歳時記(diary):七月の項

一日

一晩だいぶ寝て、少しは調子回復したかな〜という朝。夜当直するのは不可能ではないがヘタすると翌週に響きそうと思って当直回避するように策動してみるのだが....代われる人いないとの結論。
しょうがないので夕方まずは一眠りして、夜中はお仕事して。
夜ぽつぽつと女子大生が二組来院。軽い吐き気と頭痛とダルさ。体育会系部活で付き添ってきた娘も同じ。水分摂取量聞くとかなり少ない。軽い熱中症だと思うのだけれど。そういったら「減量で水分とる量が少なくて」......。
そういうレベルで体育会系部活なんかやっていると健康に悪そうなのだが。学生スポーツの未来について案じてしまった夜。

日付変わる前のところで病棟からコール。夕方入院した患者が調子悪く。外科処置必要だろうと判断して夜中に呼びだして対応をいただいた。

二日

重症患者というとけっこう血液浄化がついてきて。夜中に透析始めて仮眠に。

午前中仕事をして、早めに帰ったのに、その後は子どもにつきあって後縁に散歩しに行ったり。あまり休めず.....。

三日

「もう一つのシアター!」を読んだくらい。だらだらして、昼寝つき。
庭のじゃがいもを掘り出してみたら、意外と大きなものもできていた。

四日

やらないといけない仕事もあるのだけれど、とりあえずは子どもを寝かそうと早寝。明日の朝だ....。

五日

で、結局起きられずに朝仕事にならず。(滅)
出先ではネット接続できないということで、公衆無線LANなんぞ契約してみる。どのくらい使えるのかな....

六日

夜、急きょの腎生検の勉強会。他院の病理の先生においでいただいて。終わったあと宴会付き。

七日

今年はなんだか夏が前倒しできている印象で、すでに熱中症のニュースが新聞をにぎわせている。原発労働者が救急で病院に運ばれたニュースも続いている。
放射線が多量に出ており、防護服を着込めば暑くてたまらない。そのような状況下でなおも復旧へ向けて仕事をしている人々には敬意を表する。

けれども、健康を害するような環境で作業を行うこと自体は、作業の効率を落とすし思い掛けないミスを招来する。作業員の健康を守ることは、迅速な復旧とも合致することだと思うのだ。
まあ、一つの手段は自殺志願者のみで作業を進めるというもので、急性放射線障害で死にたいという希望者を募ることが考えられる。やったら社会的に許されないと思うので考えないでおく。
とすると、防護服に空調を組み込むという手だてが考えられる。空調服のように風を通すだけという作りも考えられるが、すでに高温になっているところで風だけ通しても下手をすると逆効果になる。となると小さいながらエアコンのような、熱を体外に逃がすような機構を組み込めばいい。
ここまで考えてわたしが思い至ったのは宇宙服。宇宙飛行士が着ているあの服ならば、放射線防御も完璧だろう。強い太陽光を浴びた部分は熱を持ち、一方影の部分はまったく熱くならない。宇宙服はその熱を分散させる処理が出来るようになっていると聞いている。まあ強い光を遮るバイザーはむしろ邪魔だろうし、一応周りは空気なので宇宙服ほど完璧に熱を逃がさなくても足りると思う。まあ体幹の部分をきちんと冷やしてあげて、手はむしろ細かな作業のためにからだに密着する作りにしてあげたい。
しかし、宇宙服を地上で着ると非常に重い。NASAのEMUは120kgあるという。こんなものを着ては歩くことすらままならない。となれば、サイバーダインのロボットスーツ機構を使う手だろう。動力アシスト付きで防護服が重くてもきっと大丈夫。稼働に電力を喰いそうだが、アンビリカルケーブル式に有線でつなぐのが手間要らず、と思う。

