歳時記(diary):十二月の項

一日

毎週外来はえっらい患者数が多く。以前に比べて患者さんの見方が大ざっぱになっている感じもする。端的に言って、診察数が曜日が変わる前15人/dayくらいが平均と思うのだけれど、最近は20人/day越えるのが普通になってきている感じ。もちろん所要時間も伸びているのだけれど。
今日来た中には「担当医が決まっておらず本人も不安ということで、常勤医のところへ」なんてメモ書きがされたカルテも回ってきたりして。予約の外来も欲しくなりつつある今日この頃。

二日

一時十三人くらいまで膨れ上がった受け持ち患者さんを順調に減らして、ようやっと一桁になろうかというところ。先月一ヶ月の間に少しでも担当した患者さんは計18人ということで、その分のレセプトチェックが届く。
健康保険からお金をもらうためにはこれをきっちりせねばならず。でもなかなか面倒。
他にも退院時要約を書いたりしていると、ここ数日はかなり帰りが遅くなっている。

三日

朝方いきなり往診の看護婦さんから連絡。他の先生が診ている訪問診療患者さんが亡くなられている由。死亡確認に伺う。
在宅で看取る、というのはけして楽なことではない。朝行ってみたら亡くなっていたというようないわば偶発的な在宅死亡を例外とすれば、じわじわと調子が悪くなっていく家族を、じっと介護し続けていく過程の先に在宅での看取りがある、と思う。あまり強い症状──たとえば強い嘔吐や下痢、出血など──があればその苦痛を取る上でも入院の方が適切と考えるし、苦痛緩和がうまく行かず、家族の方が見ていられなくなるような状態になってしまえば病院で診るしかない。
また、病状についての理解──悪く言えば諦観──がなければ「病院に入院すればよくなるのではないか」という思いに駆られる。多少命を縮めることになろうとも、家で看取ってあげたいという強い思いがなければ、病状が悪くても家で診ていくというのは精神的に難しいだろう。
そんな意味で、在宅で看取るのに向いた病気は悪性疾患、特に肝がんや肺がん、前立腺がんなど消化管以外のがんではないかな、と思ったりする。消化管のがんは(手術ができるかどうかなどにもよるが)食事が摂れなくなるのが早いことが多くて、点滴を長く必要としたりする。痛み以外の症状が乏しいならば、鎮痛剤と鎮静剤の利用で症状をコントロールしながら在宅管理ができたりする。
──まぁ、実際には理論通りには行かないのだけれど。

四日

午前中仕事してから、夜は透析室の忘年会。
──大人が十三人、子どもが十三人というところか(超爆)。中華料理店の大部屋を占拠して大騒ぎ(主に子どもが)。これまでも家族バーベキューetcの企画があり顔見知りということもあってか、子供たちだけでもそれなりに遊んでいるので、大人は却って手がかからなかったり。
異年齢の子ども同士で遊べるのって健全だよなぁと思ったりした。

五日

午後から「ハウルの動く城」鑑賞。
楽しく観られました。いじょ(ぉ
──てだけじゃ何ですけど。十分に楽しみました。ソフィーは初めのところで90歳になった後、40代くらいになったり70歳くらいに見えたり。そういう細かな描き分けをしながら精神状態を表現しているようで、若々しさと落ち着いた感じとが同居した感じのする作品中盤のソフィーはわりと好き。倍賞千恵子さんの声は冒頭ではやや老けすぎと思ったのだけれど、エンディングではあんまり違和感を抱かなかったのは演技力なのかこちらの耳が慣れてしまっただけなのか。(^^;; エンディングあたりのソフィーはしっかり元の年齢に戻った感じだったけれど、もしかしたら作品冒頭より若返っていたのかもしれないとか、そんな風に思った。
お得意の飛翔シーンも今回多めだったかな。以前原作は読んでいるのだけれど、あんまり覚えていないので読み直そうかな。

六日

一時は二桁に乗っていた患者さん数がようやく一桁に乗ってくる。週内に退院予定の患者さんもいるし、少し腰を据えてものを考えないと、とか思ったりする。

七日

午前中外来から呼ばれる。ネフローゼの人が受診してきた由。診察して検査出して入院指示出して。──いいのかな〜俺なんかがこうやって動いてて....。責任ある仕事ができているか、時に不安にはなる。

