歳時記(diary):十一月の項

一日

土曜日オンコール。
今週は平穏に、と思っていて比較的平穏だったのだが、昼過ぎになって「イレウスの患者さんにPMX-DHPを‥‥」って電話が。うぐぅ。
まぁ腎臓についてはあまり悪くはなく。呼吸状態は良くなかったが‥‥。

二日

相方が散髪している間、子ども二人を公園で遊ばせる。天候もよくてのんびりと。

「魯山人の美食」(山田和/平凡社新書)を読む。料理本として面白い。レシピの分量は適当、ってあたりも。適当に作ってそれなりにうまいものが食いたいわたしのような向きにむしろよいのではないかと思えた。

先日の妊婦脳内出血死亡事案について、舛添厚生労働大臣と石原東京都知事との鞘当てがあったみたいなんですが、墨東病院の体制が厳しいことについて地域の医師会から陳情が出ていたのに都は返事をしていなかった由。こんな状態で「国に任せていられない」とか大見えを切ってもねぇ。まあ正直なところどっちもどっちなんで、あんまりこの話題でひっぱっても仕方がないかと思います。
事件後に早速都は増員へ向けて予算配置を検討しているみたいですが、ぜひ全都立病院の欠員を明らかにして、それが補充できるように手を打っていただきたいと思います。実際問題としては医師の絶対数不足が基本なのでちょっとその気になれば定員充足できるなんてことは思ってませんが、少なくとも今いる医者が辞めないようにするとかパート・アルバイト医で業務の一部なりと置換して負担を軽くする役には立つと思います。

三日

祝日だが透析日、ということで出勤。
全体としては患者さんが落ち着き傾向なのでよいのだが、熱心な研修医にとってはやや手が空きぎみ。「緊急入院いないっすかねぇ」とか不穏なことを曰う方も。まぁいいけど。

四日

朝車を飛ばしながら、小室哲哉氏逮捕の報を聞く。借金がかさんで‥‥なんて報を聞きながら、同じように億単位の借金を抱えたことがあるさだまさしのことを考える。片や詐欺に手を染めて留置場に入り、片や地道にコンサートやアルバム発売を積み重ねて完済に至る。
借金なぞに負けず、地道に正攻法で借金返ししながら楽曲を発表して欲しかったと思っているファンも多いと思うので、残念だなあと思った。

五日

ボスが明日から海外の学会出張ということで一日早く総回診。軽くチェックを入れる。
その後は緊急入院見たりどたばたと。

六日

定例だと総回診、なのだがその時間がぽっかりあく。すき間を見つけて職員検診受けた。

じゃあ暇だったかというと緊急入院はいったりとやはりあまり落ち着かず。そのまま夜は当直だった。

七日

当直はほとんど呼ばれず。そして朝から透析。一人で次々と穿刺して透析開始。全員透析始まるまでが一番しんどかった、かな。

夜は居残りの研修医たちと飲み会。

八日

危ない感じだった患者さんが看取り、ということで未明に病院へ引き返す。最後のご説明をして、見送りをすると朝。
当直したみたいな睡眠不足だったので、午後に昼寝。

「ばいばい、アース」(冲方丁)を読了。言葉遣いにリズムがあって、意味はわかるというより感じる感じで引き込まれる作品。面白く読んだ。

九日

オンコールで出勤してそのまま夕方まで。
昼飯喰いながら研修医諸君らと臨床研修のあり方であーだこーだとまとまらない話を。大病院ほどそれぞれのセクションに思惑が渦巻いてて、統一感のある研修にならないなぁなんて感想を抱いた。

十日

「夏休みは、銀河!」(岩本隆雄)をようやく上巻読了。温かくて、少し不思議な、おなじみの感じがする岩本ワールド。久しぶりで心楽しく読み終える。

十一日

外勤の日はラジオ聞きながら往復するのが日課になってきている。感じるのはテレビよりものを考えた発言が聞かれる気がする、ということ。やはりテレビ受けするコメンテーターはある程度ビジュアル的なものが強いのかも知れないし、リスナーからの投稿という形で練られた意見が出てくることが影響しているのかもしれない。
ラジオのトークとテレビの報道バラエティの温度差、ってものは確かにある気がする。

