歳時記(diary):十月の項

一日

月替わりで、新しい研修医がローテートしてくるのだけれど、初日はオリエンテーションということで大したことはできず。──故に研修医がやっていたルーチンワーク+普段の自分たちの業務+翌日に控えた総回診の準備が降ってくる。おまけに外来から二人の入院依頼が。
少々テンパりながらそれでもそれなりにこなし、夜は黙々とカルテ整理。
‥‥その途中で消化器外科の先生から電話。消化管穿孔の緊急手術をするのでPMX-DHPをお願いするかも、と。回診の準備が終わって、そろそろかなと手術室の様子を見に行くとまだ現在進行形の印象。ちょっと時間潰しにネットみたりしたあと一時過ぎでもまだまだ現在進行形。一旦寝ようと決めて横になったのが二時過ぎになっていた。

二日

四時頃に電話が鳴る。手術終わったのでPMXお願いします、と。やおら起き出して機械セットして病室へ。もろもろ終わったのが七時、でありました。

それから総回診。それほどきつくはなかったけれど、終わった後はやはり疲れが。

三日

夜はそれなりに寝たんだけれどやはり疲れが残る。
腎不全精査で入院の患者さん、それじゃあ手始めに腹部超音波をやりましょうといって服をはだけてもらうとお腹の真ん中がぼっこり。これはと思って超音波で見てみるとしっかり膀胱が巨大に拡張。尿道バルンチューブを挿入すると合計3L程の尿が流れ出る。
「赤ちゃん一人分ですよ」などと患者さんとお話していた。機能障害ではあるのだが、ご本人が「やあ、お腹がへこんですっきりした」などとのんびりしたことを言っておられるのでこちらもややのんびり。

四日

土曜出勤して様子伺いして、その後子どもと遊んだり。
気がつくと下の子どもがしっかりつかまり立ち自立。あれやこれやとものを掴んでいじり回してなめ回して。上の子どもはおしゃべりの内容が自律的になってきて、自己主張もたくさん。面白いと思いつつ相手をする。

夜は土浦花火大会へ。会場近くはえらい混雑で道も大渋滞。少し離れたところで腰を下ろして場所とりしたけれど、十分に堪能。子どもははじめ大きな打ち上げ音に驚いていたようだったけれど、花火の綺麗さには見とれていて、そのうち音にも慣れて楽しんでいた。

五日

オンコール、ということで朝から病院へ。この日は腎臓内科の相談はまずわたしのところへ来る予定になっている。少々緊張しつついたけれど、おおごとはなくて何より。

六日

十月からローテーション変更になった先生方も少しずつ動き方がわかってきたみたいで、動きがよくなっているのが何より。
初期研修のなかで専門科の診療をどこまで深くわかってもらうか、難しいところもあるのだけれど、まずは考え方、姿勢を学んでもらえればいいのかな、と思う。

七日

外勤日。‥‥出かけた後で相方の体調が崩れる。
なんとか無理言って早めに帰る。戻った頃には大分調子が戻ってはいたけれど、代わりに子どもの世話をしていた。
ちょぴっとだけ、子どもの調子が悪くなって呼び戻される母親の気持ちが分かったような気がしたり。

八日

当直。救急車は別の先生が診るかねあいもあって少なくて何より。
合間で「図書館革命」を読んでしまう。

九日

午前中に総回診。研修医の先生方は緊張しておられたようだが比較的こともなく。
病態がはっきりしていないで議論になったのが高齢の腹部手術後の方。認知症もあるようで採血に行くと嫌がって説得が大変。当然検査を進めるのにも骨が折れる。断片的な情報からどこまで迫れるか。そして、どうやって治療するか。

十日

サイバーダイン社のロボットスーツが一般販売だそうな。医療機関で導入するところがあってもいいかも。看護師とか給料も高いし人手不足だし、業務を軽減しつつ介助の能率を上げたらペイするんじゃないかな。もっとも事前に訓練が必要そうではあるけれど。

十一日

相方が鍼灸院に出かけている間、子どもをみる。もっとも車で送ってく途中で寝てしまったので起こさないように本を読んでいただけ。
そろそろ透析学会の認定医試験が近づいているのだが、勉強きちんとできてないんだよなぁ。

夜、貰った米を精米に。イナカなので探すとコイン精米機が道端に設置されている。半分ほど精米して残りは玄米のまま保存とした。

十二日

朝はよから起き出して電車に乗る。腎臓学会東部会。行きの電車のお供は「ブルースカイ」(桜庭一樹/ハヤカワ文庫)
会場は六本木ヒルズ。後で聞いた話だと会場費がべらぼうだそうで、見晴らしはよかったんだけど、もっと安いところで充分だったんじゃないかとか余計なことを思った。

早起きした理由は朝一番から始まる「百の腎組織Q&A」。事前予習した人向けのようだったのでちと解説が早い感じはしたけれど、これだけ多様な組織をまとめて解説してもらうとポイントがつかめる感じでよい企画だったと思う。
事前に演題のチェックがまるでできなかったので、その後は受付時にもらった紙を見ながらオーバービューを聞いて歩く。概論聞いててもまだまだ知らないことばかりだし。
それなりに勉強した気になって帰ってきたけれど、さて、これをきちんと生かせるか。

