歳時記(diary):七月の項

一日

午後外来やってそのまま当直へ。
大混雑、というわけではないがのんびりする時間がない程度に患者さん来院。夜に来なくても.....というような方も少数。
受診行動に問題の多い名物患者さんが深夜来院。カゼ薬希望で処方して帰っていいというと「こんな夜更けに帰れるはずないじゃないか」‥‥んで、そんな夜更けにアンタはどうやって病院に来たんだと。季節がちょっと違うけれど「病院ならあったかいから」で受診する人も居たりはするんだよな。

二日

とりあえず、既存の刑法をきちんと適用して欲しいなと。警察というところはどうも病院というところを扱いかねているような印象があって。まぁ病院でトラブルを起こす人間はほとんどの場合なんらかの病人であるので、病人であることが前面に押し出されるとたじろいでしまうように思います。一方で犯罪者が病気持ちである場合に丁寧な配慮をしているかといえばそうではないような感じがしてます。
あと、別に逮捕しなくていいからきちんと立件してくれというのがこういうトラブル対応で被害者(つまり医療スタッフ)が求めることなんだと思うけれど、今一つ逮捕・勾留せずに立件することに不慣れな印象が。医療を守るという意識を持ちながら仕事するまでの気持ちを持つ必要はないけれど、その場で触法行為を行ったのは誰で、その場を収めるためにはどうするといいのかという視点から対応を考えてくれれば、と思うのだが。

三日

相方と去年明らかになった八幡東病院での「爪はがし虐待」事件が話題になる。日本看護協会コメントを出したりして話題になったのだが、調べてみるとどうも解せない。第一報はともかく、後追いで調べた内容を見るとどう聞いても言葉通りに「爪をはがした」という事実はないようす。爪切りなど通常のフットケアの範囲内、という話で。
さらに理解しがたいのは「被害者の声」が聞こえて来ないこと。通常病院内での虐待事件は本人や家族の訴えから明らかになるケースが多い。良くあるケースとしては家族が病院に調査を要求しても果たせずに刑事告訴から表ざたになるとか、民事の賠償請求から話が始まるとか。でも、このケースでは「虐待」の被害者が病院に何らかの補償を求めたとか、被害者が刑事告訴したということではなく、どうも病院が警察に連絡したようである。被害者が穏便に済ませようとしているのに病院が刑事事件にしようとするのは解せないので、なんらかウラがあるんじゃないかと。単に爪切りしてあげた看護師さんが誤解されて訴えられたという話では、ないように思われる。まぁ公判中の事件なので判決が興味深い、と言うのが現状だが。

四日

朝方調子崩した患者さんがいたのだけれど、日中のうちに対処できて帰りは普段通り。善哉善哉。

五日

暑くなってきたなぁと感じるのは自分の飲水量が激増したあたりで。普段そんなに水を飲まないので、朝食事しながら一杯に病院着いて一杯、昼食事をしながら一杯に夕食摂りながら一〜二杯、というところ。ここのところはそれじゃ済まずに水道から水を汲んでぐっとのみほすのが何度か追加され。汗の量も激増しているんだろうな。

六日

朝から透析の患者さん向けの学習会ということで休日出勤。
趣旨としてはあまり堅くならず、ちょっと有用な話が聞けてためになるようにという感じで企画しているので比較的集まりも良く。会の進行自体もスムーズでほっと一息。

帰ってきてから林業にいそしむ。──いや庭木を剪定してただけなんですが、道具として鉈や鋸がメイン、ってあたりはなんとなく園芸じゃなくて林業だよね、などと相方と話していた。

七日

透析の医者、ってのは血流がなければ仕事にならない。
全身の状態が諸々悪い方ってのは、体外循環に流す血流を確保するのが難しかったりする。透析用カテーテルというものも存在するが、それがうまく刺せないほどに状態の悪い人というのも存在するわけで。
そんな人相手に一日消耗する。何とかなったのはもう夜....。

八日

バナジウム、とかいう金属元素がある。原子番号23番の金属元素。血糖を下げる作用(正確にはインスリン抵抗性を緩和する作用)がまことしやかにささやかれている、らしい。
代謝科外来にバナジウムについての本を書いている人だかが糖尿病で受診してきたらしい。結構進行した状態で。健康食品に凝り固まっている人って、自分にとって都合のいい治療法を探す(イコール世の中で一般的な治療法を軽視する)ことがしばしばあるので、その辺りの思い込みを崩してかないといけないのは結構きつそう。