八日

午前中外来。
いつも通りひいひい言いながら患者さん対応。今日はしびれとか頭痛とか神経内科的な疾患を疑わせる患者さんが少し多かったかな。ひとり脳出血がいたけど、診察所見としてはむしろ頚椎症を疑ったんだけどなぁ....。

で、遅い昼を食べて病棟をちょっと見て、早速五時から当直ってね.....。かなわん。
救急外来は腹痛・下痢が大はやり。中にはスタッフもいたりするのだけれど、まぁ医療従事者といえども人間だしね。

九日

夜半。困ってしまったのが入院を必要とするような喘息発作の方。ガンとして入院を承諾してくれない。酸素を吸わないと呼吸状態が悪くて遠からず再発作を起こしてしまうだろうし、発作が悪ければ命の保障すらできないのだけれど、入院せず帰宅したいの一点張り。
はいそうですかと帰宅許可を出すわけにもいかないし、悩みつつ結局救急外来で夜明かしになってしまった。

十日

年末近いから、というわけでもないのだけれど、次々と患者さんが退院。今日の退院はネフローゼ再発の男の子。再発の理由は時に薬の内服忘れをしてしまうことであるようで、今回は内服再開では収まらず入院を要したということ。
薬の使用や治療への理解や協力のことをコンプライアンス(compliance)と呼ぶ。Complianceとは、英語のcomplyという動詞の名詞形で、comply with〜というと「〜を遵守する」という意味をもつのだそうだ。最近では経済の用語でも「法令遵守」などの意味を持って、企業倫理などの話の中で使われる言葉であるらしい。
でも、この言葉の中には「素直に従う」とか、「服従」といったニュアンスがあるようで。医師患者関係の話をする上では、極端に言えば「黙ってこちらの指示に従ってくれる患者」イコールコンプライアンスのいい患者、という意味になってきてしまう。まぁ言う通りにしてくれる患者さんは治療がやりやすいのは事実だけれど、それだけでは慢性疾患の長期管理は難しくなる。
最近ではアドヒーランスadherenceという言葉も出てきている。「粘り強さ」といった意味合いが含まれるようで、症状も乏しい慢性疾患の治療を続けていく患者さんに必要なのは、確かに治療に粘り強く取り組む気持ちだろうと思う。それを育て、励ましていくのがわたしたちの仕事になるだろう。

十一日

こういうのを「飼い犬に手を噛まれる」っていうんですかね(死)。
ただ少々薄汚い格好をしていたくらいで職質されて要求を拒否したらトラブルに。普通のケースならひどい目に遭ったねで同情するけど....以前はその警察をシメる立場にいたんでしょ?>白川議員 そういう警察を造ってしまった責任の一端は自分にあるような気がするけど...どうなんでしょうね?

「放課後退魔録IV ナツメ」(岡本賢一)「しずるさんと底無し密室たち」(上遠野浩平)「復活の地III」(小川一水)「最後の夏に見上げた空は」(住本優)を購入。最近新規の作家さん手を出してないなあ....。今回ひとり買ってみました。
そーいえば角川スニーカーから「長森浩平」さんの本が出てるみたいなんですけど....著者名で衝動買いってもうダメダメって感じですね。買ってませんけど。

