歳時記:参月の項

一日

当直明け。
一言でいって素晴らしい当直。夜の八時から朝の六時まで一度もポケベルが鳴らなかった。
それで熟睡したかというとそうでもなく。何度となく起きてはポケベルが鳴っていないか確認した。終いには壊れているのではないかとすら考え。やっと鳴ったときにはほっとしたりした。

二日

カゼ引きの相方を病院に連れていき、その後お買い物など。
夜には「指輪物語 (映画版)」のビデオ観賞会。「指輪」は高校時代に読了したっきりであらすじくらいしか覚えていないけれど、比較的原作に忠実で雰囲気を伝えている映画化なのではないかと思う。「旅の仲間」の前編までを観た。

三日

泌尿器の日。
午後は手術。この日の手術はまだ若い男性の膀胱腫瘍。先が長いということで、代用膀胱の作成もかなり手の込んだものにしていた。
麻酔を導入したところで、安定した換気をするために気管内挿管をする。麻酔をかけた患者さんは抵抗もないから一番やりやすい。病棟では何度か挿管していたけれど術場では初めての経験。スムーズに挿入できた。

四日

午後の外来はそこそこの混み方。咳が続くと言ってきた人が複数。
ひとり、呼吸困難を訴えてきたものの、原因もはっきりせず落ち着いてきたので経過観察とした人が。いったいなんだったのだろう....。

五日

午前中病理。月が変わったところでCPC(臨床病理検討会)のプレゼンテーションをすることとなる。その人のプレパラートを見ていた。全身の所見をまとめて結論を導かないといけないので結構勉強することは多い。

夜の研修医ケースカンファレンスでは、昨日の咳の人についてプレゼンテーションして、対応についてレクチャーしてもらった。一番多いのは上気道炎のあとの過敏性が残ることだという由。他にも慢性の病気が隠れている場合・喘息などがある場合といろいろ考えられるとのことだった。

六日

午前、病理で仕事をしているとポケベルが鳴る。往診で見ている患者さんが状態が悪いとのこと。昼ごろ救急外来に来たところで見に行ってみると、CT上気胸があり、胸水も溜まっているとのこと。全身状態も悪くショック状態。
急いで胸水を抜いてICUへ入室。──安定していると思ったんだけれどなあ。

夜から当直。まぁまぁ穏やかなはじまり、かな。

七日

朝方二件の入院があり、結構早起きとなる。いろいろすることが多かったり、複雑なケースがあると目が覚めるのだけれど、一言で済んでしまうようなやりとりだと眠たげな対応になってしまうのは...ある程度仕方ないと思ってもらえないかなぁ。

午前往診の後、往診中の悪性腫瘍患者の家族に病状説明。根治的治療の適応はなく、いかに看取っていくかが問題の患者さんで、家族に現状と今後起こりえることを説明する。
在宅で死を迎えることの難しさは、一つには家族の受け入れの難しさだと思う。直接かかわる家族が一応納得していても、医師からの説明が行っていない親族が「何かあったら困るから」と入院させることを主張したり、いざ病状が変わると家族が不安になって病院で診て欲しいと希望してきたり。
病院で診ても家で診ても何も変わらない患者さんをどこで診て行くのか。あるいは、どこまで侵襲的な処置を行うのか。点滴もしない、という方針のこともあるし、どんな状態でもいいから少しでも長生きして、と頼まれることもある。本人も家族も家で診たい、と希望していたとしても、それを叶えるには相応の準備が必要になると思う。

昨日の患者さんが夜半に亡くなられる。まだ若い方で、両親に看取られる。親として、子供を看取る気持ちはどんなものだろう。

八日

午後、ACLS(Advanced Cardiac Life Support)の院内講習会。CPA(心肺停止)の患者にどのような対処をすべきかというアルゴリズムなのだが、こういったものがマニュアル化されているのがアメリカ医学の強みなのかなぁと思う。
ACLSの中ではVF・pulselessVTを発見し除細動することの重要性が説かれている。以前わたしがVFにぶちあたったときも、心電図モニターと除細動器がくるのが待ち遠しかった。今は半自動化除細動器なるものが世の中に出回り始めているということで、もっと普及して欲しいと思っている。

夜、"The Lords of the Rings"観賞会。──もう一回読み直そうかなぁ。あらすじくらいしか頭に入っていないから。

九日

起き出してからやおら掃除などはじめる。おお、なんか家庭的じゃないか俺などと思ってしまう甘甘なわたし。
買い物などした後、夜は一族で鴬啼庵へ。末妹が遠方転居するということで壮行会。──しかし、健康診断結果を持ちこまれて「やせなさい」「酒減らしなさい」系のセオリーな指導を受けるのはどうかと思うぞ>義弟

