歳時記:四月の項

一日

当直明け。(って先月の始まりもおんなじ書き出しだった気が....)
新年度最初の申し送りという栄誉(?)を担うこととなった。

入社式もあって、新人医師達もやってきたのだけれど、実は彼らはまだ国家試験の合格発表待ちの身分だったりするのだな....この時期って中ぶらりんで少し辛い。
ともあれめでたいということで、夜は歓迎会だった。

二日

午前病理・午後救急。
病理の方は四日のCPCの準備を進める。‥‥が、進んだ気がしないうちに午後になり、午後はぼちぼちと患者さんがくるので手が放せない。
夜間当直の先生への申し送り患者が多くなってしまった。

夜間は研修医ケースカンファレンス。食道癌の患者さんについてのディスカッションのなかで「治療方針をどのように決めていくか?」が問題となる。
最終的には、患者さんの意志が明確であったとしても、選択肢は(患者さんが望んでいない選択肢も含めて)丁寧に説明する必要があるのではないかという話になる。人は自分が得た情報からでしか判断できないから、選択に要する情報はすべて呈示していくことが大事ではないかと思うけれど、実際どこまでやれるかはむずかしいところがある。

三日

一日発表の準備をする。‥‥疲れた。ディスプレイとにらめっこしながらスライド原稿をああでもないこうでもないといじるのは大変。
まぁPhotoshopの使い方が少しわかったのはよいことなのだろう、きっと。

四日

午前中の往診では沿道の桜並木に見入る。比較的時間の余裕もあったので少しのんびりみることが出来た。
車内で雑談していたときに、先日亡くなられた患者さんが悪化した日は、ちょうど患者さんが最初に発病した日だったという話を聞く。365分の一の確率でそういうことは起こりえるのだけれど、暗合めいたものを感じることはある。

夜はここ数日準備していたCPC。何とか無事に終えてやれやれという感じ。そう厳しい突っ込みも来ず...。
終わった後当直に入る。急変も一つ二つあったけれど、主治医がたまたま院内に残っていたので任せてしまった。(<怠慢)  「主治医対応」があまり多いと当直している意味がなくなっちゃうので普段しないんだけどねぇ....。

五日

直明け、病院を出て羽田へ。相方の帰省に同行。
雨のなか離陸するのは初めてだったけれど、ジェット機だと滑走路面にたまった水がはね飛ばされていくのも見えてスピード感がある。出発が少し遅れたけれど特に問題なく到着。
その後は飲茶で遅い昼食をとって、岡山城周りを桜を愛でつつぶらついて、宿へ。

六日

起きてホテルを出た後、何故か映画鑑賞会。お題は「Lords of the Ring -two towers-」。三時間ある大作だけれど楽しんで観た。
終わって相方と話していたのは「それにしても救いがないねぇ...」ってこと。いや、最後にはケリがつくはずなんですが、途中経過的には悪がしっかり栄えるし、なかなか味方は増えないし、物事うまく行かないし、人死には出るし。
「two towers」の終盤でようやく少しばかり明るい話になってきたかなとか、そういう感じがした。

その後は相方の妹さん夫婦と公園で桜を見ながら散策して、その後焼き肉をいただく。

七日

朝起きすると、食事してから相方の妹さんと一緒に古本屋へ。義妹は子供の絵本を探しに、わたしは火浦功の昔の作品群やら「クレギオン」(野尻抱介)のシリーズを買い集める。そのあと新刊書籍の書店にも行ってから、お茶を飲んで帰ってきた。

飛行機の機内で「魔法遣いに大切なこと2」(山田典枝原作)「タリファの子守歌」(野尻抱介)読了。
「魔法遣い〜」を読みながら、専門職の陥穽なんてことを考えてみたりする。しばしば、「自分がしてあげたいこと」と、「利用者が望んでいること」とのギャップに悩むことがあるから。

八日

午前泌尿器・午後一般内科。
夜は今度研修に行くさきの病院の先生にご挨拶兼打ち合わせで王子まで出た。
──いや、会って挨拶して帰ってきただけなんですけど。

九日

午前中救急外来。
めまい・嘔吐で来院した人。血圧も高くて脳血管障害疑い、と思ったのだがCTでははっきりしない。経過を見ていたのだが、後で聞いたら午後になって症状が進んできて、脳梗塞とはっきりしたそう。
脳梗塞の急性期は画像検査で所見がなくて診断がしづらい。多発脳梗塞がある場合も新しい病変があるかどうかはわかりにくい。はぁ。

