歳時記(diary):二月の項

一日

午前外来は人数の余裕があるので、つい一人当たりの時間が長くなる。悪いとは思わないが。

二日

忙しくしているだけで終わる日。
病棟の持ち患者が多量なのが一因なのだろうけれども。

三日

忙しくしているだけで終わる日その二。
診療以外のやることが全然進まない。

四日

午後、外来にホームレスの人が受診。ざっと調べるだけでがんが相当進行しているらしいことがわかる。本人に話すと「自業自得ですから...」と。
病気になるのが自業自得って生活がどんなものだったのかちょっと聞いてみたいような気はしたのだけれど。

五日

パンツの群れが大空を飛ぶ日が来たってどういう見出しでしょうかね。

六日

神代植物公園へ。見どころとしては季節の関係で梅くらいしかなかったんですが、散策にはまあまあ。……もう少し暖かければなおさら。
「アルストロメリア」和名を百合水仙・一名を夢百合草と呼ぶそうですが。温室で見かけてさだまさしファン的には楽しかったところ。花の時期にまた来るか。
そのあとは深大寺へお参りして蕎麦を喰って帰ってくる。

「波に座る男達」(梶尾真治)読了。サイエンスじゃないけど、やっぱりなんか設定雰囲気がSF。楽しく読む。

七日

軽くショッピングモールを回ってお買い物。
「ずっと、そこにいるよ。」(早見裕司)を読む。水淵季里の声はきんきん声、ってことになっているんだけれど、わたしにはどうしても細くて囁くような声のように思う。高い声ではあるような気がするのできんきん声も間違ってないのかもしれないけれど、その言葉からわたしはある程度力のある、張りのある声をイメージするので。季里はもう少し、力の入らない声を出しそうな気がする。

八日

研修医のレポートを読んでいてふと"mmHg"という表現に引っかかる。血液ガスで酸素分圧の単位はtorr(トール)ではなかったかと。調べてみるとほとんど同じ単位なのだが、計量単位規則に定められたことには、血圧および眼圧のみmmHgを使用可能で、生体内の圧はtorrで示してもよいとのこと。ただしどちらもSI単位系にない単位なので、圧力の単位(Pa:パスカル)に変えていくことが望ましい様子。
収縮期血圧が16hPa、なんて言われても全然ピンと来ないのだが、そのうちそういうふうに言うようになるのだろうか。

九日

最近、夜は子供に付きあって早寝して、朝五時とかに起きだすことが時々。
朝早起きの方がいいリズムなのかもしれないけれど、一定してないのでいいんだか悪いんだか。

十日

当直明けの明け方にほとんど初診の透析患者が救急車で来院。ついこないだまで某大病院に入院していたそうな。外科手術までその病院でやっていると聞くと....頼むからちゃんと救急で診てやってくれよと。
どこが病気の大本なのか今一つわからず、患者対応しながら電話で問い合わせしたり院内の医師にコンサルトしたり。もちろん日常業務しながら。夕方にはまあなんとか「様子を見るしかなさそう」って方針が立ち。
それから二人の退院患者の退院準備しましたさ、ええ。当直明けでしたが帰ったのは夜十時でしたさ。

十一日

高校入試:運転手が救いの手 大雪で夜行列車運休、母の機転でヒッチハイクなんて記事を読みながら、よかったね、という思いと、「前泊予定にしてたらもうちょっと余裕があったんじゃない?」って思いと。記事の記載に当てはまる列車というと、上越新幹線から急行「きたぐに」へつないで未明に金沢につくようなプランだったのだと思うけれど。
自分としては、計画を立てるときには予想外の事態にもできるだけ対処できるように考えておくように、予想外の事態にはまったときはできそうなことをやり尽くす、でありたいと思う。そういう意味では記事中のお母さんの姿勢がいいですね。