九日

再来週にプレゼン一つ。内容をそろそろ考え始める。──漠としているので却って難しい。とりあえずPowerPoint作りながら考えてみる。

十日

朝出勤して当直体制書き込んだボードをみる。‥‥ぁ、俺今日当直だった。

十一日

寝る前まで今日は朝飯食べる前に採血して職員検診行こうと思ってたのにすっかり忘れている罠。昼食前だと中性脂肪が高めに出るのが何となく嫌。

仕事終わりかけでICU行ってみたらIABP(大動脈バルーンパンピング)の機械が新しくなっている。前はどっこんどっこんどっこんどっこんと結構音が大きい機械だったのだが、作動しているのがわからないくらい静かな機械にリプレース。──でも、わたしにIABPの画面表示の解釈について聞かないように>看護師さん 専門じゃないんだから.....(でも答えたけど)

アメリカで乳がん・子宮がんの検診受診率9割とかいう記事を見て、あんだけ医療費の自己負担が大きい国でなんで検診受診率は高いのかとぐぐってみると、どうも検診だけは安くなっているらしい。「治療は保障しないが、予防は保障する」ってのもすごいスローガンだと思うが。予防接種と検診の無料化ってのは確かに一つの手だてかもしれないと思う。医療費に比べて、支出は読みやすいし。

十二日

透析診療所の回診へ。終わって外に出てみると晴れてるのに道は濡れていて。通り雨があったのを後で知った。

十三日

午前中にBlack & Decker のKS900Gなど買い求めてみる。初めは充電式で電動ノコギリ、と思って探していたのだけれど、該当する品がほとんどなく、延長ケーブルと一緒にコード式のノコギリを。主用途が植木の剪定なので丸ノコは却下、チェーンソーだとさらに「趣味:林業」の世界になってしまう気がしたのでこれも却下。しかし電動ノコギリって意外と少ないのね。ジグソーならそれなりに数もあったのだけれど。
夕方ちょっと使ってみると、確かに切れる。が、手持ちして切ろうとすると振動で材が動きやすいという欠点が。やはり立ち木の枝を切る方が向いている道具か。

午後は同僚のお宅にご訪問。お子様たちが大騒ぎ....

昼寝して目覚めてみると筋緊張頭痛。結構ひどかった....寝違えたのか?

十四日

tama.or.jp復旧。しばらく止まってたんですが復活してやれやれ。

十五日

外来で患者さんと少々やり合う。根本的にはローリスクハイリターンを求めてるってことを相手が認識しているのかどうか、よくわからなかったけれど。
ときどき、病状について医者と取引を始めようとする患者さんがいるように思う。治療行為を行っているのはそりゃあ医者だけれど、治療の相手は病気であって医者じゃない。治療の手をゆるめてなお病気が悪くならないと保証できるとは限らないのに、病状は悪くせずに治療の手をゆるめてくれと懇願されてもねぇ。病状悪くなる可能性がありますよと言われて黙るくらいならはじめから言わなければいいのにと思ったり。

十六日

「蝉時雨のやむ頃」(吉田秋生/小学館)を読む。部屋に転がっていた奴を。
こういう、淡々としたお話は好きだったりする。

十七日

落ち着かない日々を過ごす。今週は腰据えて仕事ができず。

十八日

この時期は書類の依頼が多い時期であったりする。何故か難病の認定の継続依頼がこの時期に締め切りであるため。ネフローゼや全身性エリテマトーデスの患者さんを何人か外来管理しているので、そこから書類依頼が続く。他にも介護保険など。
電子カルテの中に介護保険や訪問看護の書類は雛形が用意してあるので、それを使ってかけるし、以前書いたものをコピーできるというメリットもあるのだが、指定書式に書かないといけない診断書類は前回のコピーを引っ張り出してきて書き写している。この辺も早く電子化してもらった方がいいような気もしている。

十九日

日勤やって当直。なんだか入院の多い夜であった。

二十日

当直明けて、家にとって返して子どもの世話。下の子、熱はあるのだがそれ以外は比較的元気なのでそのまま寝かせてミルクを飲ませて。待てば治る、と、思うのだが。

二十一日

季節ネタ。熱中症環境保健マニュアル。季節柄要注意、ということで。

二十二日

当直。合間をみながらプレゼンを作る準備を進める。何とか締め切りには間に合わせたが、クオリティには不満が‥‥。

二十三日

透析診療所の回診日。当直明けなもんで合間でちょっと寝たりして。

二十四日

午前中二人入院対応してから学会へ行く。
医学教育学会のワークショップ。研修医を引きつけるプレゼンテーションを作るには、といったお題。
まずプレゼン祭りということで参加者がそれぞれプレゼンを持ちより。うう、できが悪い....。品評会のツッコミもなかなか厳しく。精進します‥‥。
そのあとの講義は身にしみてためになった感じ。

