比翼の鳥

scene1:救急外来

折原みさきさんとのそもそものかかわりは、僕が救急外来の担当だった時間に彼女が搬送されてきたことから始まる。
「急患の依頼です〜。当院初診、○○病院で診られていたそうですが、呼吸困難が強くICU適応だそうです。」
「ICU空いてるんでしょ?だったら来てもらって。」
この日の救急外来はなんだか混雑していた。ようやくみんな帰れそうなメドがたったところ、そこに持ってきて重症の依頼。
(残ってる人が帰りかけたところだったら、どんな人がきたっていいさ)
僕はそんな、のんびりした気持ちでいた。
もうすぐ、救急車が来る。めずらしくもないことだけれど、重症と聞いていれば、やっぱり緊張する。この緊張感はけして嫌いじゃない。
救急車が到着し、ストレッチャーに乗せて患者を搬入する。男性が一緒について来た。酸素吸入は受けているが、息も荒く苦しそうだ。全体に顔がむくんだように膨らんでいる。
「折原さん! わかりますか?!」耳元で言うと、わずかに目を開いてうなずく。でもすぐに目を閉じてしまった。手早くバイタルを測る。血圧よし、脈拍は頻脈、呼吸数は三十回。酸素飽和度は‥‥90%。ぎりぎり、持っているというところか。
「ご主人、向こうの先生からお手紙か何か、受け取っていませんか?」
「は、はい、これを渡すようにと‥‥」
差し出された封筒を破って中身を引きだす。少し読みにくい字で前回退院後も元気がなくここ数日は苦しげで食事も摂れていなかったこと、今日から意識が落ちてきたことが書かれていた。病状の詳しいことは前回退院時要約をご覧下さいと締めくくられていた。
退院時要約はいろいろ書き連ねてあったが、とりあえず病名のところに目を通す。心不全・腎不全・糖尿病・気管支拡張症。そして、幼少時から全盲である旨の記載があった。
「ご主人、簡単にお話を聞かせて下さい。このイスに座ってもらえますか。」
落ち着かなくうろうろしている夫、浩平氏をまず座らせた。
「いつから調子悪いんですか?」
「まぁ、この一年ずっと、というところですか。もともと糖尿があったりして、近所の先生にかかっていたんですが、去年の今ごろから熱を出したり痰が増えたり、歩くのもおっくうになるようで。近所の先生にお願いして別の病院に入院させてもらったんですが、入院先の先生にはこれ以上よくならんと言われて。仕方ないんで家に帰ったんですが、家でも苦しがるんで、酸素を吸わせたりしていたんです。」
「酸素を?」
「わたしのです。」
確かに浩平氏も酸素吸入をしていた。在宅酸素療法を受けているらしい。
「本人も家にいたがりましたし、何とか我慢してみようとしていたんですが、おとといくらいから全く食事を摂れなくなりまして。もとは何杯でもご飯を食べられて、食べるのが大好きだったのにこれではよほど悪いのだろうと思いまして。今朝は呼んでもぼんやりして反応が変なのでこれはもう無理だろうと、近所の先生にお電話したんです。そしたら重症だからこちらへくるように、といわれまして。」
は。紹介状を書いてくれたのは近所の先生、ということらしい。
「わかりました。もともとはきちんとお話できたんですよね?」
「はい。ここのところは苦しそうでしたが、それでも時々冗談ぐらい言えました。」
それでは、急に現れた意識障害ということになる。ざっと診察していくと、肺の雑音がひどいのと、むくみがある程度で手足に麻痺はない。熱も少しある。
「採血と痰培養、尿検査とりましょ。それからレントゲン。点滴ルートも一緒に取っておいて。」
看護師さんに声をかけて、カルテを書き始める。そして、入院にかかわる指示も。
「ご主人、これから入院になります。ざっと診たところ、かなり重症だと思います。検査の結果が出てきたところでもう一回お話しますね。」
浩平氏にはそう言い置いて、入院の手続きに回ってもらうようにした。