十二日

夜のケースカンファレンスは自分が担当。お題は利尿剤。
あんまりきちんと準備はできていなかったんだけれど、それでも無難に何とか。

十三日

朝から出勤して、夜は当直。

中央社会保険医療協議会が来年度の診療報酬についての改定案をまとめた。現政権の医療政策を立案している人々が大学・大病院系の人とはよく言われるのだが、「入院や救急を担う病院に重点配分」の方針が貫かれているようだ。
ただ、なにせ予算のほうでごくわずかのプラス改定にしかなっていない(それも数字の操作を排除するとマイナス改定に近い)現状で、「どこかを削ってその分を振り向ける」予算にしかなっていないのは残念。
なかでもおいおいと思ったのは療養病棟入院基本料の改定。療養病院は出来高の部分が少ないから事実上ここで収入が決まってしまう。2010年度診療報酬改定のポイント(医療介護CBニュース)に分かり易くまとめられているけれど、表にしてみる。

現状が25:1の看護師配置が必要とされていて、点数は以下の通り。

医療区分1 医療区分2 医療区分3
ADL区分1 750 1198 1709
ADL区分2 750 1320 1709
ADL区分3 885 1320 1709

これを、看護配置によって区分して、20:1ならば基本料1,25:1ならば基本料2を算定するようにする。(基本料1/基本料2)と記載するが、

医療区分1 医療区分2 医療区分3
ADL区分1 785/722 1191/1128 1361/1424
ADL区分2 887/824 1342/1279 1705/1642
ADL区分3 934/871 1369/1306 1758/1695

となると、患者の数と重症度が変わらなくても収入を維持するためには、これまで以上に看護師を増やさなければならないことになる。
そして、医療区分が高くてもADL区分が低い(=ある程度自分で動ける)患者が多いと、これまで1709点とれていたところが一気に1361点に減る、という内容になっている。1点10円だから一人一日三千円以上の減収になる計算である。

まあ、療養型病院削減は厚生労働省の既定方針だからそれでいいのかもしれないが、急性期病院にとっては治療は済んだが行くあてがない患者を受け取ってくれる病院がないと回らなくなるのだが。大学病院などに来る患者は行くあてがないことはほとんどないので、きっとエラいひとたちにはそれがわからないのだろうと思ったりする。

十四日

高幡不動にお参り。帰ってきて「シアター!」(有川浩)読了。
高校一年のとき、クラス演劇で主役をやったんだよね。別役実作品で浪人生って役。家主のはずなのにどんどん隅に追いやられていくような役。なんか、その時の楽しい感じがよみがえってくるような、盛り上がりのあるお話。

十五日

午前外来・午後病棟。
診察の時は「だいぶ元気になってきた」といっていた人の採血結果がむちゃくちゃ悪かったり。割とよくある話ではあったりするのだけれどね。

十六日

退院が三人。サマリ書かないといけない。
明日も退院が一人。診療情報提供書書かないといけない。
夜は病理カンファレンス。
しかも風邪っぴきで夕方から鼻水だらだら(ぉぃ。 地味にしんどい一日。

十七日

退院がたくさん出て、何だか久しぶりに受け持ち数が一桁になった。やあ、病棟回診が早いこと早いこと。
といっても、書き途中の論文とかあるのでそっちをやらないといけないんだけど。

十八日

午後外来。
近隣の某老人ホームからの紹介が最近今一つ。はっきり言えば嘱託医が力不足なのだろうが。普通に外来で診られそうな慢性疾患について「加療を」といって回してきたり、要領を得ない診療情報提供だったり。
「○○ホームからの紹介、最近質落ちた気がしない?」と看護師さんに話しかけたら「わたしもそう思うんですよね」って。長年仕事をしていると、看護師さんも医者に対してシビアにみているものなので。
他に来院したのは一週間前に浮腫を治療して退院したばかりの人。きっちり5kg以上体重を増やして戻ってきた。「長生きしたいとは思わないんで」とか嘯くのだが、しんどくなるとすぐ音を上げるタイプ。厳しく管理するのもいやだし、かといって後で体調悪くなってつらくなってきたらそれはそれでつらいしんどいと言いだす、そういうタイプは少なからずいる。自業自得と覚悟を決めてくれる患者さんの方が、時にリッパでカッコイイと思ったりする。