八日

夜、東京腎生検カンファ。移植腎の拒絶についてとか、ちょっとお勉強。

行き帰りで「チョコレートコスモス」(恩田陸)を読了。ずっしりしたお話を読んだなぁという感じがする。佐々木飛鳥という個性がぶっとんでいて目が離せない。続きも読まなきゃあ、って思うお話。

九日

休みの土曜日だけれど昼から日直当直。
休憩時間を使ってプレゼンの準備したり。こんなときは"Credens justitiam"がBGMに最適な最近のワタシ。歌詩に気を取られないのでよい。

十日

当直明け。
そのまま昼過ぎまで患者さん向けの学習会に。他院で透析継続中の30年以上透析を続けている方の話とか聞いたのだけれど、現在も仕事を続けているとのことで元気そのもの。30年の長きにわたって透析を続けている人はごく少数なので、一般化はできないものの、透析医療の限界はまだ先にあるのだろうと思ったり。

十一日

午前外来、午後病棟カンファで夕方透析回診で夜会議。患者さんところへ行くのはその合間。まぁ普通の生活です。(死)

十二日

ちょっと思考実験というところです。実際、一人の作業員の連続作業時間を延ばせるほうがいいのではないかという気もしまして。
首はともかく腋窩は「着る」ものとしてはちょっと設計しにくいということがあるかもしれません。上半身全部に結局なってしまいそうです。クールベストも使用されているようですが、つけていなかった作業員が熱中症になったとかなんとか。

そしてわたしは当直へ。日直当直〜明け〜通常勤務〜当直ってのは比較的珍しいが時々組まれる程度の勤務態勢。けして驚いていてはいけないのだ。

十三日

当直明け。透析回診して、病棟の患者さんが落ち着いているのでちょびっと昼にうたた寝をして。

がんSTOP運動。WebPageの香ばしさが何とも言えず。賛同者のリストをみるとプロフィールに「ホメオパシー」なんかの文字が踊っているのがわかりやすいですね。

十四日

緊急時における食品の放射能測定マニュアル。ちらちら読んでおくようにしよう。

Health State of Belarusian Children Suffering from the Chernobyl Accident:Sixteen Years after the Catastropheを紹介されて読む。なかなか面白い。チェルノブイリ事故のあと放射能汚染地域に住んでいた子どもとそうでない子どもとで二つのコホートを作って、時間をあけて二回の調査を行い、自覚症状や病気の発生率を比較している。病気や症状によっては放射能汚染地域の子どもで高い発生率が出ている病気がある。まぁRelative Riskとして4程度までは出ている。なぜか甲状腺疾患について調べていないのだが。
今福島を中心に進んでいる放射線被害については、是非コホート作るとか小さいことを いわず、悉皆調査で知見を集積して欲しいと思うのだが。

十五日

夜は記念レセプション。雑誌社の人(鈴○さん)と話していたら、"鈴”の字を書くときに"令"の部分の下半分を"マ"に近い形で書いたら「縦棒で書くのが正しい」と注意を受けたとかそんな話が出て。「そんなの、手書きの文字について明朝体で書くのが正しいとかゴシック体で書くのが正しいとか、そんなレベルの話だと思います」と言ったのだけれど。

十六日

午前出勤してから日直当直。
午後救急の一番の人は消化管穿孔。外科に連絡とって緊急手術と相成る。終わったあとはエンドトキシン吸着が待っており、忙しい夜だった。

受診する患者さんで少なくない人がいくつか病気を持っていそうなのに病状不明で。老人施設から搬送されてきたのに一片の診療情報もないとか、「夜なのでしょうがない」って問題じゃないと思うのですが。
医療は情報勝負なので、これまでのことがわからないといい治療は受けられませんということがあまり意識されていないように思ってちょっと不満。

