歳時記(diary):三月の項

一日

土曜出勤。最初っから当直も。
午後から夕方にかけて救急外来が大混雑で、応援に駆り出されたのだけれど、それが落ち着いた後はあんまり患者さんが来ず。何だったんだろう。
一件態度が悪いと思ったのは某老人施設。老人は大体体調を崩しやすいので、多くの施設は提携病院をつくって何かあればそこに相談することにしていることが多い。入所者が体調を崩したということで連携病院に連絡を取ったら「入院できないので来ないでください」と言われたということで、当院に連絡なしで連れてきた由。しかも複数名同時に。
法的にはなんら問題ない。医師には応召義務あるしね。でもさ、受け入れをスムーズにするためには、連絡の一本もくれていいんじゃないの?連携病院にはしてるんだから。おまけに「この人連れていくならこっちの人も連れてって」みたいな対応もどうかと思う。
病院受診の敷居を高くしたいとは思っていないのだけれど、特に職業として医療や介護に携わる人たちには、診療がスムーズに進むために気遣いをして欲しいな、と思う。

二日

当直明けて帰宅。子ども散歩に連れてった後は寝倒れる。
あとは「バトルシップガール4」読んだ位か。

笑い男現る。けっこう同ネタいくつかあるようで。

三日

あれやらこれやら入院も入って多忙な日。そして帰りが遅くなると子どもに会う暇もない‥‥。

四日

「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する本会の見解と要望」(by日本産科婦人科学会)を読む。
よくまとまっていて良い、と思う。医療事故に対してどのような対応をすることが再発予防と患者さんのケアに役立つかについて考察している、と思った。
最高水準の医療が提供されなければ過失致死として立件されるのでは医療現場はやっていけない、という危機感が基礎にある。医療水準を上げていくために医療事故に対しどのような対応が求められるか、考える上でよいまとめだと思う。

五日

当直。
救急車断ると後でたらい回ししたと後ろ指を指される昨今、キャパシティと患者の重症度を考えながら救急車の受け入れを考えないといけない。この夜は依頼も比較的軽症が多く、受け入れに困らずに済んだ。──救急室は処置中の患者さんでいっぱいだったけどね。

六日

午後、入院受け持ちの依頼の電話が入る。
「高齢の方ですけど軽症の肺炎ですし、家族もとってもいい方たちなんで問題ないですよ、自分で受け持ってもいいくらいで」
「‥‥だったら自分で受け持ちしたら?」
なんてお莫迦な会話の末に担当が決まったとか、こんなところに書いていいんだろうか。

七日

週末ということで各種指示出しやら退院処理やら終えてそろそろ帰ろうかと思ったところで末期ガンの方の脈が止まったと報告。
死亡確認やら最期のお見送りを終えて家に帰ると日付が変わっており。はぁ。まぁ家に帰ったところで呼び出されるよりましか。

八日

透析診療所にいく日。
普段だったら透析の回診終わると病棟見に行ったりなんだりで落ち着かないのだけれど、こちらでは患者さんさえ落ち着いていればあまり仕事は多くない。文献読んだりするのに良かったりする。
こういう余裕も大切、だと思うのだが。

九日

さしたることもない休日。
SONGSさだまさし出演の回をVTRで見る。pineapple hillをテレビで演奏したのって初めてなんじゃないか?と思ったり。

十日

ちょっと余裕ができたら退院時要約たまってる分と書類を作成しようかな〜と思っていると入院が二人とか入る。
指示出しして患者さんのところに行って検査の結果を確認して──で、相方発熱の報に早め帰り。早退ではないというのが辛いところ。
「明日できる仕事は今日しない」でも残業しないと終わらない感じ、ではあった。

十一日

‥‥退院出ない間にまた一人受け持ち増えました〜(滅)
もっとも、病院によってはもっとも多く受け持ちしている先生は三十人とか患者さんを担当してるので、まだまだ、とも思うのだけれど。