scene2:ICU

返ってきた検査結果は、予想通りでもあり予想外でもあった。
肺には水が溜まり、呼吸に支障があると思われた。その上に、呼吸する筋力自体が衰えているようだった。腎不全もあることを考えると、人工透析療法がよさそうだった。同時に、人工呼吸器を使う手も考える必要がありそう。
急いでICUに移した後で、再び浩平氏を呼んだ。
「この人も一緒に話を聞いてもらっていいですか?みさきの古い友人なんです」
浩平氏は、同年代と思われる女性を連れてきた。
「深山と申します。できれば同席させていただきたいのですが。」
「かまいません。ただ、この場では病状をわかる範囲ですべて、お話させてもらおうと思っていますが、構いませんか?」
僕の言葉に、二人とも軽くうなずいたのを見てから、わかる範囲での折原みさきさんの病状を話し始めた。
呼吸のための肺がむくんで、そのせいか息をするのも大変な状況であること、尿もあまり出ないようで、この二つの治療のために、それぞれ人工呼吸器と、人工透析が有用であること。
「でも」と僕は続けた。
「人工呼吸器をつける、ということは、機械に呼吸を任せる、ということです。つけることには苦痛が伴いますし、そのために患者さんには、鎮静剤で眠ったようになってもらった方がよいと思います。その間はお話などができなくなってしまう問題があります。また、一度つけた人工呼吸器を外すとしたら、調子が良くなって人工呼吸器がいらなくなったときか──亡くなったとき、ということになります。程々のところで外してあげて欲しい、というのは、倫理上難しいとされています。」
僕の言葉を聞きながら、浩平氏はときどき目を瞑っていた。それを見ながら、僕はできるだけわかりやすい言葉を選びながら話し続けた。
「──率直に言って、初めてお会いするわけですし、よくなるともよくならないともお約束できません。でも、よくなるとしたら、かなり強力な治療が必要な状態だと思います。ご本人にとっては苦しいところかもしれませんが、それでも治療をして欲しい、ということであるならば、人工呼吸器や人工透析を含めて、できる限りの治療法を取っていくつもりです。」
「わかりました。」
瞑目していた浩平氏が、目を開いてそういった。
「先生にすべてお願いしたいと思います。みさきも体調の悪い状態でずっと来てはいますが、それでもまだ、みさきと一緒に過ごしたいんです。よくなる可能性があるなら、お願いします。」
強い、決意を秘めた、静かな言葉だった。僕はただ、「わかりました」としかいえなかった。

挿管する、と看護師に連絡して、僕はベッドサイドに行った。折原さんの意識は、まだぼんやりしたまま。それでも、僕は伝えるべきだと思った。
「折原さん。今から呼吸を補助するため、人工呼吸器をつけます。つけている間は苦しいと思うので、眠っていていただくようにします。良くなるまでの間、少し待っていてください。」
彼女がうなずいたように見えたのは、僕のひいき目だっただろうか。
そして、人工呼吸器を装着して、体内に溜まった水分の除去のため、透析を開始した。
長い治療の、始まりだった。

scene3:個室

一夜が明けた。出勤して僕は、まず折原さんの病室へ行った。
ICUの個室は、人工呼吸器の静かな作動音がする以外、静まり返っていた。折原さんは鎮静剤の投与を受けて、静かに眠っていた。
手早く聴診、触診をする。悪くはない。少しむくみも取れたようだ。でも、痰のからんだような呼吸音はいまだ続いている。採血の結果は、いまだ呼吸筋が弱いままであることを示していた。
(人工呼吸器(レスピ)からの離脱は、しばらくは無理か)
今日の予定は、引き続き透析で水分除去、合併する肺炎に対して抗生物質の投与、浩平氏への病状説明。そして、週に一度の内科カンファレンス。忙しい日になりそうだ。
浩平氏は少し早い時間に来て、じっと折原さんに付き添っていた。声をかけると、深々と頭を下げた。
「どうでしょうか」
「そうですね。昨日よりは悪くない、というところでしょうか。けれどもレントゲンがよくなったわけではないし、心臓の動きも悪いことがわかりました。少しじっくり構えないといけないですし、悪くなる可能性は常にあります。ただ、少なくとも悪くなっていないのは、いいことだとわたしは思います。」
医者になってから、あいまいな言い方、控えめな言い方をすることが増えた。安請け合いは怪我のもと、その一方であまり希望のない言い方をしてしまうとうまくいく治療もうまくいかなくなったりする。悪い要素ばかりであるなら少しばかりの希望をにじませ、よくなっているところではまだ安心はできないと釘を刺す。その機微に疎ければ、患者を絶望させたり、逆に安心しきったところで病状が悪化したりする。ある程度は駆け引きとして、言葉を選ばないといけない。
それでも、浩平氏は少しほっとしたようだった。
「先生、今後はどうなりますか。」
「そうですね。今のところは人工呼吸器でのサポートがやめられるくらいまで、肺と心臓の治療を進めていくのが第一と考えています。最悪、透析は長く続けていけますが、人工呼吸器につながれたままになってしまうのは辛いですから。水分をしっかり取り除いて、心臓への負担を取り除き、肺炎も起こしているみたいですから痰を取って抗生物質を使っていく。それでどこまでよくなるかが鍵だと思います。そして体を休ませて、力を蓄えてもらって、機械が外せるかどうか。そんな流れでしょうか。」
「わかりました。──先生、率直に言って、また家に帰れる可能性はあるでしょうか。」
「家に帰れる可能性はありますが、今のところはまだ大きくありません。治療への反応がよいならば、徐々に可能性は上がっていきますが、反応が悪ければ、どんどん可能性が下がってしまうことも、ありえます。」
わかりました。そう浩平氏は言って、また深々と頭を下げた。
「みさきのそばについていてもよいでしょうか。」
「それはかまいませんが、あまり無理をなさらないでくださいね。」
浩平氏も酸素吸入を必要とする体だ。病人が病人を気遣って、暮らしてきたのだろう。折角──というのもなんだが、今は入院中。スタッフもそろっているところで、浩平氏には休んで欲しかった。
「わかってはいますが、どうも落ち着かなくて。」
少し疲れたような、気弱な笑みを浮かべる。
「家にいる間、みさきは苦しそうにはしてはいたんですが、それでも喋ったり、息遣いが聞こえたりしていたことで、確かにみさきが生きて、頑張っていることがわかりました。でも今、静かな家に帰ると、まったくみさきの気配がないんです。そう思うと、なんだか今にも急変しているんじゃないかとか、病院に行った方がいいんじゃないかとか、そんなことを考えましてね。ゆっくりもできないものですから、こうして来てしまうんですよ。」
そういって、ごま塩頭をかいた。
「そう‥‥ですか。」
何ともいえない、重い言葉だった。この優しい人の想いに、できる限りこたえたいと思った。
「お気持ち、少しはわかる気がします。ついていること自体はかまいませんから、くれぐれも無理をなさらないでくださいね。今日はこれから透析が行われますが、機械に触らなければ、いていただいて大丈夫ですから。」
そう言い置いて、僕は部屋を出た。