諸君、わたしはサイエンスが好きだ。とりあえずメモしておく。

十七日

当直明け。胸腔穿刺手伝ったりしてから帰って、本読んだりしている間に夜。相方は昼寝をしていたのに自分は出来なかった。しくしく。

十八日

透析当番で出勤。当直明けで朝病院にいたのを出勤とカウントすればこれで丸二週間休みなしですが何か。

十九日

六時で仕事終わって子どもの保育園に急ぐ。たったこれだけのことがとっても負担って、やっぱり仕事の仕方が何か間違ってるんだろうなきっと。
晩飯(牛丼)作って喰わせたら子供らが「こんなおいしいの食べたことない〜」とか宣う。……それはとっても可哀相な子どもに聞こえるから他所でそういうことを云わないように。

二十日

午前中透析当番で処方日。夜透析当番で処方日で病棟の患者のサマリ書きとかプレゼン原稿作りとか。
帰って晩飯食べると日付変わってて、それから荷造りしたり。

二十一日

日中必死になって仕事して、午後一番で腎臓萎縮気味なRPGN患者の腎生検して、午後外来やってから羽田行きの電車に飛び乗る。最終の広島行きに乗って夜の泊まりはコンフォートホテル広島大手町。徒歩一分のところにコンフォートホテル広島があってわかりやすいような分かりにくいような。いっそ隣にするかさもなきゃ電停一個分くらい離せよと思ったり。

電車と飛行機の車内は「天冥の標 IV 機械仕掛けの子息たち」(小川一水)と「桜の下で、もういちど」(飯田雪子)。
「天冥の標」は「えっちなのはいけないのだろうか?」と考え込んでしまうようなディープな"性"への考察を含みつつ、でも登場人物の多くが「ラヴァーズ」という作られた存在であり。ヒトならぬものがヒトの姿を描きだす、こういうのがSFらしい人間考察だよなぁと思いながら満足して読み終えた。しかし、どれだけ読み進めても結末が見えてこない作品だな。
「桜の下〜」を読み終えた時、ちょうど手持ちのiPod Shuffleは「Farewell Song」を演奏していた。そんな感じのさわやかで祝福にふさわしいようなエンディング。

「有用性を示す」ってことばをどこかで聞いたと思ったけれど、ウフコック(C)マルドゥク・スクランブルか。

二十二日

医学教育学会参加。

演題を用意しているわけではないので少しのんびり聞いて回る。
午前中は一般演題を。午後には「プロフェッショナリズム」についてのシンポジウム。ソマティック・マーカー仮説など、判断と倫理についての研究の話から、米欧合同医師憲章日本語)に出ている「プロフェッショナリズムの三つの原則・十の責務」[「患者の福利優先の原則 」「患者の自律性(autonomy)に関する原則 」「社会正義(social justice,公正性)の原則 」と、「プロフェッショナルとしての能力に関する責務」「患者に対して正直である責務」「患者情報を守秘する責務」「患者との適切な関係を維持する責務」「医療の質を向上させる責務」「医療へのアクセスを向上させる責務」「有限の医療資源の適正配置に関する責務」「科学的な知識に関する責務(科学的根拠に基づいた医療を行う責務)」「利害衝突に適切に対処して信頼を維持する責務」「プロフェッショナル(専門職)の責任を果たす責務」]のお話とか。これをどう理解してもらい、どのように振る舞いに反映させるか。指導医がそのように振る舞わなければ、下は見習わないし。(Hidden curriculumですが)

夜の懇親会の司会は広島大学の学生、と紹介されていたが、本職としか思えない手慣れた司会ぶりで。何でもしっかりアルバイトでは司会業をこなしているそうな。
その後は大学時代の知人の林とたまたま知りあった杉原さんと医学生自治会連合の奥野くん、という一期一会な組み合わせで飲みに行く。

