歳時記(diary)：一月の項

一日

今年もよろしくお願いいたします。
朝もはよから病院へ出勤。今のところ緊急入院もなしとのことでほっと一息。

帰ってきたところで軽く年賀状チェックして、「不全世界の創造手」（小川一水）読んで。
年賀状のデータをアドレスブック.appに入力してから、「そういえば出力に適したソフトあるかな」と探してみると、葉書ABなるソフトがある様子。アドレスブック.appはラベル出力の機能は持っているのだけれど、葉書出力というとまたちょっと違うからねぇ。

透析日。まあまあ落ち着いて過ぎる。
調べ物していて知ったのだが、最近日本ではじわじわと出生時体重が落ちてきているらしい。「小さく産んで大きく育てる」は理想のように思えるが、あまり小さすぎるのは胎内環境が劣悪であるからという可能性があり、実際とある研究によると出生時体重が3500-4000gくらいが一番２型糖尿病の発症リスクが低いとか。腎臓にしても、出生時体重が3200gから2600gに減ると腎臓糸球体数が30%減るとの由。ほかにも高血圧とか冠動脈疾患などに出生体重との関連がはっきりしているとのこと。
メタボ対策は生まれる前から、って気の長い話なのだが、少子化に苦しむ日本のこと、生まれる子供たちへのケアには気を遣いすぎということはないのではないかなと思ったり。保健衛生指導のレベルは高いんだしね。

三日

相方の実家の岡山へ帰省。
ネックはお子様たち。これまで帰省したときは新幹線だったけれど、車内でおとなしくしていた例はなく。唯一あるのは日中さんざん歩き回らせて車内で爆睡していたときだけ。いろいろ考えて朝車で羽田に出て飛行機で岡山に飛んだ。機内はかなり空いていて、飽きてくる前に何とか到着。

そのあとは相方のご友人宅へ伺って、しばし歓談してから宿へ。夜は相方が同窓会の間子供らの面倒をみていた。

四日

チェックアウトの後、相方友人とお会いした後に義妹宅へ。新築のお家をひとわたりご案内いただいて、お茶飲んで。
帰りのチケットは取るのが遅くなった関係で最終の飛行機しか取れず。子どもたちが機内で爆睡するのを期待したら、空港へ向かう車内で爆睡して、機内ではしっかり起きていた...。orz

五日

仕事始め。
「年末年始はべた凪だったねぇ」と話をしていたら、「べた凪って表現は久しぶりに聞いた気がします」と某研修医。──一般的表現だと思うのだが。

六日

「風神秘抄」（萩原規子）に手を付ける。「薄紅天女」と雰囲気が似ている、かもしれない。草十郎のオクテさが相通じるのかも。

七日

今週から新しく研修医が腎臓内科にローテーション開始。まだ動きが慣れない感じでちょっと心配。

透析室で某上役に呼び止められて。「今度の透析学会に演題発表してね☆」とのこと。「抄録締め切りいつですか？」「今度の月曜日」‥‥はい？
三日ほどで抄録書いて登録せよとのお達しで。やはりすさまじきものは宮仕えなのかと溜息をついたりして。

八日

昨日の件は、結局別な演題を登録することに。ほとんど抄録はできているのでそれを書き込めばいいよ、といわれたのだが。
「その内容を紙にしろってボスのご意向だ」と。「PowerPointをプリントアウトするだけじゃ駄目ですか？」って聞いてしまいましたさ。紙＝Paper＝論文、ってことで。ある意味、グレードアップ？

九日

ルーチンワークが詰まった一日。幸い突発事態が発生することもなく割と穏やかに。
帰ってみたら子どもたちは珍しく早寝していた。子どもが起きているうちに帰れるのは土日くらいのことが多いからなぁ‥‥orz

十日

オンコールで出勤。透析室の鍵を閉めての帰りがけ、単車のキィをロッカーに忘れてロッカーに戻り、単車に乗って走りだした後で透析室の鍵を受付に返すのを忘れたことに気付いた。なんだか鍵でたたられた日のような気分に。

十一日

地元に戻って木々の剪定。落葉した後の枝をばさばさと切り落とす。葉がないぶん作業は楽なのだけれどそれでも半日たっぷりとかかった。
手伝ってくれた義弟に晩飯を奢ってから帰ってくる。

十二日

透析日ということで出勤。週末の間落ち着いていて何より。
帰ってきてから子どもの誕生祝いなど。NHKがやり始めた「獣の奏者エリン」の録画も観たりして。

十三日

外勤。風邪がかなり流行っているらしい。

合間で「風神秘抄」（萩原規子）読了。平安末期を舞台にボーイミーツガールなお話。坂東武者がからむあたりとか男性キャラの目線で物語が進むあたりとか、「薄紅天女」と似ているなと思った。集中して一気に読めるだけ、面白かった。

夜は新年会。まあ、宴会多いよね‥‥。

十四日

ばたばたしながら回診準備。回診の夜は午前様近くなるのがルーチンワーク、ってのはあんまりよくはないけれどねぇ。
ウチのボスがテレビ出演しているのを視聴。「うつむき加減なのはいまいち」とか「回診の時の方がかっこよく見える」とか言いたい放題。まあちょっとした息抜きで。