十二日

入院もなくまったりと回診準備。平穏は好きなんだが手すきの研修医としてはもっと患者が欲しい、とか。(死)

十三日

総回診して、その後はさしたるイベントもなく。‥‥なのに仕事はあまり進まない。なぜだろう。

十四日

仕事終わった後で今回ローテーションの先生方のお疲れさん会。飲んで喰った後二次会でカラオケ。気がつけば未明の三時。けっこう珍しいかも。
ちなみにその場には翌朝(というか六時間後)にはオンコールで朝回診するはずのメンバーも三ー四人いた‥‥。

十五日

朝から車で家を出る。前勤務先に寄って腎臓学会専門医試験のための症例要約作成。ちょうどそんな時期なもので‥‥
認定医とか専門医とか、名前は微妙に違うけれど大体同じ。資格取得のためには学会加入歴が○年、学会認定の研修施設に在籍が○年などと決まっていて、それを満たした上で必要な症例経験があることを示すために経験症例を選んで要約を提出する。外科などは手術を○例やっていること、などとあるので要約自体はシンプルで、数が必要だったりするし、内科認定医は各分野からまんべんなく症例を選ばないといけない。考察も含めて症例まとめを作って出願して、ペーパーテストを受け、総合評価で合否が連絡される。
ま、基本はお受験であるわけで。認定を受けたら数年おきに更新をしてと、今後もさまざまなかたちでついて回る。しち面倒くさいがやむを得ない。
結局この作業に日付が変わる迄かかる。意外と眠くならないものだなぁ....。

十六日

甥っ子の七五三祝い。久しぶりに兄妹三人の子供達(計六人)が勢ぞろい。騒ぐ子マイペースな子等々さまざまだが全体としては大騒ぎで。
とりあえずおめかしした子どもの写真撮るのはそれなりに面白かった。

十七日

今週から研修医の一部配置替え。新しい研修医のキャラを掴むのにすこうしかかりそう。

十八日

「夏休みは、銀河!」下巻も読了。最後のノゾミマン集合写真のエピソードが好き。

帰ってきてテレビをつけていたら「極光」を放映していた。「誰も知らない泣ける歌」さだまさしにはたくさんあるなぁと思いつつ見入る。

十九日

ネフローゼで入院している学生さん(♀)がいる。体調はよくなっているのだが薬が減るまで、ということで長期入院中。
ヒマな間にガンプラ作っているらしく。百式が屹立するベッドサイドというややシュールな光景が見られたのだが、今日朝回診したときにはダンバインのプラモデルの箱が。‥‥放映時生まれてないんじゃないのか?

重症患者を受け持っている研修医が「人によって言われることが違うのでどちらが正しいのか迷う」と。重症患者ほど医者によって評価がまちまちで、専門や視点の違いからいうことは大分変わってしまう。場合によっては全く逆のアドバイスをくれる医者もいて、それを全部聞くはめになる研修医としてはどちらへ進んでいいのか迷ってしまうのは自分も経験がある。
多分正解を知っているのは神様だけで、人の身でそれを事前に知るのは不可能と割りきるしかないと思う。けれども奇跡を起こすのは人の手でしかなくて、その時その時の最善を考えていくしかないのだろう。

二十日

朝いつもより早起きして集中治療室の朝回診へ。集中治療室でのレスピレーター管理中の方について少々相談を。研修医のプレゼンを補足しつつ自分の疑問を提出して。集団的に討議して方向を決めるのはそれなりに手間がかかるけれど、きっとよい方向へ進めるはず。

二十一日

朝から大分病棟が荒れる。
救急車で他院から転院して来た人は調子が悪いし、外来から緊急入院は入るし。ある研修医がぼそっと「ANCA血管炎とTTPはセットでくるんですね」と。ああそんなこともあったなぁと思いました。
おまけに上の先生が学会出張で午後からいなくなってしまうし。「んじゃ、俺そろそろ広島行ってくるから。お土産何がいい?」とのんきにいう先生に間髪入れず「酒を。もみじまんじゅうなんか却下です」と言いきった研修医(♀)、他にもなかなかトバした発言をかましていて、疲れてるみたい...。