メモ:マッドサイエンティスト・カフェ。コスプレ喫茶、一回行ってみっかなぁ(違)
あと、川原泉「笑う大天使」映画化とのこと。情報源:ENGINEの記事。

十二日

日中ぐたぐた。Virtual-ON MARZのvery hardモードクリアしてみたり、ネットうろついてみたり。「放課後退魔録IV」を読了。

そいでもって、夜から当直。病棟の方ではICUに重症がいたりしたみたいだけど、外来は閑散。よきことかな。

十三日

比較的余裕を持って業務が進む。患者さん少ないとやっぱりよく患者さんが見える。
夜、医師会議だとかあったりして当直の体制について議論が出ていたのだけれど。厚生労働省の公式見解としては、いわゆる「当直」「日直」は、ほとんどいればいいような状態のものを指すべきで、休む暇なく患者さんを診察して処置して、という状態は「残業」とか「夜勤」と表現すべき、ということらしい。
日中の業務が終わった後も残って患者さん対応して、夜が明けて朝からまた普通の業務を行う、という状態は、厚生労働省に言わせると「長時間残業」であるらしい。当然残業代として割増賃金を支払う必要があり、計算上当直手当てをはるかに上回る残業代を支払うべき、であるらしい。
──でも、この基準でいったら日本の病院の七割だかは巨額の残業代を請求されても文句が言えない状態であるらしく。それを全部払ったら、間違いなく大きな病院の何割かは倒産でしょうな....。(うちの病院も例外ではなかろう、きっと。)小病院や救急指定を受けていない病院などでは院内での急変も少なく、外来も来ないので大丈夫でしょうけれど。
こんな状態でも、医療費は削減すべきですかね?医者や医療スタッフの給料は医療費から出ている以上、そこを削り込めば、医療提供体制自体が崩壊しかねませんけどね?

十四日

ひとり受け持ち増。昨日の未明に頭痛とかいって受診して来た方。もともと別の先生が受け持つ予定が諸般の事情でわたしのところへ。
腎臓とか糖尿とかは血液検査で診断をつけていくところだけれど、循環器や消化器は画像で診断をつけていくところ、という特徴がある。黄疸精査は久しぶりかなぁ。さっそくいろいろ写真の依頼をして、あとは待つだけ、かな。

十五日

午前中外来。わりと患者さん少なめで、早く終わる。ふだんより三十分は早かったかな。もちろん普段は午後に食い込んでいるという現状はこの際無視だ(爆)。
そいでもひとり即入院、ひとり入院予約。ひとりは食事でコントロールついてたんだけど、外来に戻ったらだんだん血糖が悪化してきたお方。高齢独居って対応が難しいんだよね....。

十六日

受け持ち患者が減ってて、皆小康状態or経過見ていく方針となるとゆったり。
当直も数が少なめでよきかなよきかな。
その間に、少しmhonarcとかnamazuとか、いじる。とっても久しぶりなんで忘れてたけど....。

十七日

明け。──で、夜は病棟の宴会。(死)
しっかり喰って、二次会まで行って帰る。明日も仕事とかいう話は脇に置いとくとして(核爆)。

十八日

出勤。透析当番。まぁいつも通りに。

帰ってきたところで「しずるさんと底無し密室たち」(上遠野浩平)読了。力技とは思いつつも、奇天烈な事件の意外な解決を楽しむ。
──ストーリーもそうだけど、上遠野さんの作品の文体が個人的には気に入っている。

十九日

日直。ばたばたばた。
途中転送があったりして、まぁ普通に忙しく。

SS書きさんの作品読んでて自分の好みとクロスオーバーしてると何となく嬉しい。自分はひとりじゃない、って思うからだろうか。

二十日

入院二人。最近腎臓病以外の患者さんが増えており。その分勉強することが多くて新しい刺激。

「アシャワンの乙女たち」(牧野修)を読む。異形のものを描くのが得意な作家さんだけど、別にホラーじゃなくても十分異形。美少女もでてくるのに、台無しではないか。(笑)
──結局読んでる自分も自分だが。なんだかんだ言いつつ、好きなので。(^^;

二十一日

友人より、Wikiってブツを教えてもらう。 Wikiって初めて知ったのだけれど、なかなか使いでがありそう。こーゆーツールがパッケージになっている時代なんですねぇ.....。

二十二日

午前中外来。
すでに来週が憂鬱。なぜなら今年最後の営業日だから。そして、その翌週は年が明けて最初の営業日。どちらも患者さんが殺到することは目に見えている。
「体制厚くなりませんかね」と医局の事務の人に聞いたら「‥‥先生、死んでください」(炸裂)。ええい、死んでやる死んでやる〜〜。

夜は医局忘年会。カラオケして騒いだ。

二十三日

透析当番で出勤。ばたばたしてたらあっさり時間が過ぎた。
「ブギーポップオーバードライブ 歪曲王」再読。最近いろいろな作品を再読する暇が取れないでいる。多少暇があっても、Webを見たりもすると残り時間が少なくなったりして。
ブギーポップも読み直してみると細かな言葉が新鮮に映ったりする。やっぱ、高校生くらいの登場人物だからこそ成り立つ話なんだろうなきっと。