scene4:個室-2

折原さんの回復には時間がかかった。肺炎も合併していて痰がとめどなく出てくること、やはり全身だいぶ弱っていることがあるのだろうと、カンファレンスでは話し合われていた。
「治療としては現状でいいだろう。あとは、ひたすら粘ることだ」
カンファレンスの結論は、そう落ち着いた。
心臓の管理と呼吸の管理のために人工呼吸器と透析。そして栄養の管理とそれらに伴うさまざまなマイナートラブルへの対応。それに応えてくれるかのように、わずかずつではあったけれども折原さんの全身状態は改善してきた。
そして、今日は呼吸器を外してみる。すでに人工呼吸器は折原さんの自発呼吸をわずかに支えるだけの設定になっている。鎮静剤も投与をやめていて、折原さんは見えない瞳を見開いていた。
「折原さん、今は管が入っていて、喋れない状態です。なので、わたしの声が聞こえたら、左手を握ってもらえますか?」
一つ、二つ。ぎゅっという手ごたえが伝わる。
「じゃあ、次に深呼吸をしてみてください。」
すぅっと胸が動く。換気は十分だ。
「じゃあ、管を抜きますね。まず管の中から痰をとります。それから管を外すので、待っていてくださいね。」
声をかけてから、吸引をかけ、気管内チューブの固定を外す。そしてそのまま、ずるずると気管内チューブを引っ張り出した。
折原さんはごほごほと咳き込む。出てくる痰を掃除しながら、僕は「喋れますか?」と声をかけた。
「はい。」
それだけ言って、また咳き込む。痰をとれるだけ取って、酸素を吸い始めるとようやく落ち着いた。
「苦しくはないですか?」
「さっきよりは、楽になりました。」
ぐったりはしていたけれども、それほど表情は険しくなかった。言葉もしっかりしている。
「じゃあ、少し採血させてください。腕を伸ばしてくださいね。」
そういって、右腕の血管を探っていると、折原さんが言った。
「あの、わたし目が見えないもので、言葉で言ってもらわないとわからないんですけれど、その──先生、ですか?」
「ああ、そうですね。自己紹介がまだでした。わたしは、折原さんの担当をさせてもらっています、柚木といいます。他にも、わたしの先輩の先生方とか、たくさんの人にかかわってもらいながら治療を進めていきますので、何かわからないことがあったら遠慮なく言ってくださいね。」
そういうと、少し表情が和らいだ気がした。
「よろしくお願いします。」
「はい。それでは、採血しますね。少し痛いですけれど。」
「痛いのはやですけど‥‥しかたないですね。」
そういって折原さんは、腕を伸ばしてくれた。

一番危ないところを乗り越えて、話ができるようになって。午後には家族が面会に来て、話し込んでいったらしい。笑い声も一つ二つ、聞こえたと聞いた。
夕方、もう一度僕は折原さんの部屋を訪れた。まだ顔くらいの大きさの酸素マスクは手放せない。けれども、マスクをしていればしっかりと話せそうだ。
「柚木です。苦しいですか?」
「朝に比べればましです。管をくわえてるのは大変でした。」
「それはごめんなさい。なにしろ、あれしか手が無かったもので。」
「ええ、それはわかってます。でも、苦情の一つくらい、言わせてもらってもいいですよね?」
「もちろん、いいですよ。」
苦笑しながら答える。言葉がしっかりしていて、元気そうだ。
「ちょっと胸の音を聞かせて下さい」
そういって、胸の音を聞く。相変わらず痰が多い。
「痰は切れないですか?」
「うーん、ここ二三年痰が切れたことはないですから。しょうがないです」
そういいながら軽く咳き込む。痰が絡みつく音が聞こえる。
「まぁ、できる限り楽に痰が出るように、薬を使ってみましょうね。」
「はい、ありがとうございます。」
頭を下げる折原さんに僕も思わず頭を下げて、それでは伝わらないことを思い出してから「それでは」と別れの挨拶をした。