夜は他院の腎病理の先生に検討会においで頂いて、そのまま飲み会へ。
当院の若手検査技師(♀)イチオシの野球監督は藤田元司(巨人軍)とかいう話で盛り上がったり。好きな選手は川相に谷繁に仁志、二岡とかなりシブいラインナップでありました。

十二日

当直。四時間あまりの間に救急車三台とWalk In患者五ー六人対応ってのは多いんだか少ないんだか。子どもも含むしねえ。

十三日

午後、病棟看護師から相談が来る。
「先生受け持ちの百歳の患者さんなんですけど、生卵持ってきてもらったから飲んでいいかって聞かれたんですが」
‥‥あんたはロッ○ーかって突っ込みましたよ。百歳にしてなおこの食欲というべきなのか、それともこういう人だから百まで生きられるのか。ただまぁ、病院で生ものは衛生上の問題があるので不可といたしましたが。

十四日

ここんとこ夜更かし続いてるな〜と思いながら、今日も夜更かし。帰って寝るだけってわけにいかない様な仕事もぽつぽつあるので‥‥。

十五日

ゆっくり出勤で院内透析勉強会。終わって宴会して帰る。週に二回も酒を飲むなんて久しぶり。のんべの人に聞かれたら目をむかれそうだな。

十六日

夕方届いたamazon.co.jpからの広告メール。「お客様がこれまでに購入した商品より、お勧めの商品をご紹介します」というのはよいとして。なんで「新ヱヴァンゲリヲン劇場版」とかがお勧めに上がってくるんだろう。しかもその根拠が「わかつきめぐみ 宝船ワールド」購入歴からってあたりが。

「紅一点論」(齋藤美奈子/ちくま文庫)を同僚の先生から貸してもらって読む。刺激的で面白い。
アニメ作品、特撮作品での男性陣・女性陣の役回りのありようを考察する評論だが、細かにはともかく大きな流れとしての「軍事大国:男の子の国」「恋愛立国:女の子の国」などの図式化は興味深く読んだ。
その流れでいうと、わたし自身は男の子の国にも女の子の国にもあまり馴染めずにいるのかも。たとえば「ブギーポップ」とか「西の善き魔女」や「ARIEL」を著者の齋藤氏はどのように読み解くのか、聞いてみたい気がする。

十七日

年度末で退職される先生の歓送会を医局で開催。そろそろいこうかな〜と思ったところで受け持ち患者さんが血を吐く。そっちを対処して、終わったころにはすべてが食い尽くされていた。これで晩ご飯と思っていたのにがっくり。

十八日

夕方メールをチェックすると先日来書いていた投稿論文が採用になった旨の通知あり。三年がかりかな、書くのにかかったのは。
ようやっと一つ肩の荷が下りたような、そんな感じが。

十九日

夜は当直。
夜更けに苦しいといって受診してきた比較的若い男性は心電図とったら心筋梗塞‥‥受診受付から一時間経たずに緊急心臓カテーテルが始まっていた。
若くても病気する人はするんだよね。もっとも、あんまり病気するとは思ってないのでしばしば受診が遅れる傾向がある気がするのが困るところ。医者の方も「若いから大丈夫だろう」とあまり根拠なく思ってしまったりするのだけれど。

二十日

当直明けて、透析室の見回りを始めると‥‥何故か祝日にも関わらず腎内科所属の医師4人が全員揃ってる‥‥。
「オレ病院嫌いだから」とか言っても誰も信じてくれないですよ>某先輩 ある意味ワーカホリックが支えている日本の医療。

二十一日

外来やって回診して。入院患者を受け持ちしていると日が暮れて。

二十二日

新聞読んでたら「再審請求においても『疑わしきは被告人の利益に』の原理は適用される」とした「白鳥決定」に触れた記事があって、そのまま事件史探求のサイトを読みあさったりして。
真実を明らかにする、ってことが難しいことをつとに感じる。警察が事実の捏造に狂奔したと思われる例も散見されるし、証拠が少なく被疑者の供述が頼りのケースは少なくない。裁判を通じて事実が判ることもあるが、全体としては裁判だけでは事実が判るわけではないと思っていていいのではないかな、と思う。
犯罪捜査と真相究明は別のもの、と再認識したり。