十日

朝MacOSXでemacs環境を作ろうとmakeを仕掛けておいたのだが、帰ってきてみるとtexinfoのmakeがこけていた。しくしく。うまくいかないなぁ。

十一日

午後外来。結構切れ目なく患者さんが来て、けっこう診たなぁと思って後で数を数えると十人/三時間。──時間かけすぎと言われるかもしれんけど...。要点を押さえてすばやく見立てるのは難しい。

十二日

午前午後と主に病理。午後は救急外来もあったけれど、一人しか来なくてなんだか。
終わりかけにひとり若い女性が来ていて、主訴をみるとむくみとある。第一感でネフローゼかなぁと思って診ようと思ったら、看護婦さんが当直の先生を呼ぶからいいという。
後で聞いたらしっかりネフローゼだったよう。

十三日

午前午後とも病理。
午後には病院実習にきている医学生さんが来ていて、一緒に剖検検体の切りだし。熱心な学生さんは教えていても楽しいなぁと思いつつふと遠い眼をしてみたり。いや、ボクはまじめだったとおもいます、たぶん、きっと、おそらく。
夜は飲み会@医局。出前をつつきながら少し飲んで大いに語る。

十四日

白い日。
午前中の往診には看護学生さんが実習として入る。この時期は休みを利用しての自主実習が結構あるので、受け入れに忙しい。

午後少し時間が空いたので、住居の契約更新にいきがてらAnimateへ(爆死)。「魔法遣いに大切なこと」「ブギーポップ・スタッカート ジンクス・ショップへようこそ」「アリソンII 真昼の夜の夢」を購入。
帰りがけにちらっと「東京ミュウミュウ」を立ち読み。妹がアニメを毎週見ているなんて話を聞いたのだが....。冒頭憧れのカレとのデートが絶滅動物展というのがいいですな。(死) いい趣味をしている。(^^;;;

夜、某秘密組織の秘密ニュースグループ閲覧のために(^^;mnewsの再コンパイル。
以前作ったときにはエラー個所を無理やり押し通したのだけれど、今回はmnewsのportsのMakefileをいくつか手で修正してコンパイル。初めにmake configureとして、work/mnews1.22/buildディレクトリ内にできたmakefileとsite_def.hをさらに手修正してパラメーターを変更した。

十五日

昼過ぎから歯医者。歯石をとられながら時間をかけて歯を磨いてくださいといわれる。──わかっていてもなかなか、ね。
夜からの当直までの時間に「アリソンII」「ブギーポップ・スタッカート」読了。「運命」を観るのは──どんなものなんでしょうかね。

知人の猿丸さんとこの日記を読んでいたら、鉄人餃子を作ってしまう人の話が。あとでGoogleしてみると複数件引っ掛かってくる。実際に作ってしまう人がいるとはおもわなんだ。

十六日

当直帯で一人患者を看取る。直前の頭部CT上で、はっきりしない所見があったので脳も含めた剖検を依頼して、了解をいただく。
画像診断が進んだといっても、わからないことはいくらでも生じてきて、それをはっきりさせるために剖検したいことは多い。X線と身体所見で診断をしていた時代には、剖検して初めて経過が説明できることはいくらでもあったらしい。協力いただいた人々のおかげで、画像診断が進歩してきたとも言える。

定期点検に出していたCB400SSをひきとってくる。燃料が少ないので入れなきゃなあと思っていたら、出先でエンジンをかけて暖機していたところで停ってしまう。うんともすんとも言わない。燃料切れであった。
車でガソリンスタンドへ行き、店員に事情を話して油タンクを借りる。──引き返して注入したのだが、使い方がわからずにだいぶガソリンをこぼしてしまった。すぐにエンジンをかけるのがこわいのでしばらく放置した後エンジンをかけて、やっとこ帰ってくることが出来た。

本日の読了本:「瞳子」(吉野朔実)。帯に「最新刊」とか書かれていた2001年発行の本。(^^;
なんてことはない日常の描写が中心ではあるのだけれど、その当たり前の日常を過ごすことの中に驚きや感動を見つけることが出来るかもと思ってしまうような、そんな作品だと思った。

十七日

午前中昨日の患者の剖検。「じゃあ、試験ね」とか言われつつ始めるがしっかり右往左往する始末。きちんととり出すのは難しいな。

夜の医局会議の中で「トリアージ」の学習会。病院近所の踏み切りで列車事故....という想定で対応策を考える。
災害時の対応の場合、負傷者の数と質を見極めながら人の配置を変えていかないといけない。あまりに医療側の力が相対的に少なければ、その分放っておいてもいい軽傷者と救うのが難しい重傷者へのケアを減らさざるを得ない。断腸の思い、ではあるのだけれども、そういう判断をしなければならないときというのはあるということは知っておかないといけない。