翌日。腎機能が改善してきて、透析を一時中止できそうと判断された。
「今日は透析はお休みですよ」訪室して、折原さんと面会に来ていた深山さんにそう告げると、深山さんは
「よくなったんですか?」と聞いた。
「そうですね、とりあえず今日やらなくてよいくらいには。」
「明日は?」
「それは、明日決めます。容体がよければ、明日もしませんし、今一つならやった方がいいでしょう。」
「そうですか‥‥みさき、それでも良かったね。」
「うん、よかったよ。」
安心したようにそういって、それから折原さんは少し心配そうに聞いてきた。
「それから、ひとつ聞いていいですか?──あの、ごはんはいつから食べられますか?」
心配そうに、でも真剣に。聞いてきた折原さんがおかしくて、僕は笑みながら言った。
「そうですね、もう少しよくなってから、です。透析をしていてもご飯は食べられますが、こんな大きなマスクをした状態ではご飯も食べられませんから。──で、どのくらい酸素が足りているか調べる採血を、これからしたいので、すみませんが腕を伸ばしてもらえますか?」
折原さんの表情が途端に曇る。
「昨日は痛かったです‥‥。」
「検査の結果が良ければ、酸素を減らしていきますので。しばらく連日やることになるかと思いますが、よろしくお願いします。」
「ほら、みさき、先生にわがままいっちゃだめよ」
「‥‥仕方ないですね。観念します。」
「ありがとうございます。」
そういって、折原さんの腕をとる。白くて、すこしぽっちゃりとした腕。この何日かの間にむくみがとれ、しわも出てきた。よくなってきたのは間違いない、と思う。
動脈に針を進める。わずかな感触ののち、動脈の圧に押し出されて、血液が注射器に上がってくる。鮮やかな赤は、十分に酸素化された血液であることを示していた。
「終わりましたよ」
針を抜いて、しばらく止血する。
「血液の色はいいですね。測ってみないとわからないですけれど、酸素が減らせるかもしれません。可能ならば食事はできるだけ早く始めたいところですね。」
そう伝えると、折原さんの表情がぱっと明るくなった。
「よかったよ〜」
にこにこ顔。──これだけ期待されてしまうと、あんまり裏切るわけには行かない。
もっとも、測定された結果は満足の行くもので、翌日にはICUより退室が決まり、食事が開始になった。

scene5:病室-1

昼過ぎ。午前中の往診から帰ってきたところで、看護チームリーダーの林さんに、折原さんの食事量を訊ねてみた。
「ああ、先生ちょうどよかった。折原さんに言ってあげてください。糖尿病と腎臓病の食餌療法について。」
「知らないの?」
「知ってはいるんだけど、がまんができないみたい。朝も昼も全量摂取してるけど、ご不満みたいよ。」
そりゃあまぁ、今はまだ少なめから始めているし、しかもお粥だからねぇ‥‥とは思いながら、病室に行ってみた。
「折原さん、久しぶりのご飯はどうでした?」
「おいしかったです。もっと食べたいなと思いました。そうですね、あと三人分は食べられるかな。」
‥‥は? いま確か指示量は千二百キロカロリー。いくら何でもあと三人分てのは多すぎ‥‥。
「折原さん、もともとそんなにたくさん食べてたんですか?」
「最近は減ってましたけど、半年くらい前までは。糖尿って言われて、浩平が──あ、夫があんまりたくさんは作ってくれなくなったんですけど、それでも今の量の倍くらいは食べてました。」
うそを言っているふうでもない。そういえば浩平氏も「食べるのが大好き」といっていたな。
「えーっと、あとで栄養指導とか受けていただきますけど、大体いま千二百キロカロリーの食事で、通常折原さんの病状だと千五百から千六百キロカロリーぐらいの食事に抑えることになると思うんですね。だから、元の通りに食べていると食べ過ぎだし、糖尿も進むと思います。」
そう言うと、とたんに折原さんは哀しそうな顔になった。
「しっかり食べないと、体力出ないですよ‥‥。」
「必要なカロリー数って、実はとっても少ないんです。食事習慣をきちんとしないと、糖尿にせよ腎臓にせよ、病状が悪くなりますから。」
「はぁ‥‥」
しくしく。そんな擬音が聞こえそうなくらい、がっくりとしてしまった折原さんを、少しは励まそうと思って僕は言葉を継いだ。
「まあ、今の食事よりは少し増やします。それから、いまのところでは『食べてはいけないもの』は特にありません。食べ過ぎてはいけないものはありますけどね。その辺の詳しいところはあとでお伝えしますけれど。」
「はあ‥‥じゃあ先生、今はもうちょっと食べてもいいんですか?」
「まあ、そういうことになりますか。」
「じゃあ、差し入れでいただいた果物、食べてもいいですか? 病院で出されたもの以外食べちゃだめだって、隠されちゃったんですけど。」
は。ほんとに食べるのが好きなんだな‥‥。
「何を持ってきてくれたんですか?」
「ざぼん、だそうです。たぶん枕元の戸棚の中に入っていると思うんですけど。」
「わかりました。一切れだけですよ。それから、きちんと今後食事の制限を守ってくれることを約束してくれたら。」
「──仕方ないですね」
いちおう約束してくれたことだし。行きがかり上、食べさせてあげることにした。戸棚を開けると黄色の大ぶりのざぼんが鎮座していた。一切れ切って、渡してあげる。
「ありがとうございます。──えと、ほんとにいいですか?」
「僕はよく患者さんに甘すぎるって怒られてます。だから、明日からもっと厳しくしようと思います。」
「それじゃあ、お言葉に甘えることにします。」
いただきます、といって口に入れる。一口を瞬く間に飲み込んで、笑みを浮かべた。
「うん、おいしいです。」
「──でも、元気が出てきましたね。一時は本当に危なかったですから、回復してきたのはよかったと思います。」
「うん。でも、じつはわたし、寝てる間にあの世に行ってきたみたいです。」
ほんとにさらりと、折原さんはそんなことを言い始めた。
「え?」
「苦しくなって、ぼんやりして、浩平が病院に連れていくぞって言ってくれたのは覚えているんですけど、その後もうぼんやりしてしまって何が起きているのかわからなくなって。すごく苦しかったから、ああこれはもう死ぬんだなと思ったら、だんだん体が楽になってきて──」
気がついたら、静かなところにいました、と折原さんは話し始めた。