二十三日

「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」(桜庭一樹/富士見ミステリー文庫)読了。「○○賞受賞作」とか書いてあるととりあえずやめとく(ぉぃ わたしとしては珍しく流行りもの。ダークですが。
海野もくずって名前、新井素子作品にも出てきてましたね、そういえば。

二十四日

普通にお仕事。
ときどき研修医と接していると、自分が研修医だったらどう振る舞うか、予想がつかなくなってきていることに気付く。それはそれだけ自分が色々な経験を積んだから、なんだけれど。

二十五日

外来やりながらふと患者さんから「先生は○○中学校の出ですか?」と質問を受ける。えーえー確かにそこですよ、思いっきりネイティブですが。ある意味気の抜けない日々。
最後の患者さんはご高齢の慢性腎不全。透析一歩手前なのだがさてその治療を始めていくのかどうか。話を始めたら難聴があって説明がきちんと耳に入らない。幸い頭と目はしっかりしていたので、電子カルテの端末でメモ帳を起動して説明を打ち込んでいく。幸い(時間はかかったけれど)それなりの理解はしてもらえた様子。
最新の診療報酬改定で外来管理指導料算定の要件として「五分以上の指導」とかって指定がされたってことが話題になっているんですが、丁寧に十五分二十分かけて指導しても捌ける程度しか来院しないなんてことは(特にある程度はやっている開業医ならば)ないわけで。やっぱり「医師の偏在」「業務負担の偏在」論に厚生労働省がしがみついているうちは現実的な解決策は出てこないような気がする。

二十六日

季節が良いのか、入院患者が少なめ。平和なのは良いのかな、やっぱり。
桜並木が色づいて、本格的に春という感じ。

「旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで」を読み始める。舞台設定の重さとは裏腹のからっとした書き方は割と好き。さて、どんなところで落ち着くのか。

二十七日

夜、送別会で宴会一件。
帰りがけに本屋で「禁じられた楽園」(恩田陸)と「宙のまにまに4」(柏原麻実)を買ってくる。

二十八日

外来やってると時々出会うのが、「問題点・不安」である人。医者のところに来るくらいなので健康状態に対する不安があるのだが、少なくない人が特に身体的疾患はなく、「特に大きな問題はないがそう言えば動悸がするような気がして」「目がかすむようになってきて」「身内に癌の人がいたので心配になって」受診してくる。
相手のはっきりした不安はその根源を調べて「癌がご心配のようですがその様子はなさそうですよ」みたいに言ってあげればいい。けれども「問題点・不安」の患者は「不安なことが不安」薬を出すといえば薬を飲むことが不安だし、調べるといえば調べて悪い結果が出ることが不安。結局のところ本人のいう通りにしていくとノーリスクハイリターンなやり方──つまりは魔法か何かでなければ治らない。
まぁこの辺が宗教が流行る理由なのかもしれないが。

二十九日

朝一番からお出かけ。花見しながら朝食。こどもが食べこぼしたりするのをフォローしながらそれでも少しは心和ませて帰宅。少しは心の洗濯、できたかな?
こどもも少しずつ言葉が増えたりおとなしく寝ているようになってみたりズルくなってみたりと変化していく。興味深い。

三十日

日中でお買い物して、夜はアニメ観賞会。「秒速5センチメートル」(新海誠監督)と「FREEDOM1」を。
「秒速5センチメートル」は絵も音楽も綺麗だったのだが、個人的には最終話のストーリーに不満が。なんか救いのないまま終わる感じで。

三十一日

今年度最後。さしたる感慨もなく終わる。それでも少しずつ変化している、そんなところだろうか。


Written by Genesis
感想等は、掲示板かsoh@tama.or.jpまで。リンクはご自由に。

日記のトップへ
ホームページへ