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夕方からチラチラ舞い始めた白いものはいつの間にか本物に変わったようです。湿り気を帯びたそれは、降るそばから次々と消えていき、車道のわだちの間を流れていきます。 そう、東京はこの冬始めての「雪」に沈んでいます。音のない家並に濡れた路面を走る車の音だけが増幅され、なにやら正月気分の抜けぬまま、街は明日からの日常にすでにうんざりしているように見えます。 第四間氷期のせいか、炭酸ガスの温室効果のせいか・・・平均気温は明らかに上昇に転じているようですが、それでも年に何度かは東京でも雪が降ります。深夜にまで降り続けば明日の朝は数センチの積雪が有るのでしょう。いい年をして、深夜に降りつのる雪をガラス越しに眺める事が好きだったりします。さらに言えば、あまり雪に縁のない関西に育った僕は、雪国のあの灰色の空から際限もなく降ってくる雪を呆然と眺める事の、なにやら絶望的な無力感に似た気分にとても惹かれる処があります。 虚空から現れ、小さな結晶となって冷たく降りしきる「雪」。それは・・・雨ならば、降り止めばいつしか地表から消えていく筈のものが、いつまでも地上に居座り、全てを白く覆い尽くさずにはおかないあの強固な存在感が、人間の自発力を徐々に奪っていくからかもしれません。 ひと掬いすれば手の中で溶けてしまう儚さを装いながら、吹きつのれば白い牙を剥いて襲いかかる。そう、ひと思いの激情ではなく、冷たい情熱で魂を凍てつかせる、あの「雪女郎」の抱擁のように・・・ 勿論、明日の雪降ろしの心配が有るわけでもない、ただの通りすがりの人間ゆえの無責任な感想なのです。実の処は、子供が雪を見てはしゃぐ事とほとんど同じ。しかし最近の子供はそれほど雪を見てはしゃぐことも無いような気がします。僕の小さい頃には、公園などの開けた処で朝早くに足跡残すのを競ったりしたものですが、うちのこども達誘っても寒いからとあっさり断られたりします。そう言えば近ごろでは午後遅くになっても足跡ひとつ無い公園が目に付いたりします。足跡ひとつ無い雪を見たりすると、ついその上を往復したくなるのですが、さすがにいい年をした大人がひとり公園をうろつくのは、いささかはばかられるようです。
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