scene6:永遠

変だな、と思って少し考えたら、眼が見えていたんですよ。そこは静かな草原で。いいところだなって思いながら、少しそこで寝てたんです。空を見上げるととても綺麗な夕焼けで、何だかそのまま吸い込まれそうな感じで。それも悪くないのかなって思っていたら、草を踏む音が聞こえて、女の子が寄ってきました。
「こんにちは。」
「こんにちは。ええと、初めまして、かな?」
「あたしはあなたの名前を知ってるわ。折原みさきさん?」
「あなたは?」
「みさお。この世界に住んでいるの。」
「この世界? ここは、どんな世界なの?」
「永遠の幸せの世界。苦しいことも哀しいこともない、変わらぬ平和の世界。」
「それは、いいところかもしれないね。他に人はいるの?」
「他には誰もいないよ。でも、ここにいれば何でもできるし、何でも手に入るよ。」
みさおちゃんの話し方はとても幸せそうで、彼女がとても満足しているのはわかりました。でも、友達もだれもいないところと聞いて、わたしは寂しくなってしまって。
「誰もいないところだと、わたしは寂しくなっちゃいそうだな」
「わたしがいるよ。あなたが望むなら、ずっと。」
「でも、わたしはこれまでたくさんの人に囲まれてきたよ。浩平や、雪ちゃんや、その友達もたくさん。そういう人たちがいたから、わたしは多分生きてこれたんだと思うよ。」
「それじゃ──帰っちゃうの?」
「帰れるならね。大変なこともたくさんあるけど、それでも、わたしは元のところに戻りたいな。」
「そう──それじゃあ、しょうがないな」
ちょっと哀しそうにみさおちゃんは言ったのを覚えてます。そして、わたしを呼ぶ声が聞こえた気がしたと思ったら、急に苦しさが戻ってきて。いつのまにか、光も消えていました。

scene7:病室-2

「気がついたら先生がチューブを抜いてくれるって言っていたので、じっと待ってました。ほんとに苦しかったんですよ。」
そんな風に折原さんは話を締めくくった。
はっきりと覚えている物語を語るように、折原さんはその話を語った。作り事にしては念入りで具体的すぎる。そんな感じがした。
夢を見たのだろう、そんなふうにも思った。目覚めた後で再構成された、無意識のうちにつじつまの合わされたストーリーなのだろうと。でも、僕はそうは言わなかった。
「そうでしたか。──苦しくても、こちらに戻ってきてよかったですか?」
「むずかしいですね。苦しくなくてこちらの世界にいるのが最高です。」
そういってから、大きく咳き込んだ。痰がからむ。からんだ痰を十分に自力で吐き出せるほど、折原さんの体力は戻っていない。
「吸痰しましょうか?」
「‥‥吸痰、しなくて、すむ薬って、ないんですか?」咳き込みながら折原さんは言った。
「残念ながら。」
からんだ痰はいっこうに吐き出されてこない。諦めたようにベッドに横たわると、
「うー、やだなぁ」
と言った。消極的な、同意の合図だった。
「ごめんなさい。ちょっととらせてくださいね。」
そういって僕は、吸引チューブを取り上げた。