十日

午前午後と病理科──のはずだが、大ボスが休暇を取っていて、先週一大イベントも終わってしまった後ということで少々だれがち。いけないいけない。

いま「この一冊で在宅患者の主治医になれる」というなんともたいそうなタイトルの本を読んでいるのだが、あながち嘘とも言えないくらい網羅的に在宅医療について記していて読みごたえがある。
何でも道具がある訳ではないし、限界はあるのだけれど、その限界の中でどんな医療をやっていこうとするのかという哲学が必要なのかな、と思ったりしている。

十一日

午前中往診。
一人臨時が入ったけれど、下血がずっと続いているけれども精査しない方針の方。いよいよ通院も難しくなり、入院も本人が拒否ということで在宅管理に、ということになったのだけれど...。行ってみると、「食べられないから栄養がつかない、だから点滴を」と親族が動揺している。全身状態が悪くなり、貧血も進行してきて食事をとる元気もなくなる、というのはいわば自然経過だと思うのだけれどあまりそういうとらえ方はしていないよう。
家族の方が悪い訳ではなくて、そういう説明をしておかない方が悪いのだと思うのだけれど、家族の方にしてみれば現在の状態がどんな状態で、今後どうなっていくのかをきちんと把握していないのだろうな、と思った。先の見通しなしで、通院不可能で入院拒否だから在宅、というようなかたちだと、周りの人が困る場合って結構数が多いと思う。

十二日

朝から晩まで、某所で某秘密会議。
卒後臨床研修の必修化という問題を目前に控え、臨床研修指定病院に籍を置く身分としてはあまり他人事ともいっていられない。役所からタイトなスケジュールが出されてそれに従うしかないので必死で準備を進めるような状況がある。
かわいそうなのは現在の六年生で、大学や厚生労働省の方針が定まらないために振り回される羽目になる。準備がおそいのは相変わらず、なのでしょうが。

十三日

午前中投票。そのあと、新しい研修先に持っていく荷物を作る。とはいえ、三月だけなので最低限度にして残りは今の家においておく。
荷物を車に積んで出発する。途中少し渋滞したりしたけれども無事に宿舎を探し当てて、荷物を入れた。

帰ってきたところで、実家によって食事を摂る。妹夫婦も来ていて、ちらし寿司など囲みながらわいわいやった。

十四日

新しい研修先での初日。
おきまりの初めましての挨拶をこなし、院内を見てまわり。この日は受け持つ患者さんがいなかったこともあってのんびり始めることが出来た。

終わってから駅の方へ。書店をいくつか回って、「虹の天象儀」(瀬名秀明)と夢路行さんの新刊を入手。

十五日

二日目。病棟での患者さんを一人受け持ち。
目的のはっきりした人なので短期入院のきっちりやることをこなさないといけない。けど、立ち回りがどうしてもトロくなる....覚えることが多い。
午後は回診ということで、受け持ち患者のプレゼンテーションとか。

夜は宴会。移籍・研修の医師の歓迎会。とりあえず飲んで喰う。気がつけば外科系の先生と一緒にいろいろお話をしていた。医局が小さいとその分科の枠は取り払われていく傾向があって、慣れると居心地のいい環境だと思う。

十六日

新しい環境で仕事を始めるということは新しいお作法や習慣に慣れるということでもあるけれど、これまでと違った知識を得ることが出来るということでもある。
具体的にはこれまで知らなかったよい参考書を紹介されたりするということで、気がつくと今週入ってから既に5冊もの医学書を発注してしまっている(滅)。(医局出入りの本屋に発注しておくと安いのでついそちらを使ってしまう)
 まだ収納には余裕があるが(自宅に書架を増やすことは可能という意味)、先々のことは少し考えておこうかなと思っていたり。まぁ、医学書は歴史的な価値を持つ本は多くないので、古くなったら捨てればいいという手段もとりえるのだが。

十七日

一人患者が増える。原因のはっきりしない発熱と炎症反応。
発熱、というのは鉱山でのカナリアみたいなもので、原因を教えてくれるものではないけれど注意を喚起はしてくれる。そのかわり、カナリアが驚いた理由が大したことがなくてもカナリアのせいではない。
この患者さんに関していえば熱の原因がいまひとつはっきりしない。精査治療目的、という感じ。

