歳時記(diary):四月の項

一日

岡山帰省二日目。今日は相方のご学友方とティーパーティなど。
「でこぼこ工房」 の「どうぶつロボ」シリーズからキリンとゾウをプレゼントに持っていったのですが、キリンの足をたたんで「ホワイトベース」とかのたまわれたご友人一名‥‥。
一応「木馬ですか」と突っ込んでさしあげましたが。

ホテルの部屋に届いていた朝刊の一面で、病気腎移植について日本移植学会日本泌尿器科学会日本透析医学会、日本臨床腎移植学会の四学会が否定的な見解を出したとの記事を読む。
ま、全体としては妥当な結論だと思う。ただ、注意しなければならないと思うのは、病気腎移植という手段自体が完全に否定されるべきとは考えられないということ。否定されるべきはインフォームドコンセントが不十分であったり、実験的医療を倫理委員会などに諮らずに医師患者関係の中だけで処理しようとしたことと思う。それは和田移植や川崎協同病院安楽死事件などと通底する構造に、わたしには思える。
摘出し移植する対象となった疾患にネフローゼ症候群の症例が複数含まれていると報道されているのも不可解で。ネフローゼ症候群の患者に対してはステロイドを含む免疫抑制療法を行うのが第一選択で、手術を行うというのは多分どこの教科書にも記載されていないやり方と思う。しかも病変は両腎に発生するのが普通で、ネフローゼ症候群に対し腎摘出で症状緩和を行おうとするならば、根本的には両腎摘出になるはずで。透析に追いやるような治療になると思えるのだが。(詳細がもちろん明らかでないので、全くの推測でしかないのだけれど)
万波医師などがあくまで患者のために病気腎移植を推進しようと考えるのならば、堂々と法にそったやり方で、患者にも通常の移植に倍する丁寧な説明をし、できればセカンドオピニオンを受けさせた上で、院内の倫理委員会にも諮りながら進めればよかったと思う。適応患者もできるだけ絞り込みながら、実績を上げていく方が定着への近道だっただろう。
移植のなかなか進まない日本で、これ以上移植にからむ騒動を引き起こせば、移植に対するダーティーなイメージが形成されて、結果的に患者さんのためにならない。そこに思いをいたしながら、病気腎移植を推進していたようには、わたしには見えないのだが。

二日

岡山より帰宅。「ペリペティアの福音」を読みながら。
道すがらで古本を少々仕入れている辺りがまぁ宿痾と呼ぶべきか。

混雑した国電に揺られていたら、空いた席を譲られた。子どもを抱いていたせいだろうけれど、素直にありがとうと受け取った。

三日

出勤。けれど出向先に仕事を少し残してきたもので、午後そちらへ出かける。
何を残してきたって、保険請求関係の事務。病名付けに症状詳記。自分のやったことの説明を他人に書いてもらうわけにいかないしね。
道すがらの読書は「プリンセスの義勇海賊」

四日

透析の回診だけでひぃひぃ言っている午前。昼食摂るのも大分遅くなったしねぇ。

夜は当直。前ほどインフルエンザと診断されても患者さんがタミフルを欲しがらない。前は飲まなくても治ると説明しても「でも下さい」ってひとが多かったのだけれど。

五日

未明の受診患者さんは他院転送となり。もうちょっと早い時間に来てくれればよかったのになあとぼやいてみる。そんなことが判断できるようならばもちろん苦労しないのだけれど。

六日

外来の予約患者さんが少なめなので楽かな〜と思ったら、飛び込みで紹介患者が来るし再診の人もそれなりに手がかかる人が複数。普段以上に時間と精力を使ってしまいました。

ケータイアプリ版「ONE」が公開されているらしい。「泣けるエロゲ」の嚆矢となった作品をケータイアプリに、ってことなんだが、ホントにストーリーにはまりこんで電車の中とかでケータイの画面を見つめながら滂沱と涙を流していたらあやしい人だよな‥‥。

七日

こどもがぐずっていた休日。
未明から頻繁に目を覚まし、家にいても連れて歩いてもぐずぐずぐずぐず。半径一メートル以上離れないような感じで機嫌があまりよろしくない。あまり昼間寝なかったせいか夜の寝つきはよかったが。

