歳時記(diary):二月の項

一日

朝少し早起きして、えっちらおっちら袋田の滝まで。
あわよくば氷瀑という期待もあったのだけれど平年より高めの気温とあってはそれも果たせず。それでも、大きな落差をもって落ちる滝はなかなか豪快でした。
トンネルくぐって滝の正面にある観瀑台にでられるのですが、トンネルが途中から分岐している方へ回るとつり橋があって他の滝へまわるハイキングロードに接続してます。そちらへまわってちょっとお茶屋さんでひと休み。美味しい味噌田楽とお茶を頂きました。さりげなく子ども用の味噌田楽は温かい程度の温め方にしてくれていたりコーヒー頼むとクリームも温めてくれていたりする、ちょっとした心遣いが嬉しいお店。
帰りは日帰り入浴して帰って、そのままばったり。

二日

「訪問薬剤師」は現状でもけして不可能な話ではありません。通院が困難な患者さんに対しては、医師の指示(処方箋ばかりではなく口頭でもよいとのこと)に基づいて薬剤師が患家を訪問して指導を行うと月四回迄500点の管理料が算定できることになっています。毎週行けば計2000点で、1点10円なので一人あたりその位の収入が薬剤師にはいることになります。
処方箋のいらない一般医薬品についてはおそらく規定がないと思います。ですが、薬剤師が訪問に行けば立派に対面販売になると思いますから、どうしてもオンライン販売にこだわりたいならばそうするのが利用者にリスクを負わせない薬剤販売になるのではないでしょうか。

三日

外勤。カゼばっかりかと覚悟していたのだがそれほどでもなく。週末に雨が降った影響はあるかもしれない。
熱は上がるのだがインフルエンザ陰性の風邪が多かった、と思う。

四日

なんとなくばたついているうちに過ぎ去る水曜日。ついつい遅くなるし。

五日

総回診。全体に患者さんが問題を複雑に抱えていて頭を抱えたくなる人が多く。議論も長引く傾向に。

六日

夜はローテートの先生の歓送迎会。縷々集まって注文するのだが‥‥食い物が出てこない。なんだか中途半端な腹具合で散会になったので、帰ってきてからお茶漬けを一杯食べた。

七日

腎臓専門医試験。ほとんどノー勉強という危険さ。事前に腎臓学会誌の特集は読んでおいたんだけれどねぇ。
本番はぎりぎり何とか受かるんじゃないか程度のでき。あんまり落ちないって聞いたのでそれに賭けよう。(ぉぃ

帰りに「夜は短し歩けよ乙女」(森見登美彦/角川文庫)を読む。

八日

オンコールで出勤。予定入院がいたくらいでこともなく。

人工衛星のお話。‥‥スバラシ

九日

臨時の腎生検等々、忙しい日。
何故かわたしは生検が素早くやれる、ことになっているらしい。息止めが不安なだけなんだけれどなぁ

「軌道の魔術師」でぐぐると最初にWikipediaのEDVEGAが引っ掛かってくる。さすが。

十日

外勤。外来の患者さんの風邪が減った印象がある。なんでだろうなぁ。

十一日

朝普通に準備して出かける間際。相方が「そういえば今日は祝日だったー!」と言いだす。‥‥まったく通常通りに仕事があるもので相方にもカレンダー感覚の狂いを生じているらしい。ごめんよ。

水曜日ということは回診の準備も必要で。幸い比較的早めに終了した。

十二日

夜、IgA腎症根治ネットワークの堀田修先生の講演を聞く。もともと仙台社会保険病院にお勤めと聞いているが、退職したことがけっこう驚きを呼んでいた。
内容はといえばなかなか挑戦的な感じで。過去の研究をふまえた主流の学説に異を唱えている独自体系もいくつか。IgA腎症に対する扁桃摘出+ステロイドパルス療法というのは何度かやったことはあるのだけれど治療としてはそれなりの効果をもつと感じている。ただ全身麻酔の手術とステロイド薬の大量投与という副作用も含めて存在する治療を重ねるので、そこまでしないと治らない人ともっと軽い治療で見ても良いひととの生理や、病態としての解明がもっと進んで欲しいなと思った。

十三日

午前中内シャント手術。少し出血したりはしたがそれなりに無難に。
夜は当直。ぽつぽつ呼ばれる。

十四日

夜中、一度来た人が再来。一回目は軽症と思ったのだが、症状がなお続くというので検査し直してみると貧血が強いことが分かって入院に。
症状が強くない人って難しいね。

そのままオンコールということで病院にいた。昼過ぎに研修医と会ったら「当直明けで大丈夫ですか?」と。──そのマトモな感覚、忘れかけてたよ(涙)