二十四日

往診してカンファやって。いつもどおり。

二十五日

休暇‥‥の筈だが、諸般の事情によりバイト(ぉ に出る。診療所の代診。
結構遠かったので車中で「復活の地 III」(小川一水)を読了する。それと「最後の夏に見上げた空は」(住本優)。
新潟の震災の後に「復活の地」を読むと、"地震"と"震災"の差を思う。地震は避けられなくとも、震災は避けられること、しかしそれはひとりの非凡な指導者の力ではなくて、いわば震災を避けて生き抜こうとする人々の共同体の力がためされていること。
神戸の震災に学んで、多少なりとも新潟の地震に対してはスムーズに動けた部分があったと思う。さらに分析をして、よりよい動きを考えていくことが大事なのではないかと思ったり。

二十六日

日曜。相棒が予定が入っていたので、午後から新宿辺りで買い物など。
個人的にナースウォッチ(懐中時計の一種といっていいだろうけれど、普通十二時の方向についている鎖が六時の方向に付いていて、服にぶらさげて使うことができる)のいいのがないかと時計売り場を見ていたのだけれど見当たらず。
あんまり需要がないのでしょうか。

二十七日

年末は病院全体が休みモードなので、患者さんは少なくなる。勢い空床は多いのだけれど‥‥だからって入院がつぎつぎ来なくてもいいじゃないか。
本日の入院は消化管出血の透析の人。輸血のために透析が必要だし。ばたばたしているとすぐに時間が過ぎる。

二十八日

当直明け。(実は昨日の午後四時までそれを忘れていたりしたが)
未明に来た方は以前に入院担当した方。心不全で来られたということで再入院。自分で持つしかないし。
検査関係が止まっちゃうからなぁ、ちょっと不安....。

夜、寝る前にがしがし年賀状の宛名書きをする。それほど多くはないのだけれど。

二十九日

おびえていた今年最後の外来は、天候不順──何しろ雪がちらついた──もあって患者さんの出足が悪く。いつもより少ないくらいだった。
看護婦さん達も「案外早く終わりましたね」てな感想。病気がある人が必ずしも受診するわけじゃないし、天気が悪ければ多少調子が悪いくらいの人は家でじっとしていたりする(善し悪しは別にして)。
これが予約外来となると少々状況が違うようで。割と変わりなく来ていたようだった。

確かに自転車の交通マナーの徹底って重要ですね。ヒト殺せるだけの速度で突っ走ってるって認識してないと。まぁあんまり自分もマナーいいとは言えないんですけど。
ただ、交通事故の際にBLSが役立つかというと‥‥わからない、ってのが正直な感想だったりします。BLSがもっとも役立つのは何らかの理由による致死性不整脈で、これなら直流通電一発が間に合えば救える人はかなりいます。交通外傷でたとえば脳出血してたり大動脈破裂だったり緊張性気胸だったりした場合、もちろんBLSをやらなければ救えないのは当然なのですが、適切に実施されていたとしても生命予後や社会復帰率は低いのではないかと思います。
まぁ、交通事故の原因が不整脈だったりすることもありますし、救助活動って救えるかどうかを考えながらやるもんではないとも思うのでいいのですが。(先日報道された某衆院議員の秘書は事故前に急死してその後衝突、ということになっているようだけれど。これなんかもサルコイドーシスから不整脈を生じうるのでそのせいかもと思っていたりする)

三十日

有明へ。ちょっと寝坊してギリギリに。
戦利品は以下に。

帰りは月島でもんじゃを食べて、ホテルでのんびり。

三十一日

朝から実家でもちつき。予定の量が搗き上がったところで雪が降り出すタイミングの良さ。
いやしかし見事なホワイト大晦日。(笑) 明日初辷りとかかまさないようにしないとなぁ。

年の最後は紅白歌合戦で締める。ま、さだまさしが聴きたかったというだけなんですが。(笑) 
「永遠に君が幸せでありますように」。一青窈さんは「ハナミズキ」で「君と好きな人が百年続きますように」と歌って、平井堅さんは「瞳を閉じて」で「Your love forever」と歌っていた。──やっぱり「えいえん」が好きなのかな>自分
「えいえんはあるよ」「ここにあるよ」というわけでもないけど。変わるもの、滅びるものばかりが目立つから、少しでも変わらないもの、えいえんのものがあればいいなと思っているのかもしれないとは思う。
ともあれ。来年がしあわせな年になりますように。  


Written by Genesis
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