scene8:カンファレンスルーム

「‥‥最後は、折原みさきさん。心不全・腎不全・気管支拡張症と糖尿病。入院してすぐ挿管しレスピ管理、緊急透析を行いましたが、症状安定しまして現在のところ一般病床で酸素1リットル吸入で呼吸状態は落ち着いています。」
内科カンファレンスでは一渡り入院患者の検討を行う。現在の問題、今後の方針をここで検討していく。
「現在の問題ですが、心機能は現在のところ大きな問題はなく、腎不全も維持透析を要するほど悪くはありません。血糖も食事をコントロールすれば十分と思います。ですが入院前からあまり体を動かしておらず廃用が進んでいること、痰の咯出が不十分なことが問題点と考えています。そして、在宅介護を行う上では夫も病気を抱えていてあまりあてにするとこんどは夫が倒れる恐れがあると思います。」
「旦那さんもHOTの人だったっけ。」
「そうです。現在3リットルを常時吸入しています。」
「多いな‥‥」
カンファレンスを主宰する沢口先生がつぶやく。
「他に家族はいないのか?」
「息子と娘がいますけれど、遠方に住んでいる上に多忙で、引き取ることも難しいというのが実情のようです。それに、あまり口にはしませんがどうも患者も夫も子どもに頼りたくはないようです。」
ひと呼吸おいて、僕はもっとも悩んでいることを口にした。
「患者本人も、夫も、在宅療養を望んでいます。けれども、率直に言ってそれを支える基盤が経済的にも労力としてもありません。一方で療養型施設へ移るのも経済的には相当厳しいです。収入は夫の年金のみですが、生活保護が取れるほど金額は少なくはありません。」
「一番厳しい条件を抱えている、といってもいいかもしれないな。」
沢口先生がまとめる。
「在宅にせよ施設にせよ、夫婦二人でやっていくのは無理だろう。遠方でも子どもにも来てもらって、みんなに実情を理解してもらうしかない。手は出せなくても多少のお金なら出せるかもしれない。ケアワーカーにも入ってもらって、経済的な条件について詰めていくしかないな。」
「そうですね。あとは呼吸状態ですが、痰のコントロールがつけば酸素は外せると思います。ちょっと時間がかかりそうですが、退院先を詰めていきます。」
「できるだけ早く、調整していけ。」
「‥‥はい。わたしの患者さんは以上です。」
一礼して座る。ある意味では治療より難しい現実との相手は、しんどいことになりそうだった。