十五日

休日。子どもと遊んで、髪を切って。
わたしが家にいる日は子どもたちが興奮するのか寝つきが悪いらしい。そういわれてもねぇ。

十六日

介護保険の認定調査員テキスト2009が発表されているというので見に行く。一読してなんだかあんまりな内容にちょっとため息。
たとえば「足の力が弱っていて、タンスを開けてズボンを取り出すことはできない。しかし渡されたズボンは何とか穿ける」これって自立? 普通一部介助とかって判定にならないか? ズボンを穿くという動作だけを切り出してそこは自立しているから介助の必要はないって判定になるらしい。
そのほか、「認知症で薬の管理はできないが、今薬が処方されていないので自立」「名前を問うと名字、それも旧姓しか答えられないのは一応間違った名前をいったわけではないので名前をいえると判断」「毎日のように『昔はもてた』と言っているのは社会通念上作話ではなく冗談」などなど、香ばしい評価基準がいくつも。
こういう基準で要介護度を決めて本当にいいのかと思いますな。

十七日

中川財務大臣が朝にはやめないといっていたのが夜には辞任。そりゃー記者会見のときにメロメロだったとなれば原因の如何を問わず問題行動ですわなぁ。
はじめこの記者会見でのエピソードを聞いて「脳梗塞でも起こしたか?」と心配したのだが、どうも元来酒のトラブルが絶えない方であるということで、今回も酒が入ったせい説が濃厚らしい。本人は風邪薬飲み過ぎたと釈明しているようだが、過去にも朝から飲んでいたことがあるとかいろいろ。
CAGE法という有名なアルコール依存症のスクリーニングテストがあって、

  1. あなたは今までに、飲酒を減らさなければいけないと思ったことがありますか?
  2. あなたは今までに、飲酒を批判されて、腹が立ったり苛立ったことがありますか?
  3. あなたは今までに、飲酒に後ろめたい気持ちや罪悪感を持ったことがありますか?
  4. あなたは今までに、朝酒や迎え酒を飲んだことがありますか?

という四項目からなっている。中川元大臣、最後の項目は該当するようなので、他で一つでも引っ掛かるようならばしっかり精神科で診察を受けた方がよいであろうことになる。
日本は全体に酒飲みに対して甘いけれども、酒を飲んでトラブルを起こすことが繰り返されるのならば、アルコール依存症としての対応を進める方が本人のためと思うのだが、どうなのだろうか。

十八日

回診準備しつつ、カレーを出前してもらって食べて。
某上級医の先生の外来に通っていた慢性肺疾患とごく軽度の腎障害の患者さん。メインプロブレムは肺で、開業医の先生にも通っているのでそっちで診てもらっているんだろうと漠然と思っていたとのこと。本日来院したとき紹介状を携えていて、読んでみると「腎臓内科○○先生御中」の書き出しで「呼吸が苦しいことが増えて参りましたので慢性肺疾患に対して在宅酸素療法導入をお願いいたします」云々....。ちょっとまて。
某先生思わずそのまま入院指示書きそうになったそうですが。はたと我に返って呼吸器科に対応をお願いしたそうな。‥‥つーか、そんなとぼけた依頼をしてくるほうがちょっとアレな気がする。

十九日

楽天からインフォメーションのメールが来る。基本的にすべてごみ箱行きなのだが、今日きたメールには「三木谷浩史からのお願い」とあった。なんとなく中身の予想が付きつつわざわざHTMLメールを開けてみると、予想通り薬のネット通販禁止反対の宣伝。
「本当に困る人は誰なのか、一緒に国に伝えていただけませんか」だそうなんですが、そりゃあほんとに困るのは正確な情報提供もないまま薬を買わされる患者だわさ。ある意味薬売りってのは「制御された危険」を売り歩く商売であるわけで、副作用を防ぐことを使命の一つと思っている人間(もしくは組織)が売るべきものだと思う。
一方で商人としてはやはり商品の魅力は大きく伝えたいしデメリットは小さく伝えたいという思いがある。病院で製薬会社のMRの説明を聞いていても、やはり使いたくなるような表現が随所にちりばめられている一方で、よく見ると「実は他の薬と大して変わらない?」と思ってしまうようなポイントは小さく目立たないように書かれている。医者向けの資料ですらそうなのに、素人向けのインフォメーションがリスクをきちんと伝えるものになるとは思いにくい。そこを補うための専門職の介在であるはず、だと思うのだが、違うだろうか。