二十三日

医学教育学会二日目。
「地域医療教育の新たな展開」では、Increasing Access to Health Workers in Remote and Rural Areas through improved retention.にて、僻地・医師不足地域への医師供給の上で大事なことを示している。僻地出身者・総合医・僻地医療の教育を受けた医師はより僻地に残りやすいという、ある意味分かりやすいEvidenceがある由。お金を出すことにEvidenceがあるのかどうかはちょっと知りたいところ。
医学部一年生から初期臨床研修修了までの八年間で、まずコミュニケーション能力などを外来・診療所で身に付け、徐々に大病院での高度な医療に進めていくという地域基盤型教育の提案がありなるほどと思った。
けっこう地方国立大学の医師態勢は厳しいものがあって、どこもあの手この手で研修の魅力を上げ、人が残るようにとしのぎを削っているように思った。大事なことだと思う。

午後のところでは医学教育専門家についてのシンポジウム。カリキュラムの立案や学びについての理論などはあまり体系だって学ぶ機会は乏しく、医学教育専門家として養成する必要はあると思うのだが、現実にはどのように育てるかが難しいところに思う。

三時過ぎに会場を抜けて新幹線で岡山へ。相方と合流して夕食を食べてホテルへ。たまたま倉敷天領夏祭りということで交通規制されていたりして大変....。

二十四日

午前午後と相方のお友達巡り。午前中はライフパーク倉敷で。二階の展示室で紹介されていた本田實というアマチュア天文家のことが印象深い。(星尋山荘参照)。他に仕事を持ちつつもアマチュアとして自分のやりたいことに時間を費やして大きな功績を残した人。素晴らしいと思う。

夜になり飛行機で帰京。すっかり寝てしまった三歳児を抱えて歩いて、駅の入り口でエスカレーターの入り口に「節電のため休止します」と書かれた看板を見て殺意を抱いてみたり。どうせやるなら昼間にしとけと(ry

二十五日

午前外来・午後病棟。比較的のんびりした日だったような気がする。
来月CPCやれとか下知が来てるのが問題くらいだろうか。

二十六日

夜は当直。割と穏やか....だったきがする。救急車中心に数は来たけれど。

二十七日

そろそろCPCやらなきゃといいつつ、あんまり進まなかった夜。普段みてない病気だけに、勉強することが多くてね。

二十八日

夕方、面談と患者死亡と面談と重なる。隙間を縫うようにして説明して書類書いて手続きとって面談して。待たせちゃいけないと思うとちょっとしんどい。

二十九日

白亜紀からの挑戦状を読みながら、宮沢賢治の「生徒諸君に寄せる」を思い出していた。「衝動のやうにさへ行われる/すべての農業労働を/冷く透明な解析によって/その藍いろの影といっしょに/舞踏の範囲にまで高めよ」なんてあたり。
神や悪魔や運命や偶然によって説明されていたもろもろの事象が、科学の発達に伴って徐々に必然と法則によって説明されてくる。その過程はとても楽しいものだと思う。

三十日

一日休暇。……って書いたら一日九課って変換したかわせみ。それってどんなstand alone complex?

ちょっと遠くまでお買い物に出かけたくらいか。

三十一日

佐賀県武雄市、市のページをFacebookに完全移行へ」のニュースを見ながら疑問。
「現行のホームページでは​、どのコンテンツがどれだけ見られているかを職員全体で​共有することが難しかった」……アクセスログ解析しろよ​。プロバイダなのか地球の裏側なのか市内の企業なのか、​そこまでフェイスブックが情報くれるとも思えないのに。
「市の全職員にTwitterアカウントを付与する」…​…ネットなんて正直サザンクロスシティ(C)北斗の拳 みたいなところで、モヒカン族が跋扈する街を生き抜くための相応のスキルを持たない人​間にtwitterやらせてもねぇ。そもそも公務員は全​体への奉仕者であって、一部への奉仕者ではないのだから、twitt​erみたいな声のでかい人への対応へ神経をとがらせる必​要があるところまで手を出す必要はないと思うし、逆に声​を上げられない弱者への配慮が落ちないか?と思うわけで​す。


Written by Genesis
感想等は、掲示板かsoh@tama.or.jpまで。リンクはご自由に。

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