scene9:廊下

病棟から呼ばれて急いで行くと、ナースステーションの前に浩平氏が佇んでいた。僕の顔を認めると会釈をする。
「みさきのことで、少しよろしいでしょうか。」
「もちろんですよ。」
廊下においてある椅子に並んで腰掛ける。浩平氏は少し言葉を選ぶように、話し始めた。
「先生、率直に言って、退院はいつごろになりましょうか。」
「みさきさんは今のところだいぶ調子もいいようで、酸素も外れましたし、リハビリも少しずつ進めています。介護保険の方も申請が進んでいます。あとは、退院先ということになると思っています。どこに、いつ、どんな形で退院するか。そのために必要な手続きや準備は何で、それをすませるのにどのくらいかかるのか。それが決まれば、退院日は決まってきます。はっきり言えば、退院先が決まらないと退院の時期も決まらない、と思っています。」
「家には、帰れませんか?」
「不可能とは言いません。けれども、今彼女は何をするにも介助が必要な状態です。食事もベッドまで持っていってあげないと食べられない、トイレに行くのも誰かが転ばないように見守っていないと危なっかしい。お風呂も誰かが入れてあげる必要があります。そして、時には痰が詰まりかかって自分で出せなくなってしまうので、そうしたら取り出してあげないといけない。」
浩平氏はため息をついた。予想以上に厳しい台詞だったのかもしれない。僕も胸の中で小さくため息をついて、言葉を継いだ。
「他にも、暮らしていくなかで細かなことがたくさん出てきます。そのほとんどは、みさきさんひとりではできないことでしょう。家族がたくさんいて、分担できれば、あるいは頑健な若者であれば、それでも何とかなりますが、ご自身ご病気をおもちの旦那さんがひとりで介護するのでは、すぐに立ち行かなくなるだろう、わたしたちはそう考えています。」
患者本人より、まず介護者が倒れてしまうのもよくあることだ。介護者自身が病人ならなおのことその可能性は高い。立ち行かなくなることが予想できているなら、できるだけそれを回避するのが、専門職の務め。気持ちだけでは、現実に介護はできない。気持ちだけが先走って実際の介護の厳しさに音を上げたり、介護放棄になってしまった例ならいくつも見ている。みさきさんにも、浩平氏にも、実際に立ち行かなくなる前に厳しさを理解して欲しかった。
「先生。」浩平氏は、僕の言葉に諾わなかった。
「みさきのことばかりでなく、わたしのことまで心配してくださってありがとうございます。──でも、まずわたし自身が多少の無理をしてでも、みさきと一緒にいたいんです。みさきが、わたしにそばにいて欲しいと願う限り。」
Wish you were here. 唐突にそんな言葉を思い出した。この文章は仮定形で──ゆえに、『あなたはここにいないけれども、あなたにここにいて欲しい』という意味になる。
「昔、まだみさきに出会ったばかりの頃、みさきにとんでもなく寂しい思いをさせたことがあったんです。それでも、みさきはわたしを待っていてくれました。それ以来、できうる限り一緒にいようと思ってやってきたんです。光を失ったみさきには、聞こえるもの、触れられるものしかわからない。ならば、わたしはできる限りみさきの声の届くところに、すぐに触れられるところにいたいんです。」
鴛鴦夫婦。仲の良い夫婦をたとえるのにそんな表現を使う。ひとつがいの鴛鴦、そんな表現よりももっと強く、この二人はつながり合って生きてきたのかもしれない。
「この間、施設に預けることも考えました。友人にも聞いて、施設がどんなところかも調べました。確かにわたしが介護するより、いいところのようにも思いました。けれども、それでもみさきは嫌だというのです。知らないところで、どんな環境かもわからないところで知らない人に囲まれて生活するのは嫌だと。自分のテリトリィで、自分らしく生きたいと。そして何より、わたしと一緒にいたいというのです。先生、無理を言うようですが、みさきの願い、叶えてやってくれないでしょうか。」
比翼の鳥。二人で一組の羽根を持って羽ばたく鳥。この二人は、そんな風にして生きていこうとしている。そんな気がした。
訥々と語る言葉に嘘はないと思えた。ならば──僕のやることは一つだ。
「ご主人のご希望はわかりました。でも、それが現実にかなえられるかはよく検討してみなければなりません。気持ちだけでは無理ですし、費用の問題もあります。申し訳ありませんが、お子さんたちにも声をかけて、話し合いの機会を設けさせてもらえますか? どうやったら家に帰って介護が続けられるか、そのために何が必要で、どうやったらそれが準備できるか、検討会をしたいと思います。」
専門職の意地をかけて。クライアントの希望を叶える。それが僕の仕事だ。
「わかりました。声をかけてみます。」
そういって浩平氏は、深々と頭を下げた。