二十日

夜の間に緊急入院があり、朝から合計三人の緊急入院。
ぐえ、って感じで。すこうし患者が減ったタイミングであったのは幸運だったのだろうきっと。

二十一日

朝起きて食事もそこそこに電車に乗る。道中で「パララバ -parallel lovers-」(静月遠火/電撃文庫)を読了。
携帯電話がふたつの世界をつなぐ、ってモチーフは「君にしか聞こえない -Calling you-」(乙一/スニーカー文庫)で読んだなあ、と思いながら読み終えた。雰囲気よかったんだけれど、「なぜふたつの世界に分かれてしまったのか」についてはあまり明確な解がない感じで、そこだけがやや不満だった。

朝起きしてどこに行ったかといえば東京ディズニーランド近くのホテル。相方から子どもを預かって家に連れて帰ってメシ食わせて遊ばせて。
ま、母親業にも休暇は必要だよね。しかし、専業主婦の休暇のためという面からももっと保育のキャパシティを増やす必要があると思うのだけれど、質を維持しながら量の拡大、という目標でやらないといけないと思う。
そんなことを思いつつ社会保障審議会少子化対策特別部会第一次報告(案)概要を読むと。根本的に保育所が足りないことからすべてが始まっている気がした。「現行の保育制度の課題」ではまず「利用保障の弱さ」をあげているが、財政状況を理由に保育所が足りないのはやむを得ないと言ってしまえる法体系になっていることがわかる。その後のii項では認可する都道府県が認可するのを渋っているようにも読めるが、後の方で無認可園の現状として小規模であったり調理室がなかったり保育士が少なかったりしていて、認可基準を変えないままでもっと認可を広げることには現状では限界がありそうに思える。iv項の「定員より(需要が)過剰になると窓口で需要を潜在化させやすい」という指摘は、根本的に保育の供給量が足りない中で当然に起きてくることを述べているに過ぎない気がする。
んで、解決策として話題になっているのが「直接契約」方式。市町村が現在認可保育園入園の仕切りをしているのを止めて、親と保育園の間の契約にしましょうということ。「入りたい保育園に入れる」と読売新聞書いたようだが、定員不足から色々な問題が起きている現状で、制度を変えれば入りたい保育園に入れるというのはおめでたい発想じゃないのか? 全国私立保育園連盟のページでの解説でも、デメリットの多そうなこの制度。何を考えているかよくわからない。

二十二日

ゆっくり起きて、買い物とか。
ショッピングモールに行ったのだが、そこの本屋で涼宮ハ○ヒのコスプレした少女発見。まあ「団長」って腕章を除けばやや派手だけど高校の制服なので公序良俗的にはオッケーかもしれないけど、かなり落ち着かない気分になった。

二十三日

週末にあれこれとあったトラブルをフォローして、午後には内シャント手術。タバチエールにて。やや時間はかかったけれどもなんとか成功。

二十四日

外勤。風邪の嵐は大分落ち着いてきて。善哉善哉。

二十五日

穏やかに過ぎたせいか、回診の準備も滞りなく。比較的早めに帰れる。

二十六日

総回診終わって一息ついた夜に、長期入院の患者さんの病名つけ。
現在の保険診療の規則としてはすべての検査・処置・投薬に何らかの病名が必要である。病気の疑いがあるから検査を行い、診断のついた病気に対して処置や投薬を行う、ということになる。
しかし現在多くの病院で導入されているDPCと呼ばれる診療報酬の計算方式は包括払い方式で、入院の際には主要な病名を一つ設定し、病名と入院期間で診療報酬が決まる。細かくどんな病名のもとにどんな検査をしたのかチェックされないので、入院患者だけみているときちんと病名を付ける意識がなくなるという側面もある。一方で標準偏差の二倍を超える長期入院の患者さんではDPCは適用されず、従来通りの出来高払いに戻るため、病名付けが発生する。こういう作業は初めてということでルールから簡単に概説し細かくチェックしてみる。
原則論に沿った対応をレクチャーしてやらせてみると「疲れた」とご感想が。そりゃあそうだろう、わたしも過去にこれでさんざん疲れてきたんだから。(笑)

二十七日

本日は夜にローテーション研修医の歓迎会開催予定、としていた。
昼前にふらっと透析室に現われた研修医、「僕今日当直でした‥‥」 まあ、そーゆーこともあるけど、早く気がついておけば代わってもらったりもできたのにねぇとか、話をする。
んで、別の研修医と話しながら「ところで先生の次の当直は?」「あ、まだチェックしてないです」「ここに当直表貼ってあるけど、次の月曜日だよ?」「‥‥げげ、発表の前日だ。」
固まっている研修医みながら大笑い。代わってもらう交渉はできたのかしら。

二十八日

アルバイトで高速乗って透析診療所へ。外来透析の回診やって、昼食食べて帰ってきた。
昼にはお弁当を買って来てくれたのだけれど、正直職員の人たちが食べている食事の方がローカロリーでよさそうだな〜と思いながらみていた。


Written by Genesis
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