十八日

午後の外来は定期の患者さんもおらず、全体に閑散としていてひどくのんびり。こーゆーときに複雑な背景を抱えた患者さんが来たりすれば力いっぱい話が聞けるのにと思ったりする。

十九日

午前病理・午後救急──の予定だったが、午前中の担当の先生がいないということで急きょ午前にはいる。結果的には一人しか来なかったけれど。

キッズgooに「研修医 日々」の検索タームを入れてみる。自分ところのページがトップで引っ掛かってきて、ちゃんと表示もされていたけれど、中にはキッズgooのアダルトチェック(違)に引っ掛かっているページもちらほら....。読んでみると普通のページなんだけどねぇ。
ならばととりあえず「猫耳」とか「オタク」とかのタームを入れてみるテスト。これでわたしのページがはじかれてしまうようならその辺の単語がNGということになるのだろうか>キッズgoo

二十日

これまでCPC用に診てきたケースのまとめ。大ボスの先生と一緒に検鏡して、所見についてディスカッション。
大ボスの先生は根っから教え好きの先生なので、聞けば聞くだけいろいろな話が出てくる。ちょっと疑問をぶつけると本棚から教科書をとり出して解説してくれる。ので、非常に勉強になる。
終わった後は写真撮影。発表で使うために撮影した。

自宅のFreeBSDマシンのX環境がどうもうまく表示されず、みているとX serverの色数が足りていないためと思われた。Window ManagerにAfterstepを使っていたのだけれど、色喰いなのでこれを変更しないとlynxもmnewsもカラー表示が出来なそう。
X Window SystemのインストールなんてページのWindow Managerの紹介を参照しながら選び出した使えそうなWindowManagerはBlackboxとwm2。試した結果はBlackBoxですらグラデーションなどの部分で色使いが荒いようで、wm2は軽快さも含めてなかなかよろしい。
wm2の弱点はその機能の乏しさなのだけれど、ランチャーとしてtkdeskを導入してみることにする。どうなることやら。

二十一日

tkdeskのランチャーはなかなか使いでがありそう。しばらくはwm2+tkdeskの環境だな...>X窓

今日は吉野の梅郷まで足を伸ばして梅見と洒落込む。同じ花見なのに梅と桜では全然客層(爆)が違う感じなのは、季節もあるのかなと思ったりする。天気は良かったけれど風が吹くと少し寒いし、日が傾くとやっぱり肌寒くなってきた。

帰りがけに「ピースウォークin 立川」に参加。一緒にとことこ歩いてから帰ってきた。
「戦うな」という意見にわたしは賛成するから、その思いを行動に示したいと思った。自分の意見を行動に表明することが、もっと当たり前になってくれたらな、と思う。

二十二日

午前より救急外来。
そこそこ重症の方も来て、対応に追われる。目まい、腹痛など。

そのまま夜は当直に。腎不全・心不全の人の緊急透析なども含め計五人の入院があり、他にも挿管あり看取りありと、かなり忙しかった。

二十三日

当直終わって朝食をとってから、相方と一緒にホームセンターへ。リハビリ中の患者さんの補助具を作る材料をみつくろいに。
健常人用の道具は作るのも規格化できて容易だが、麻痺や筋力低下、不随意運動などの障害を持つ患者さんにとって使いやすい道具・必要な道具というのは簡単ではない。状態に合わせて少しずつ違うものだから、言ってしまえばオーダーメイドするしかない。そういったものを注文して作らせているとお金ばかりかかってしまうから、スタッフの方で知恵を絞って使いやすいものを工夫することになる。ちょっとちがうけれど、ハンセン病の博物館などに行くとさまざまな道具を見ることができる。
商品を見ながらあれこれ考えて、一応の仕入れを終えたあと、CDショップに寄って「Sign」(ZABADAK)を買って帰った。

本日の占いズ。「スタジオジブリ占い」では「魔女の宅急便」、「エヴァンゲリオンキャラクター占い」では「相田ケンスケ」だそう。
「希少価値チェック」では【どこにでも掃いて捨てるほどいる凡人】という非常に妥当な評価が下されたのだが....。凡人・一般人を名乗るその辺の人々の結果が知りたいと思ってみたりする。

二十四日

泌尿器科の外来と手術と。まぁ普段通りに。

最近すぐに眠くなる。午後とか夜とか、ぱたりと寝られる。──これでいいのか?