行き帰りで「星虫」(岩本隆雄)を何度目かわからない再読。最近では久しぶりなのだけれど、やっぱりいい。前向きになれる気がする。

二十五日

医学教育学会第一日。女性医師の現状に触れたシンポジウムでは、卒後十年までの間に一度退職する人が多く、その後常勤に戻る女性医師が少ないという統計データが取り上げられていた。たしかに、出産前後のみならず、何かといえば風邪を引いたりする幼児期を乗り切るには圧倒的に職場の環境が悪いわけで。子どもが熱を出すたび仕事を休むと言うような働き方を許容できる病院は非常に少ないだろうな、と思う。
シンポジストの医師会の人から「『医師不足イコール勤務医不足』ととらえている」という発言があって、やや誇張しているがそういうとらえ方でもいいかな、と思った。開業医は少しずつ増えているようで、けして余っているわけではないが急いで対策しなければならないほど足りないわけではない。緊急課題となっているのは病院勤務医が担う救急や高度医療の部分だろうとは思う。

年に一度、この学会で会う程度、という知人がいたりする。懇親会では余談をたくさん。

帰ってきてメールチェックしてみるとwinmail.datという謎の添付ファイルが送り付けられている。読もうにも読めないということであれこれチェックかけてみると、TNEF's Enoughというツールで読めるようになるらしい。普段mewで読み書きしているので、そもそもMIMEエンコードすらされず、Ctrl-u+.で強制エンコードしてファイルを保存してそいつをさらにTNEF's Enoughにドロップして添付ファイルを取り出した。

二十六日

医学教育学会第二日‥‥しかし体力事情をかんがみパス。
朝寝を決め込む予定が、部屋が暑かったのか朝6時からお子様が元気よく暴れ始める罠。‥‥死ぬ。

庭木で枝落とししないといけないのを少しだけ切ってまとめたら、それだけでシャツが水かぶったみたいに濡れ。電気のこぎり使っててこれだもんなぁ。

夕方には昼寝と読書を決め込む。「神様が用意してくれた場所3 いつかの少年」(矢崎存美/GA文庫)を読む。

二十七日

日中義弟が来てくれて剪定。桑と椋の枝落としを。

navigation on PSP。アニメ声優の声で案内してもらえるとか何とか。「却って事故る」というご意見も(ぉ

二十八日

ルーティンワークで日が暮れる....。

奥多摩消防署管内山岳事故発生状況なんてものに見入ってみる。それなりにあるなぁと思ったり。人が多いのも一つの理由かと。山というと高尾山や御岳山しか知らなかったのだけれど、トレッキングと登山はやっぱりちがうなと以前実感したことがある。

二十九日

午後の外来に出る前に皮膚科の先生から「尿に蛋白が出ている患者がいまして‥‥」と言われる。若い人だし、様子次第では入院かな〜などと身構えながら検査依頼すると、尿蛋白消えてる。
自然軽快もある病気だから、しばらく経過観察にして。まあ悪くはないか。

三十日

夕方、実家へ。一週間ほど山行に行くと聞いていたのだが早めに切り上げてきたということで、様子伺い。
近くで落雷があったり天候不順だったりしたことと、同行者が体調不良を起こしたりが重なったので予定のルートをエスケープして帰ってきたとのこと。道中でプチ遭難というか、遭難予備軍状態で山小屋に辿り着いたひとも見かけたなんて話も出ていた。
いちおう過去に軽く登山の講習は受けたんだよね。あんまり実践には役立ててないけど。山道を行くの遭難カルテ読んでみると、事前準備・リスクマネジメントそれぞれに注意が必要だななんて思いを抱いた。

三十一日

朝調子を崩した方を、夜には看取り。きっかけはおそらく消化管出血なのだが、おそらくは全身状態を支えきれなくなったのだろうなぁと思う。調子の悪い人ってこういった"治りそうで治らない"症状を呈することがあるように思う。


Written by Genesis
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