八日

都知事穿虚選挙の投票を済ませてから家でのんびり。庭木手入れしたり窓ふきしたり。庭仕事は定期的にやらんといかんのだがなかなか手を付けられない。

九日

ニュースで終末期医療に対するガイドラインを策定しているとの報道があった。現状、ルールもガイドラインもないということで、積極的に「治療をしない」という対応がどこまで認められるのか、瀬踏みをしながら対応している感じ。下手をすれば殺人罪ということで、どうしても現状維持から過剰診療に傾くのは確かだと思う。
「まったく点滴しないのはマズいだろう」などと相談して、申し訳程度の点滴をしたり、終末期に肺炎を起こせば抗生剤の点滴が始まったりしているのが実際のところ。「こういう状況下で、こういう手段は許容される」とはっきり決めることは大事だと思う。
もっとも、治療方針決定には本人の同意があることが大前提なのだけれども。そこは崩してならない一線と思う。本人の意向を無視して治療に手を抜かれる可能性を危惧する人もいて、その心配はもっともと思う。現場に患者とよく話し合う時間を保障してもらえれば少しは違うと思うけれど。

十日

午後から新入医師へのオリエンテーションで話すために大塚へ。道すがらの読書は「微睡みのセフィロト」(冲方丁/デュアル文庫)「蛇行する川のほとり」(恩田陸/中央公論新社)。
そのあと地元にとって返して、親兄弟と宴会。アメリカ在住の妹夫婦が帰国しているので家族揃ってメシを喰うことにしたわけなのだが、大人が祖母に両親、長妹夫婦と末妹夫婦とウチとで計九人、子どもが三歳・二歳・一歳・一歳・十一ヶ月の計五人と来ると──まぁ、大騒ぎ。子供達も興奮してばたばた走り回っているし、遊ぶし。笑って見てくださっていたお店の方に感謝。

十一日

昨日の宴会に行くところをボスが通りすがりに見たらしく。よく分かりましたねぇと話していたら「いや、あんな帽子かぶってるのは君くらいだから」──普段愛用してるのはどってことない八つ継ぎのハンチングなんですが。

一応驚いて欲しいなと思いますが。
厚生労働省的には以前もちょっと書いたんですが、全面的に医師の労働条件が労基法違反だと認めると手入れしなきゃいけなくなって、その結果病院が夜の救急を全面的に閉めたりすることで社会不安が増すことと危惧しているのではないかと邪推しています。病院が潰れること自体はあんまり気にしている風ではないのですが。
リンクしてある国会質疑のなかでも話が出ている通り、基本的には絶対的医師不足があって、その結果としてひどく足りなくてにっちもさっちも行かなくなった分野と、まだ何とかなっている分野があるってことなんだと思うんですよ。ただ国としてはそれを認めたくないのでしょうが。

十二日

昨日の話の続き。そういえばしばらく前に自分の労働時間の平均を計算してあったことを思い出した。

十三日

willcomからPHS端末のアップグレードキャンペーンとやらのお知らせが届く。オンラインストアでPHS端末を買い換えると割引になるということでさっそく申し込もうとしたら、Macintoshを使っているせいなのか申込フォームがうまく動かない。
‥‥(-_-メ)

後日再トライしたら何故か今度は問題なく成功。よくわからん。

十四日

土曜出勤して、夜泊まり。
当直中に原因の掴みにくい腹痛が主訴の男性来院。血液検査・単純X線検査ともいまひとつはっきりした異常がないように見えるのだけれど、どうも症状が重い。
実はこういうときの「イヤな感じ」は当たっていることがしばしばあって。この方は結局解離性大動脈瘤と診断されて専門施設へ転院となった。
間違わなくってよかったよかった。

十五日

当直終わって家に帰り。買い物行ったりオイル交換したり。

近所のStudio Aliceで子どもの写真でも撮ろうかとのぞきに行ったら、大混雑で数時間待たされるというのでさっさと撤退。なんでも大安で日もいいのでお客様が多いとかなんとか。
わたしらは普段着で行ったのだが、店の中の人々を見ると子どもがお仕着せをいろいろ着せられているのはいいとして、大人も思いきりよそ行きを着ているので、ここまで気合いを入れなきゃいけないものかとちょっと恐怖。
しかし、このままいくとウチのガキの写真は鼻水たらしたままにっこりしてる写真しか残らない危惧もあり。まあそれはそれで寝太郎みたいでいいのかもしれないけれども。