二十五日

泌尿器の外来ではこの日は性感染症ぽい人が複数。思い当たる節がない人もあり。とはいえ、性器感染症があった場合にはセックスパートナーも同時に治療しないと互いにうつしあって治療が進まなくなってしまうので、相手のことを思うなら伝えないといけないことではあったりする。
──そんなわけで、風俗で遊ぶのは危険であるわけです。(^^;

二十六日

そろそろCPCのまとめにかかる。‥‥プレゼンテーションをPowerPointでやるのだが、そこに挿入する写真はPhototshopでいじらないといけない。嫌いだ。
自分自身はまともな画像処理ソフトを持っていないし、大ボスはPhotoshopユーザーだし。

夜は研修医CCということで、先日亡くなられた患者さんの症例検討会。終末期医療としてどうするべきだったかなど、勉強になった。
苦しませないことだけ考えるのならば鎮痛剤・麻酔剤など、いろいろ使っていけるけれども、どこまで病態の改善を図っていくのかの見極めをつけるのは難しいと思った。徐々に悪化していく中で、何とか少しでもよくする努力が、結果的に患者さんを苦しませたのではないかと思ったりする。

二十七日

日中病理室でパソコンいじり等。

夜は当直。入院がふたり入った他はあまり呼ばれることもなく。でも入院患者のひとりが悪化の兆しがあって気になった。
当直の合間にイラクは滅びぬ 何度でも蘇るさとか見つけてしばしよみふける。いくつかセレクトして同じく当直中の先生に見せたりしていた(逝)。

二十八日

「このチェックは全くおかしいということがわかりました」って.....(苦笑)

午前中往診。一人悪性腫瘍末期の人の体調が不良。往診終わった後で再度電話があり、夕方に入院することになった。

夜、歓送会in医局にそなえてぶらぶらしていると、病理の中ボスが「それじゃあいってくるから」と他の人に声をかけているのに出くわす。
「どこいくんですか?」と聞いたら剖検、とのこと。やだなぁ、水臭いじゃないですかなどといいつつ自分もついていって剖検にはいる。夜間突然の剖検とのことで技師の人も都合がつかず、医者と(入院していた病棟の)看護婦さんが見学する中で進められた。
終わって着替えをし、シャワーを浴びて体を洗おうとお湯を出すとどうもぬるい。水の方はと見ればもっと冷たい。しょーがないのでぬるま水で体を洗って出た。──春になったんだなあと思ったりした。
医局へ戻ると、そのころにはほとんど宴会はまったりモードになっていて食べ物もあまり残っていなかったが....しかたないな。

二十九日

午後から医局レクリェーション企画「OS(仮名)杯ボウリング大会」。今年で第三回を数えるという由緒ある企画である。
とはいえ多忙につき参加者はやや少なめだったのだが....。それでもしばしボウリングな時間を過ごす。結果的には二位入賞だった。

三十日

午前中はまったりと部屋の掃除などして過ごし、午後から外出。カラオケして、SUBWAYで遅い昼をとった後、思いついてBowling for Columbineを観にワーナーマイカルシネマ板橋まで。(いや、事前のリサーチで恵比寿ガーデンシネマが結構混んでいるみたいだったんで)
タイトルの「コロンバイン」は、1999年に高校生が学校で自動小銃を乱射するという事件の起きた場所。「なぜこのような事件が起こってきたのか?」を、監督兼出演者のマイケル・ムーア氏がマイク片手に方々にインタビューに歩きながら追究していく。
アメリカの銃犯罪の多さを漠然と「多くの銃が売られ、簡単に手に入るから」と思っていた。でも、銃の多さから言ったらカナダの方が上とか、映像の暴力性では日本も負けていないとか、血塗られた歴史から言ったらどこの国でもあまり変わりがないとか、考えていくと一筋縄では行かない問題なのだと思った。
途中で挿入されるアメリカの軍事的な悪行の数々を列挙する映像はなかなか衝撃的で、よくこれだけのものがアメリカで作られたものだと感心した。
書いていくとカチカチの硬派のドキュメントに思えてくるけれど、作品全体の流れは明るくて、二時間の長さを感じさせない。一番笑ったのは「企業版"特捜24時"」企画だろうか。「80ドルを盗んだ犯人はこづかれて連行されるが、80000ドルを貧乏人からむしり取った人は市会議員のように丁重に扱われるから映像にならない」なんて台詞にどきっとした。どこの国も変わらないようで....。

行き帰りの道中で「ヴェイスの盲点」(野尻抱介/富士見ファンタジア文庫)を読了、「あかりをください」(紺野キタ/幻冬舎)「10月はたそがれの国」(レイ・ブラッドベリ)を購入。

三十一日

午前から今年度最後の剖検に入る。──なんか最後にいくつもあった気が。
午後は泌尿器科の手術。一つ一つはすぐ終わってしまって、準備の方が長かったくらいだった。

今夜は当直。──あんまり呼ばれないなあ、と思いつつ夜半に至ると、そこからぼつぼつ呼ばれて、看取りや急変対応など...。  


Written by Genesis
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