scene10:カンファレンスルーム-2

「それでは、始めさせていただきますね」
土曜日の午後。勤めている家族への配慮をして、この時間にカンファレンスを設定した。病院側からは主治医である僕と、病棟看護師長。そして、ケアワーカーの三人。患者側からは折原みさきさんと夫の浩平氏、そして二人の子どもの美佐氏と司氏。
まず病状を僕は全部話した。みさきさん本人にも、あまりきちんとまとめて話したことはなかったし、息子・娘とは初対面だった。現状を包み隠さず話した上で、僕はこう締めくくった。
「はっきり言えば、ひとりで在宅介護を始めることは無謀と思います。もし、在宅介護で診ていくという方針ならば、旦那さんに頼る部分を極力減らし、介護サービスを目一杯利用することが必須だと思います。ただ、介護サービスは無料ではありませんから、この点が問題となります。
一方で、施設介護をするとしてもお金の問題はついて回ります。詳細は省きますが、月に十万円以上かかるのが普通です。高いところならその何倍にもなることがあります。」
僕はまず、みさきさんに目を向けた。
「みさきさんにまずお聞きしますけれど、退院先はどうしたいですか?」
「わたしは、できることなら家にいたいのですけれど、でもそれが、浩平の負担になるのも嫌です。」
それを聞いて、何か言いたげにした浩平氏をそっと制して、僕は同じことを子供たちに問うた。
「お母さんの気持ちもわかるけど、お父さんに無理をさせるわけにはいかない、施設に入った方がいいんじゃないか」司氏が代表して、そう答えた。
「費用の面については、どう考えておられます?」
「それについては‥‥うちも家計には余裕がないですし‥‥。自分で言うのもなんですが、当にはならないというのが正直なところです。」
「わたしのところも、子どもにお金がかかるので。パートにでても、その分がすぐ消えちゃって貯金もできないくらいですし。」
すまなそうに言われてしまった。ある程度は予想済みだったのだけれど。
「先生」浩平氏が口を開いた。
「わたしとしては、みさきを住み慣れた家で暮らさせてやりたいんです。古びた小さい家ですが、それでもみさきはあの家の中なら頭にしっかり入っています。みさきが体の動く限り、自由に動けるのは、あの家だけなんです。世話はわたしが引き受けますから、家に帰れるようにしてもらえませんか。」
「お父さん、そんなこといっても、自分も酸素を吸ってる状態でしょ? 母さんの世話をずっと続けてたら体が参っちゃうわ。通院だってあるし、共倒れになるのは見えてるわよ。」
「ちょっと、いいですか。」
僕は口を挟んだ。
「見ていると、ご主人はほとんど毎日面会に来るんですよ。率直に言うと、僕自身も自宅に帰る方がいいのかもしれないと思っているんですが、その理由がこれです。毎日朝から面会に来るより、二人で家で生活する方が、もしかしたら体は楽かもしれない、そんな風に思っているんです。いろいろな介護援助を入れないといけないですけど。」
どのくらい入れるんでしたっけ?とケアワーカーの人に聞いた。
「まだ介護認定が下りていませんけれど、予想としては要介護度3位は取れると思っています。ホームヘルパーや訪問看護、訪問入浴などを毎日少しずつ、入れることができるかと思います。具体的にはサービスのリストを見ながら、回数と時間を考えることになります。」
「そうですか‥‥」
介護保険の仕組みについてはあまり把握していなかったらしい。一つ納得してもらえたようだった。
「あと、通院についてはどうするのでしょうか。うちはかなり奥まっていて、タクシーを使うにしても歩く距離がかなりありますけれど。車道に通じる道は舗装してませんし」
「司、そんなことは何とでもなる。タクシーの人にも手伝ってもらえる。心配するな。」
「でも、雨の時もあるだろうし‥‥。」
通院。それには確かに外に出ることが必要だ。トイレに移るのも重労働な人には、確かに大変なことではある。
「それについては、ご了解が頂けるなら、訪問診療に切り替えていこうかと思います。いわゆる往診ですね。」
「どの先生にお願いするんですか?」
「可能ならば、僕が。週一回、往診の日があります。みさきさんのお宅は本来ならば範囲外なのですが、すぐ近くまで往診に伺っている患者さんがありますので、一応特例が認められそうです。」
調べてみたのだけれど、訪問診療の看板を出しているところはこの界隈に少なく、病名が多いことも手伝って引き受け手がなかった。
病院の上層部と掛け合うのはしんどかったけれども、僕の往診地域からほんの数百メートルはみでるだけ、ということで、特例を認めてもらった。
「そんなわけで、在宅介護支援の家事援助や訪問看護を導入しながら、訪問診療で医学的管理をしていく、という形が、とれそうではあるんです。ただ、介護の仕事を旦那さんに任せてすむ、ということでもないので、お子さんたちもお呼びして状況を把握してもらったわけです。お忙しいとは思うのですけれど、時間を見つけて、手伝ってあげて欲しいと思っています。手伝ってもらうことで、なによりまず気が楽になって、ひとりで背負わなくてもよくなりますから。」
「わかりました。どこまでできるかわからないですけれども、努力してみます。」
「ありがとうございます。──ええと、みさきさん、だいたい今日話したいことは終わりなんですけれども。何か他にありますか?」
少し疲れたようにみさきさんは座っていた。信じられないような、夢を見ているかのような、そんな表情をたたえて。
「先生。‥‥わたし、ほんとに家に帰っていいんでしょうか。」
「ええ。あなたは自分がいたい場所にいることができます。それを叶えるために力を尽くすのが僕たちの仕事です。今のところは何とか、あなたの希望を叶えることができそうです。」
「よかった、よ‥‥」そういうと、みさきさんの眼から、涙が零れた。

scene11:病院玄関

退院の日は、幸い青空の広がる好天に恵まれた。
「気をつけて帰ってくださいね。」
そんな声にいちいち振り向いてはお礼を言っているので、迎えの車をずいぶん待たせているようだ。
車の迎えは息子さん。今日は仕事を休んだらしい。同じく仕事を休んだらしい娘さんに手を引かれながら、車に乗りこんだ。
みさきさんは本当に嬉しそうだった。食べ過ぎ、飲み過ぎは禁物です。特にしょっぱいものは厳禁です。そう言い渡されたときにしょぼんとしていたのもどこへやら、今日の帰り際には美味しいお菓子を食べさせて欲しいと頼んでいた。
「これからが思いやられるなぁ」
車が走り去った後でそうひとりごちる。
「そうですね。──でも、あの二人なら、何とかやっていくんじゃないでしょうか。」
一緒に見送った看護師長が応える。そうだね、と僕も応えた。
食事はわたしが責任を持って管理します、そういっていた浩平氏。栄養指導の内容も悪戦苦闘しながらよく把握していた。そんな努力を、ずっと続けてきたのかもしれない、そう思った。
比翼の鳥は、今羽ばたいた。ここが、新しい旅の始まり。この先にどれほどの苦難が待つか、知りながらも旅は始まった。
そして、僕は。旅の随員のように、二人に寄り添って看ていけたらいいと思う。願わくは、死が二人を分かつまで。

(fin)


Written by Genesis
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