十六日

最近めっきり本読まなくなったなぁと慨嘆。電車通勤止めたからなんですが。
またしたいとも思わないけれど、本が読めたことだけはよかったなと振り返る。

十七日

相方に新しいPHSが届く。でもアドレス帳の移行ができないということでネットを探したらあっさりそれ用のツールが見つかりダウンロード。
京ぽん→京ぽん2と買い換えていたことに後から気づくお馬鹿‥‥。

十八日

帰りがけに自宅に電話すると、「夕食作ってない」とのお返事。まぁ疲れてそんな日があってもいいだろうということで、ピザの出前を頼んで晩ご飯。
しかし、喰った後は咽喉が渇く。やっぱり塩分制限は大事だなぁと今更に思う。もっとも、Mサイズのピザ2枚を2人で片づけた辺りが問題かもしれず。

十九日

麻疹流行中とのことで。
歴史をさかのぼるとポリオの生ワクチンとかも輸入するのは母親運動が先行していた記憶が。初め緊急輸入で対応、その後国産生ワクチンとなったようですが、どうも現在欧米では不活化ワクチンの方が主流のようですな。
他にも欧米他で接種されて大きな効果を示しているHIB(Haemophillus Influenzae B)ワクチンはまだ日本では公費接種はおろか薬事法での承認を得ていないため予防接種ができない状況。髄膜炎は怖い病気なので、予防接種くらいで防げるならさっさとやった方がいいと思うのだが。
どうも、予防接種というと(効果はともかく)副作用の話が喧伝され、安全性がやたらと重視されているように思える。安全性はもちろん大事な話なんですが、たとえば予防接種やらなきゃ日本国内でとある病気を千人が発症して十人死亡、一方やったら副作用が百人に発生して一人死亡という統計が出ているとしたら、予防接種やるべきなんですよきっと。そういったこと考えずに薬剤の安全性だけ慎重の上にも慎重に検討するって審議はなにか間違っている気がする。

夜、飲み会して二次会はビリヤード。ナインボールなんてやったの初めてだけれど、結構面白かった。

二十日

外来。予約患者二十人、要した時間は三時間半。

夜は院内のCPC。血液疾患で化学療法後の再発の患者さん。言ってしまえばターミナルの方なのだけれども、血液疾患のターミナルは疾患そのものよりも感染症で死亡されることが多いだけに、治療でもう少し元気になれたのでは、というケースが多い気がする。かくして担当医はどこまで積極的に治療していき、どのように患者の苦痛を取っていくか、そのバランスで苦慮することが多いのだけれど。

二十一日

夜、NHK「病院のチカラ〜星空ホスピタル」観賞。
脚本書いた人は結構現場を取材したんだろうな。通り一遍じゃない患者像、台詞だと思った。常に患者さんには振り回され、いろんな意味で驚かされつづけるのが医者の宿命と悟りつつある今日この頃。
救急車の話も出てくるけれど、「安易な利用」と指弾するのはたやすく、適切な利用を広げることの困難は想像を絶する。救急要請を直接受け取る指令センターの判断ですら、あとからさかのぼってみると不適切と考えられるケースが稀でなく、まして要請する一般のひとの判断が正しい保障はどこにもない。「歩いてくるのが軽症とは決まらない」は救急外来の鉄則だしね。

二十二日

統一地方選投票して、家で子守など。ホントはJAXA航空宇宙技術研究センター一般公開に行きたかったんだけどね。

バイク用のウィンドブレーカーやリアボックスなど買い求める。手持ちのウィンドブレーカーはもうかれこれ五年着ているというブツだしバイク用じゃないので不都合もいくつか出てきたため。持って帰れないので配送を頼んだ。

二十三日

週末に入院した誤嚥性肺炎の患者さんとか、受け持つ。
重症患者さんの治療は大変だけれど、治療が奏効して元気に帰る姿を見られる(こともある)から、ある意味やりがいは大きい。けれど、元の状態が悪い方は、治療をしてもやっぱり悪い状態のままじゃないかって思いを持つことがある。かくて惑いながら、それでも一番善い道を見つけたつもりで進んでいるのが日々の姿。