十九日

予定入院の患者さんは透析から逃げ回っていた人。ついに覚悟を決めたようであまり文句も言わずに透析導入。
もう一人入院は消化管出血の透析患者。処置が一通り終わった後で輸血しながら透析。
だいぶ落ち着いてきてたんだけどなぁ。

二十日

土曜出勤してそのまま当直へ。
どういうわけか余所にかかりつけの患者さんで苦労する夜。様子みてもよさそうなような、早めに処置したほうがよさそうなような。

二十一日

当直明けでバイクを車検に預けた後、「医学と芸術展」(森美術館)を見に行く。行きの道すがらで「文学少女見習いの傷心」(野村美月)読了。
解剖図から、今昔の医療器具から、医学的なテーマをモチーフにした現代芸術から。個人的に印象深かったのはマーク・クイン氏の「キス」や、円山応挙の「波上白骨座禅図」だろうか。
「キス」は両腕が短腕の男性と左腕のない女性が抱きあっている像なのだけれど、二人ともを障碍者に設定したのはきれい事だけにしたくなかったのかなと思ったりはする。
円山応挙の白骨は、大きなところで骨の数があってるのが興味深い。肋骨は十本、腰椎は五つ。どこで得た知識だったのだろうか。

この日記書きながらふと思い出して「かたわ少女」のサイトを見に行く。だいぶ完成してきているらしい。
MacOSX向けにも体験版があるのはいいですね。

二十二日

夜メールチェックしていると「遅くなりました」と書きつつだいぶ前に提出した原稿の直しがやって来る。
……うぐぅ...。

二十三日

消化管出血の患者が出血したり止まったりと落ち着かない。出血点を調べようとするときには止まっているというパターンが続いておりなかなかしんどい。輸血はばんばんやっているし。

夜、ちょびっとだけ「かたわ少女」体験版を起動してみる。……英語でしたか。

二十四日

患者みる以外の仕事をしようとすると忙しすぎる感じの昨今。困ったもので。

二十五日

午前中に病棟診て、午後外来やって。んでもって夜はひたすら診療情報提供書の用意。明日転院or退院が二人いる....。

まあ普通に忙しいつもりだったのだが、胸に痛みが出てきたので診てみたら帯状疱疹くさい。疲れてはいない、と思うのだけれどなぁ。

二十六日

夜の臨床検討会のお題は小児科から「出産直後から虐待発生を予想して保護を行った新生児の例」虐待が起こるリスクファクターというのは確実に存在して、客観的状況から虐待発生を予想するような家族というのは存在するということ、そこに対しては適切に介入することで虐待の発生や悲惨な結果を防げるということ。
ベースにあるのは親の貧困であり子どもの貧困である、という話にはつらいものが。貧困の中で虐待が起こり、その中で育ってきた子どもは貧困と虐待を引き継いで大人になり、また自分の子どもを貧困と虐待の中で育ててしまう、そんな連鎖が発生しているのが日本の現状であるようだ。

二十七日

土曜出勤。
午後に面談をいくつかしたら帰宅。わりと明るいうちに帰れた.....。普通のことが幸せって、いいですよね(ほんとか

二十八日

朝からのんびりする日。車検に出していたバイクを回収してきて、大野潤子を読みふける。マンガの本棚に所蔵されていたのを引っ張り出してきたのだが、絵のうまい遠藤淑子とでもいうか。
もう少し追いかけてみようと思う。

夜は当直。開始早々緊急手術×2のコンボ。直接は関係しなかったのだが、荒れとるなぁ....。


Written by Genesis
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