十三日

学会帰ってくると「ちょっとは勉強しよう」と思うのだがそれがあまり長続きしないのがいかんとも。

十四日

外勤。先週迷惑かけたので頭下げて歩いて。

十五日

外来から緊急入院が入る。担当決めて──そして、明日の回診に間に合うようにプレゼン準備。よく考えたら先週も同じ研修医に水曜日の緊急入院当てていたような。

十六日

総回診。大分慣れてもきた。

夜は研修医諸君の歓迎会。久しぶりにアルコールを入れた。前回の歓迎会以来かな....。

十七日

嵐の日。透析はルチン通りにあり、その上腎機能検査があって、加えて臨時で腎生検を予定。
なんとかすべてを終わらせられてよかった....。

生検結果を無理いって急いで出してもらう。蛍光抗体法でみる限りあまりよくなさそう.....がんばる、しかないか。

十八日

昨日腎生検した患者さんの安静解除。エコーで血腫を確認して、問題なしとして薬の投与開始。
そこまで見届けて前の勤め先へ。例年の行事、病理解剖者の慰霊祭。献花して、ご家族に病状説明をして。その後は腎臓学会専門医へ向けての症例まとめをしたりしていた。

明日は都内で試験、ってわけで永田町に宿を取る。向かう途中の電車が人身事故で遅れる。──やっぱり不測の事態をさけるために近くに泊まるべきだよねとか思ったりした。

十九日

日本透析医学会認定医試験。午前中でマークシート試験を受けて、午後に口頭試問試験。
口頭試問の時間みると4時、となっていたんだけれどマークシート試験が終わったのは午前11時。‥‥ヒマすぎ。会場界隈をほっつき歩いて「真昼の月 海街diary」(吉田秋生)「夏休みは、銀河!(上)(下)」(岩本隆雄)「ばいばい、アースIV」(冲方丁)「ミニスカ宇宙海賊(パイレーツ)」(笹本祐一)「キノの旅XII」(時雨沢恵一)と買い込んでくる。小人閑居してなんとやら、か。
試験の結果は知らん。多分受かるんじゃないかとは思うのだが.....。

帰りの道中で「ミニスカ宇宙海賊」読了。ヒロインが宇宙海賊してるのはプロローグとエピローグだけってのはどうよと思いながら。(笑)
やけに実戦的かつ裏技使いまくりな白凰女学院ヨット部って、実は宇宙海賊養成所だったりするんでしょうか。

二十日

午前中内シャントの手術に入る。「次は先生術者ね☆」とか気軽に言われましても、って感じではあるのだが。

二十一日

外勤日。外来から入院依頼を三件ほど。なんだか重たい人が揃ったなぁ....。

二十二日

水曜日は回診準備の日〜。でもって、緊急入院が入ったりする。必死で準備する研修医くんもご苦労なことではある。

二十三日

東京都内で妊婦の脳内出血による死亡が出たようで。痛ましくはあるのだが、日本の現在の救急の現状ではやむを得ないところかと。都立墨東病院が受け入れたようなのだが、救急救命含めて院内に存在するような病院で助からないのであれば、たとえ数十分早かったところで大勢に影響はなかっただろう。残念ながら。
少し前と比べてこの手の事案の報道も変わったな、と思った。第一報・二報くらいのところで「受け入れ病院は医師を呼びだして受け入れした」などの医療機関側の対応も調べて出てくるあたりとか。

二十四日

なんだか多忙。透析室が激混みだったり休暇の先生が二人いたりするのが主因だろうか。

二十五日

休日にも関わらず集中治療室での透析は三件くらいあるし透析室で緊急透析は二件あるし入院は入るしでさんざんな日。上の先生が気遣って注文してくれた昼食の宅配ピザも半分くらいしか消費されてなかったし。

職場との往復の途中のガソリンスタンドの価格表示がここのところどんどん下がっている。これまでの値段って一体なんだったんだろうと。

二十六日

「橋下知事、女子高生を泣かす」の記事を読んで思うのは、教育について、いいものには金がかかるという論法で学生・生徒の負担を増やせば、教育の機会均等は経済的要因によってそこなわれるんじゃないかということ。教育は買える人が買い買えない人は諦めるしかない様な嗜好品ではなく、権利ではないのかな。
奨学金制度についても、日本では貸与が中心で返済が必要であり、ある意味純粋に学問をやりたい場合には返済に不安が残るとか、収入要件が厳しくて兄弟が多いなどの収入も支出も多くて苦しい家庭には当てはまりにくいとか問題があるはずなんだが。そもそも親がほとんど払えない前提では、私学に行くのに充分なほどの奨学金が出ることはあまりないように思う。(わたしが高校受験の頃に調べた知識の範囲では)
「高等教育の無償化を漸進的に導入」と謳った国際人権A規約の十三条二項(C)を批准しない国だからこそ、の議論かもしれない。

二十七日

土曜日に苦労した人はそれでもやや上向いており。ちょっと一安心。

二十八日

昨日の夜スーパーで鶏の唐揚げを買って帰って食べ、今朝その残りを食べて外勤先へ行き、院内食堂で昼食を摂ったらメニューは鳥の唐揚げだった....。うぐぅ。

二十九日

明日は総回診、って日に限って緊急入院が入るのはどういうわけでしょうか。しかもそう急ぐ必要もなさそうな入院が。
上の先生曰く「入院の準備できてるって言ってたから」‥‥。

三十日

総回診して、午後は比較的のんびりして。
明日急ぎで上部消化管内視鏡を行うことにした患者さん。家族に電話すると「遅くなら説明を伺いに行けます」‥‥とりあえず「それでいいのでよろしく」と答えましたさ。院外の学習会聞きに行きたかったけどね....。

三十一日

なんとなくせわしい金曜日。
集中治療室に開心術後の透析患者さん。血圧低くて透析が危なっかしいのでCHDFを開始。‥‥徐々に血圧が上がっていくのはどうしたことだか。これ幸いと除水を継続、そのまま維持して翌朝まで回すことに。


Written by Genesis
感想等は、掲示板かsoh@tama.or.jpまで。リンクはご自由に。

日記のトップへ
ホームページへ