二十四日

大ボスから学会発表セヨの指令を受けて、夜鋭意抄録作成。書きかけの論文もあるのだが、同時並行で進められるかなぁ‥‥。

二十五日

夜、新入職医師の歓迎会。研修医だけでなく常勤医も含めて新しく入職した医師の紹介。
けっこう医師は流動的で、一つの病院で十年も勤務しているというのは実はそれほど多くない。患者さんにしてみるとなじみの先生にずっとかかりつづけたいものだろうけれど。

二十六日

保育園に子どもを送ってから出勤。時間帯の関係なのかもしれないが、送りに来る父親の姿を見ない。四月から公立園に変わったのだけれど、その前通っていた認証保育園ではぼつぼつ子どもを送ってくる父親の姿があった。
数回来ただけで偉そうな顔をするなという声が聞こえたような気がするのでこれ以上は黙っておく。

来たら当直の先生から「高カリウム血症の透析の方がいまして‥‥」と申し送り。不整脈も出ているということで特急で準備して透析開始。
朝一番から本日の予定は狂いまくりで、満足に患者さんのところにも行けない。外来透析の回診も特急で終了、腎生検を行って患者説明を二件行って。翌日の指示忘れを看護師に指摘されることも増えた気がする。もう少しあちこちに気を配らないといけないかな。

二十七日

外来してカンファレンスやって。今週から飛び入りの患者さんも増えてきているので忙しさに拍車。

二十八日

日中仕事して、午後から伊東へ向かう。新入医師歓迎合宿ということで、温泉旅館に泊った。
当然の様に夜は宴会。新顔の先生も交えて和やかに。

二十九日

朝食後、伊東マリンタウンへ。まず遊覧船「はるひら丸」で沿岸遊覧。案内のおじさんのけっこうトボけた喋りがけっこうウけていた。
その後は食事してお土産買って帰路へ。それなりに疲れて。

夜、ふとつけたテレビで「NHKスペシャル 日本国憲法誕生」やってたので途中から見る。
憲法といえども不磨の大典ではないってのはその通りなのだけれど、「たまには変えないと」「制定してから時間がたったのだから」みたいな、どこを変えたいのかよく分からない議論はよくないな、とずっと思っていた。「押しつけ憲法だから」というのもその一つ。
憲法に書かれた内容をその通りに実現してきたら、今世の中に起きている問題の少なくない部分は解決の方向に向かっているのではないかと思っている。たとえば深刻な少子化とか、過労死とか。
憲法って個々の社会問題に対する処方せんじゃないはずで、何かの社会問題の解決策が直ちに憲法改正につながる、ってことはごく少ないと思う。わたしは基本的に日本国憲法が掲げた「このような国を作りたい」って枠組みはいまでも有効だと思っているし、枠組みから外れた部分を正していくともっと暮らしやすい国ができると思っている。

三十日

昼前からStudio Aliceへ。お子様の写真を綺麗なコスプレ衣装つきで!てな感じ。ターゲットをピンポイントで親ばか&じじばばばかに絞ってそうな店なんですが、その術中にはまってくる。
個人的にはトイザらスと併設されてる店がしばしばあるのがターゲットを如実に表してる気がするのだが。

予約をしてあったので、ついてまず衣装選び。衣装はいくつ選んでも同じ基本料金ということで、奇天烈なのに逝ってみたくはあったのだが、男の子向きで楽しめる服が少なくて断念。女の子向きならばトランプのジョーカーみたいなのとかあったのだが。
並んでいる数々の衣装を眺めながら、巫女さんの服だとか鹿打ち帽にインバネスの組合わせだとか、はてはアニメのキャラクターの服だとかが吊られていても違和感ないなとか考えていた。
衣装選びが終わると撮影で。この日の機嫌は普通だったのだが、やっぱり知らない場所で知らない服を着せられていい笑顔になるのは難しいらしく。店員も慣れたものでおもちゃやら楽器やらで気を引きながら一瞬にこっとしたシーンを抜き撮り。うーん、ひと言で言うと簡単そうだけど、結構忍耐がいるかも。後半になると大分機嫌が悪くなってきたウチの子は携帯電話のおもちゃを握って放さないため、携帯でサルやキジを呼び集める桃太郎という写真が(嘘)。


Written by Genesis
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