二十二日

オンコール。朝から出勤して血漿交換療法を。

集中治療室で現在管理中の重症患者さん。病態は肺炎で現在腎疾患はかけらもなし。なんで腎臓内科受け持ちかといえば、「これも縁って奴ですかねぇ」とでも言うしかないような。ま、重症管理の基礎は全身管理なんである意味やってることは腎臓内科の仕事なんですが。

二十三日

日中ちょっとお買い物して、夜は某匿名ネットニュースのオフ会。すでに二十世紀は遠くなり、ネットニュースなんてものも消滅の危機にさらされているのだが、それでもなんとなく集まる男女七人。
わたしはお医者さんの喋り方をする、のだそうだ。普段まったく気を遣わずに喋ると自分のことばかり喋るのを一応自覚しているので、おしゃべりモードが持続しないように適宜スイッチを切って話聞きモードに入れるようにしている。抑えてばかりだとつまらないのでその辺は調整しつつ。んでまぁ、この話聞きモードの時の喋りはお医者さん的らしい。毀誉褒貶どれに当たるのかわかりにくい評価ではある。

二十四日

祝日出勤。それなりに大荒れな感じで業務は過ぎ‥‥そして昼過ぎで抜けて電車に飛び乗って前勤務先へ。腎臓専門医出願のための症例要約の最終チェックを受けに。指摘された問題点に修正を加えてプリントアウトを作って終電に飛び乗って戻ってくる。
‥‥でも承認のハンコを押してもらったプリントアウトの回収をどうしよう。明日もう一回行くようかなぁ。

行き帰りで「夏空に、きみと見た夢」(飯田雪子/ヴィレッジブックス)を読む。読み終えて思い出したのはさだまさしの「記念樹」。切ない話好きなのでとても気に入った。

二十五日

外勤出て、仕事終えて病院へ戻り。ハンコを押してもらったプリントアウトは事務の人が気を利かせて速達で送ってくれたので受け取る目処が立ち。やれやれ、ではある。

二十六日

入院も多く患者も多く少々あっぷあっぷ気味‥‥自分ひとりでこなすなら何とかならんこともないのだが、研修医を指導して主治医と調整をしながら方針を決めるのは何かと手がかかり。その分いい診療をしていると思うしかないか。

二十七日

総回診。都合で遅れて始まって遅れて終わる。

夜は歓送会、だったのだが、病棟患者急変で来られない先生複数(歓送対象者含む)。まぁやむを得ないとしか言いようがないのだけれど。

二十八日

今週ついに一度も自宅で夕食を摂らずに過ごしている。今日こそはと気合いを入れていたのだが、夕方八時に患者急変が。見捨てて帰るのは人としてどうよとか言いながら、やっぱり好きなんだろうなきっと。
ちなみになんとか遅くはなったけれど夕食は自宅で食べました。

二十九日

午前中子ども連れて日帰り温泉して、その後水戸方面へ。偕楽園をそぞろ歩く。整備したのは徳川斉昭というので幕末に近くなってからできたということを初めて知った。
子どもが道で座り込んで何かしていると思うとどんぐりを拾っている。──やはりこういうのは男の子の習性なのだろうか。

そのあとは当直バイト。久しぶりに忙しい当直。

三十日

夜半から若い患者の急変で右往左往。小さい病院なのでとても診きれる患者とは思えず、専門病院への転送を当たったが日曜日にそれはなかなか難しい。
結局遠くの大学病院まで電話をかけて当面の対応を教えてもらって明日以降に、ということにした。

帰ってくる途中で「RDG レッドデータガール」(荻原規子)を読みかける。これまでの作品と雰囲気の違ったファンタジー。さて、どう展開するか。

頭の中にフレーズだけ残っている歌を検索すると正しい歌詞がヒットする時代になったのはきっといいことなんだろうな。
本日の収穫は「おふろのうた」


Written by Genesis
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