だった。特に昨年の子宮筋腫の手術以後は、いっそうひっそりと家にこもりがちだった。 結婚してから、特別に何かを欲しがると言うことも初めてなら、それも、最近少女達が身につけている小さなリュックサックが欲しいと言張る妻に、私は怪訝なものを感じながら、一緒に買物にも付合った。 ほとんど実用性のないほどの小さなサイズにアンバランスに長い肩紐の付いた黒いリュックサック・・・それ以後、妻はどこへ行くにもそれを手放すことはなかった。日常の買物は勿論、何泊かする旅行にはスーツケースと一緒に必ず背中にはその小さなリュックがあった。いったい何が入っているのかと妻に尋ねると、そんな時は決って私には聞取ることができないほど小さな声でなにか答えたのだが、なぜか私はそれ以上問いただすことが出来なかった。そう、妻の執着の強さに、私はそのリュックの中味を知ることを恐れていたのかも知れない。 眠るときも、妻はその小さなリュックを手放すことはなく、寝室のクローゼットの棚にひっそりと置かれていた。いま彼女は浴室だった。私は激しい好奇心に捉えられていた。 クローゼットから取りだしたリュックをベットの上に置く。意外に重い・・・掌にずしりと存在感の残る重さだった。ファスナーを開くと、柔かで粘液質の手触りがする「それ」が、固く縛った黒いビニール袋の中で液体と一緒にズルリと揺れる。何重にもなったビニール袋を一枚ずつ開くたびに、微かに生臭い匂いがたちのぼる・・・これ以上リュックの中味を確かめてはいけないことを承知しながら、私はそれをやめることは出来なかった。最後の1枚を開く・・・その中に片手を入れると震える指先で中味を掴む。網の目のように静脈の走る半透明な膜に包まれた、小さな「それ」が私の手の中でピクリと動き、いまだ眼球のない目で私を見返した。 絶叫しようと振返った私は、全裸で入口に立つ妻の下半身から流れるおびただしい血潮に、全てを理解した。 もともと女性のもち歩くバックから連想するモノが僕の妄想の原点にあるのですが・・・最近街角で見かけるあの小さなリュックサックには、いっそうフロイト的な意味が秘められているような気がして仕方がないのです。まぁ、ありきたりと言えばそのとおりなのですが。
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