夜は元の勤務先の方に戻る。

十八日

午前中往診。この単位だけは残しておいた。
地域医療の重要な要素の中に「継続性」という言葉がある。継続して一人の医者(一つのチームといってもいい)が対応していくことで、患者さんの健康問題へより的確に対応していけるということだとわたしは思っている。
研修は三ヶ月。その間だけやってくれる人を募るより自分で頑張って続けたいなと思った結果だ。
本日新患が一人。大きな病気としては痴呆くらいなのだが、介護が必要ということで介護保険申請のため医者にかかる必要ができた由。外来通院も大変なので往診に....ということだ。この方のお宅がなかなかのもの。かなりの年代物とおぼしい長屋で、入ると四畳半(三畳かもしれない)の部屋に患者さんが寝ている。台所兼用の一間があるのは確認できたのだけれど、おそらくはそれだけの面積の部屋に夫婦二人で生活している由。
これまでほとんど公的な援助は入っていないらしい老夫婦の世帯だが、いろいろな形で援助を入れていくことで、少しでも生活が楽になればいいな、と思いながら診察をしていった。

十九日

出勤時自転車を漕ぎ出そうとしたところで異音。みるとチェーンが外れている。折り畳み式の自転車を持ってきてあるのだが、ちょっとみた感じでは容易に戻せそうにない。時間に余裕のありそうなのを幸い、歩いて病院へ行った。
新患を受け持つこともなく、患者さんも安定しているということでやることなし。何となくで過ぎてしまった。

夜から元の勤め先の方で新入医師歓迎合宿in五日市。遅れていって、晩飯を食べて飲んで語って寝た。(^^;
移動の電車内で「石の剣─ソーントーン・サイクル─」(久美沙織/新潮文庫)読了。結構古い作品なんだけど、再読。世界観のしっかりしたファンタジーは読んでて楽しい。

二十日

合宿二日目。起き出して食事した後、バーベキューをしにバーベキュー&マス釣り場へ。つくとやおらバーベキューの準備を始め、少しだけマス釣りを楽しんでからバーベキュー。小雨がぱらついて寒い日ではあったがたっぷり食べた。
そこを片づけた後撤収して、解散した後有志でパフェを食べに行く。(死) 大型のパフェを食べ終えて解散したのは三時過ぎであった...。ちょっと食べ過ぎ、ですなぁ。

二十一日

週末の間に入った人を一人受け持ち。意識障害と貧血と。脳内に腫瘍か?ということで、予後が悪そうな感じ。
貧血と脳病変の原因精査、ということで各種画像検査を入れつつ、鉄の補充をしていくプランをたてる。何が出てくるやら。

二十二日

この日は新しい受け持ちなし。──そうすっと比較的仕事が早く済む。状況の把握が結構時間がかかるからなぁ。
夜は相棒を呼び出して外食。最近外食続きであまりよくないなあと思ってはいるけれど、なかなか改善できない。
外食だと野菜類をちゃんととれないことが多くて、どうしても炭水化物とたんぱく質と脂肪に偏る。塩分も多いし。おまけに時間が不規則になることが多くて、健康管理的にはいいことがあまりない。
そういえば他の先生が持っている患者さんで、多忙のためインスリン注射の回数を減らしたいのだけれど、そういう人ほどこまめに打って合併症の危険を減らしたいと悩んでいる人がいた。治療の上から好ましいことを、患者さんに納得してもらう難しさだ。

二十三日

一昨日入った人は頭のCTにて脳膿瘍疑いにて近くの脳外科へ転院と相成った。おかげで午後は転院の相談・家族への説明に転院の付添と大忙し。
まず疑うことが出来ないと診断はつけようがないのだけれど、疑うのも難しい(典型的な症状がない)病気や、疑っても診断をつけるのに特殊な検査が必要な病気などある。今いる病院はどこにでもあるような中小規模の病院で、けして整った設備とマンパワーがあるわけではないから、必要に応じてどんどん転送しないと患者さんのためにならないという側面を持っている。

二十四日

午後になったところで一人入院。発作性の不整脈。入院した頃には治まっていたが、一応一通り精査して帰ってもらうつもり。

この日は医師国家試験の合格発表日。
現在の研修先に入職予定の人々は無事に全員合格。ということで、夜は飲み屋で祝勝会と相成った。
ここの研修のボスは結構あちこちに人脈を作って活躍している人で、わたしもその先生が作っている研修の形はどのようなものだろうという興味で研修にきたクチなのだが、見据えている地点が数年先や十年先であるあたりはとても好感が持てる。民間病院はどうしても経営や運営を「まわす」ことを避けられないから、「未来のための投資より現在のやりくりをつける」方向に思考が向きがちだと思うけれど、その中でもなんとか研修の質と内容を維持するべく頑張っている。
国の役割はこういう研修病院の状況を支えることではないかと思ったりするのだが。