十五日

回診終わって午後は久しぶりに余裕があり、八時前には帰路につく。それが珍しい、というかなりアレな環境。

十六日

金曜日は翌週の手術と入院を決める日。しかし内シャント手術が一件うまく入れてもらえそうになく。「じゃあ今日やってしまおう！」と上の先生が燃え始めて急遽夕方から緊急手術。
やや手間取りながら血管吻合までは行ったのだけれど、血流解除してみると吻合脇から出血があって、そこを縫い止めると今度は血流が遮断されたようで‥‥。結局血管吻合し直しと相成ったのだけれど、結果的にはうまいことシャント造設完了。八時までかかったけれどね。

十七日

日当直。並行して血管炎患者への血漿交換療法。
患者さんの息子さんは本日センター試験、と聞いた。親が急病で入院中にセンター試験、というのも気が気ではないだろうけれど、なんとかいい結果で終わって欲しいな、と思ったりする。自分の病気が周りに迷惑をかけている、と自責的になる人は数多くいるから、せめて実力通りの結果であれば少しは気が軽くなるのではないかな。

十八日

前日九時過ぎに寝て、目覚めると四時。‥‥呼ばれないじゃん、ラッキー。結局そのまま朝まで呼ばれずじまい。
その後家に帰って子どもたちの世話。子どもたちは日中は父親を遊び道具にしているのだけれど、眠くなるととたんに不機嫌になって母親を探し始める。安心できる場所があるのはいいことなのだろうけれど。

十九日

今日も午後にシャント手術。なんだか続くなぁ。
体格の小さい高齢の方で、血管もけして太くはない。まず血管の様子を見ようと切開してみるとそれほど悪くなく、そのまま造設。血管吻合が一発でうまく行かないのも前回に引き続きだったけれど、それでも何とか自力で修復。
少し慣れてきた感じはする。

二十日

外勤行く車の中で、常用漢字改定案がまとめられた話が出ていた。その中で「常用漢字表に定められた読みに従うと『日本』を『にほん』と読めない」なんて話題が。これは一種の熟語なのだろうからこれはこれでよいのだろうけれど。
歴史的には「日本」→「にっぽん(nippon)」→「にほん(nihon)」なのだそうだ。

二十一日

患者さんの動きは少ないのだけれど、全体に問題を抱えた方が多く。経過を見るだけじゃなくていろいろ頭を使う人が多くてやや難渋気味。
‥‥明日の回診もイロイロありそうだなぁ。sigh

二十二日

午後一人緊急入院。聞いたことのない病名の人。
‥‥んで、上の先生に「スマン、俺にもよくわからねぇ。任せる」とか言われましても。とりあえず文献をみてみようと医学中央雑誌を開いてみたら、役に立ちそうな論文はみんな英語で書かれてるし。

二十三日

昨日の緊急入院の人でわりと頭が一杯。
謀議を繰り返して小出しに方針を決めていったので受け持ちの研修医が混乱したんじゃないかなぁ。ごめんね。

二十四日

日中買い物にでて、それから当直バイト。行きの道すがらで「推定少女」（桜庭一樹）読了。
巣籠カナの頭の中で起きたことと現実に起きたことと、もしかしたら何かしら「起こったのだけれど起こらなかったことにされた」こととが入り交じっている感じで真実とか事実とかを後からつかみ出すのが難しい感じのする流れだけれど、面白く読んだ。ちょっと辛いけど。
桜庭一樹の（ライトノベル時代の、とでも呼ぼうか）作品たちはどこか閉塞した登場人物が多い感じがしている。それは巣籠カナもヴィクトリカも海野藻屑もそうで。最近の作品は読んでいないので今の作品でそれがどう変わったのかは語れないのだけれど、久城一弥の様な前向きキャラが好きなので、閉塞感から抜け出すお話が読みたいなぁと思ったりする。

二十五日

Yahoo!Japanをみていたら、薬事法改正に反対する署名へのリンクが張られている。医薬品のオンライン販売に対する規制が強められることについての反対署名なのだが。
いま考えられているのは一般用医薬品のうち第一類・第二類については対面販売や書面での薬剤情報提供が義務付けられていることからオンライン販売を禁止とし、第三類のみ可能、とするものであるらしい。
規定自体は妥当なものと思える。後は、どの医薬品をどこに分類するかという個別の評価をきちんとすればよいように思えるのだが、反対派としては第一類から第三類まですべてオンライン販売を容認するように主張している。一類にはスイッチOTCと呼ばれる医療用から一般用に切り替えられた薬剤も含んでいて、それほど気軽に売りさばいてよいものには思えないのだが。
また、反対論のWebを読んでいて「足の悪い高齢者・動けない障害者の利益にならない｣という記載には目を疑った。そんな人がリスクのある薬を自分で買って健康管理することが本当にいいと思っているのかと。反対論の議論の中ではしばしば消費者という言葉が出てきたが、わたしに呼ばせれば「患者｣であって。藁をもつかみたい思いでいる患者への対応と、必要かどうかを判断して不要なら買わなくていい消費者への対応は変えるべきではないか。健康問題を抱えている患者に対して、リスクは自分もちと言い放つのは強者の理論であるように思う。
一方で薬事日報Webの記事で指摘されていること。「規制で必要はなくならない」ということ、規制が却って需要を地下にもぐらせ、密売で利益を上げる人間が出るようでは問題がある。ただまあピルに関しては学校現場とかが変にタテマエ重視してそういった方面の教育を行わないということも問題で、性については正確な知識がないままに問題が起きてもすぐ隠そうとする。ピルやコンドームのことが高校生の必修になってくれるといいと思うのだが。

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