帰りは地元へ。道中で「魔法使いハウルと火の悪魔」(ダイアナ・ウィン・ジョーンズ/徳間書店)読了。
スタジオジブリが2004年夏公開に向けてアニメ化している最中とのことだが、原作もとても魅力的。ファンタジー作品のお約束をちりばめつつ、裏切りつつ。(^^;

二十五日

午前中往診。この日は少なめだったのでのんびり回る。後もつかえているのであまりゆっくりは出来ないのだけれど。
今の研修先まで一時間ほど電車に揺られる。この時間が貴重な読書時間。今日の読み物は「舞い降りた翼」(久美沙織/新潮文庫)「石の眼」の持ち主となってしまったジリオンはどうなっていくのか、いいところで続くになっている。

二十六日

現在の勤務先の病院はこの日は休み。というわけで、のんびりと昼近くに出勤する。(笑)
昨日入院した人が症状が取れているかをみて、いくつか検査結果を確認し。

そのあと自宅の方に戻って、相方と一緒に電器屋見物など。冷蔵庫の買い替えを企んでいて、そのための下調べ。

二十七日

起きて準備した後、自宅の冷蔵庫を車に積んで研修先の宿舎に出向く。マンションの一室なのだが普段使われていないせいで冷蔵庫がないため、寄付と称して古い冷蔵庫を持ち込もうという算段。えっちらおっちら運び込んで据え付けるともう昼を回っていた。
その後車で和田サイクルへ。このあいだこわれたBROMPTON Light3の修理をお願いする。チェーン張り替えを宿舎近くの自転車屋で済ませてあったのだが、どうも張り方の手順を把握していないらしくすぐ外れてしまう。知っている人にかかると早くて、わずか一分で直ってしまった。さすが。

帰ってきた後は親と妹夫婦とでうちの家族行きつけの焼き肉屋へ。腹いっぱい食べる。

二十八日

新入院一人。糖尿病コントロール。短期決戦で血糖コントロールを図りつつ教育を進めるということでやることは結構ある。
午後には脳梗塞が一人。失語がメインの症状であるよう。過去に何度も手術を受けているせいか静脈留置針を刺す血管が見当たらない。やむなしといいながらCV lineを刺そうとして失敗する(死) なんとか留置針が入ったので「抜かないようによく見張っておいて」といいながら病棟から逃げ去る(爆) たまにはこういう患者さんがいる。そして、こういう人に限ってよく点滴の針を抜いてくれるのだ。(涙)

二十九日

みどりの日。
ということで、出向元の医局の病理の中ボス(^^;やら事務の方やら後輩やらと高尾山へ。一号路を登り終える頃にはすでに若干のへたりが来ており(爆)、日ごろの運動不足を感じる。まぁ途中薬王院の百八段階段登りレースなどに参加したのが理由の一つではあるだろうが。
本日のメインイベントは「山でワインを飲む」(笑)。その趣旨通り昼食にはワインやらそれに合うようなチーズその他が並べられ、有意義な一時となった。
帰りも一号路であったが、膝が笑いかけるのを必死にこらえるような道程となってやっぱり運動不足だなぁと思った。

帰りにトリックアート美術館に寄って視覚のトリックを楽しんで、お茶を飲んで帰ってきた。

「黄泉がえり」(梶尾真治/新潮文庫)読了。「エマノン」あたりから入ったカジシンワールドだけれど叙情的でしかもSFでなかなか面白い。後半一転してパニックSF様になってきたあたりがさらに好み。

三十日

仕事の合間にふと見つけたマイシスター検索システム 。本名実誕生日入れてみると、全年齢対象では「おにいちゃん度」9位, 「らぶらぶ度」1位, 「およめさん度」1位に輝いたのはTo Heartのセリオさんでありましたが、誰ですかそれは(爆死)。つーか、幼児とらぶらぶは犯罪では(更爆)
片想い度上位(男→女)をみていましたら四位に「沢渡香織」(「星の瞳のシルエット」)と書かれた脇に「年齢:30歳」と記されていて時の流れの早さについて思いを新たにしてみたりする訳です。

朝方申し送りの時に救急に重症が居ると聞いてそのまま行って処置を手伝う。そんなふうにして始まった一日は、夜クモ膜下出血の患者を救命救急センターへ搬送して終わった。
救急センターとかいうと結構処置その他も手荒いことが多いのか、着くとすぐに「はいじゃぁ服脱いで」とかそういう感じの対応をしている看護師(もしかしたら若手の医師かな?)が居たりして、患者さんがびっくりしていた。意識がしっかりしている人なんだからちゃんと配慮をしてあげてと中堅クラスの先生がたしなめていたりして。  


Written by Genesis
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