歳時記(diary):二月の項

一日

紹介入院患者が一人。なんとなく予想はしていたのだが見事に予想通りに診療情報提供書がダメダメ。「現象」は書いてあるのだが「解釈」がない。結果、患者さんはあまり良くなってないわけで。
長文の問い合わせを発送。きちんと返書が来ればいいが。

二日

仕事終わって帰りがけ、久しぶりに引っ張り出したCB400SSのエンジンがかからない。幾らキックしてもかからない可哀想なひとを見かねたのか、通りすがりのひとが手伝ってくれてプラグ磨いてみたりなんだり。色々いじっているうちになんとかかかってほっと一息。
そろそろ車検なんだが、電装系もチェックしてもらわないといけないかな。

三日

朝起きて外を見てみると雪。割としっかり大雪で、見ている分には楽しいが実際には困ることが多数。とりあえず明日まで放置すると凍って車を出すのに苦労するだろうと考えて、駐車場だけは雪かきしておいた。
本の買い出しとか、行きたかったんだけどなぁ。

四日

朝はきっちりあちこちが凍りついてて。除雪をやっておいて良かったとためいき。
もっとも出勤してしまえばあとは普通に仕事するだけなんですが。

帰りは久しぶりに電車で。「精霊探偵」(梶尾真治/新潮文庫)をちょびっと読む。

五日

朝起きてさて子どもを自転車に乗っけて保育園へ‥‥と思ったら、自転車の子供用バケットのネジが凍りついてる‥‥寒いのぉ。
大分話が分かるようになっている上の子ども。自己主張も強くなり、諦めさせるのも大変だったり。手に負えないほどではないのでまだかわいいもの、なのだと思うのだけれど。

六日

そろそろCB400SSが車検。消耗品があちこち交換時期だろうなぁ‥‥。

七日

下の子どもは夜でも数時間おきに授乳やらおむつ換えやらがあるので、必然的に上の子どもは別の布団で寝ることになり、わたしが添い寝をしていることが多い。ときどき寝ぼけて夜泣きを始めるので撫でたりなんだりしながらまた寝かすのだが。寝返りを打ちながらずるずると動いて朝になると寝たときと頭の位置が全然違ったりする。
いつになったら寝相良く寝るようになるのだろう。

八日

午前外来、午後回診。メンドウな人ばかりが長期入院になっていく。
体調の悪い人、回復の悪い人、世話をしてくれる人がいない人、お金がない人。社会に居場所がない人が病院に集まってきているような、そんな気になるのだが。

九日

土曜出勤。ふつーに仕事して、帰りがけはすでに外は吹雪。(いやまぁ雪国の吹雪とは比べ物にならんけど気分はね) バイクで帰ることはさっさと諦めてタクシーを拾いましたさ。
運ちゃんいわく冬シーズンになったところでタイヤはスタッドレスに換えて、一シーズン使ったら廃棄だそうな。まぁ乗る距離も半端じゃないし、そんなもんでしょな。
タクシー降りて歩いていると雪の積もったミツマタがデコレーションでもされているようでなかなか美しかった。

十日

日曜出勤。休日とは遠くにありて想うもの‥‥(嘘)
朝の申し送りの時に押しつけがましい救急隊、って話が。搬送依頼の電話の話を聞くからに重症そうで専門処置のできる施設に行ったほうがよさそうなのに、「診てから判断下さい」って。押し問答の末診察することになって、来院して五分で転送の決断が下されたと。‥‥患者さんにとって、ウチの病院来たのは何だったんですかね、って。
実はときどき救急隊の情報も信用ならなかったりする。多くの救急隊は真摯に職務を果たそうとしているのだが、「精神科通院中」とか「寝たきり」とか救急病院がとりたがらない患者の場合に、情報を隠したりひどい場合には嘘をつく例がないわけではない。貧すれば鈍す、とは良く言ったものと思うのだけれど。これって負のスパイラルだよな。

十一日

休日。お出かけ。帽子を買って、本を買って帰ってくる。
買って来たのは「秘密−top secret−4」(清水玲子/白泉社)「ブギーポップ・クエスチョン 沈黙ピラミッド」(上遠野浩平/電撃文庫)「狼と香辛料VII」(支倉凍砂/電撃文庫)。帰ってきてから「秘密」を読了。
わが家では「あの怖いマンガ」で通じるこのシリーズ、女性誌連載中ってのがある意味信じがたい。。しかし、この話をTVアニメ化ですか? R16指定なシーンがいくつもありそうな気がするんですが。"MRIスキャナー"ってのがこの作品のキィになるガジェットであるわけですが、「死者の見たものを再生する」技術であるために漫画でもしばしば血しぶきたっぷりだったり死体損壊されてたりするシーンが出てきてるので、アニメにできるのかしらと心配。

十二日

「割り箸事件」でぐぐるとトップでヒットする、杏林大病院で起きた事故事案。刑事裁判では「医師の過失はあるがそれが死因ではない」ということで医師無罪。民事では「医師に過失はない」で原告の請求棄却。
刑事の結論は「たとえ診察時に診断しえても救命できなかった可能性が高い」ってもので、これに拠るならば「子どもが死んだわけは、脳まで割り箸が刺さったためです」ってことになろうかと思うのだが、原告方は子どもは助けられたはずなのに医師の診察がまずかったから死んだ、って思いであるようだ。
民事も刑事も控訴したようなので高裁の判断待ちなのだが‥‥医療に完全はなく、しかも過失の有無やそれによって死因が変化したかどうかを判断するのは裁判官、ってところで、どっちにどう転んでも恨み言が出そうな気がするんだが。
ちなみに、最高裁のページでこの事件の刑事訴訟判決が検索できないか調べてみたんだがヒットしない。津山の透析絡みの案件も含め、判決を読みたいところなのだが。
‥‥つうか、捜査中の未確認情報は垂れ流されるのに確定判決の情報は仕入れるのが難しいってどうよ。

かたわ少女ですか。いろいろフクザツなものが胸をよぎりますなー。良くも悪くも等身大の姿を描いているならばそれは一つの表現活動として認めたいと思う。現実に障碍を抱えた人はいて、彼らは必死に生きているのだから。
みさき先輩かむばーっく(謎爆)

十三日

添い寝してる子どもが朝もはよから活動開始。だっこだっことじゃれついてくるので起こされてしまった。
見ているだけならば面白いですむのだが、制作管理総責任者であることを考えるとあんまりのんびり面白がってもいられず。親としての務めは果たさねばならんし。

十四日

バレンタイン(であることは当日朝の新聞読みながら初めて気付いたのだが)の収穫は看護婦さんと研修医から各一。その他に医局に「男性Drの皆様へ」とメモが添えられたチョコレート菓子が一箱あり女性陣からの贈り物と思われ。
その存在に気付いたのは「わーチョコレートがあるー」と某女性Drが声を上げていたためで。いやべつに仲間外れされてたとかそういうんじゃないと思うんだけど、きっと。

十五日

午前中外来やって午後カンファレンスやって新入院一人受け持ちして指示出しして準夜透析の回診やって。帰ったのは11時過ぎてましたが何か。
んで遅い晩飯食べたところで病院から呼び出しかかるし。日付変わる前に病院着いて看取り対応まで、してました。

十六日

昨晩亡くなった患者様の家族に病理解剖をお願いして了承頂けたので、午前中から解剖に。病棟の看護師さんが見学したいというので一緒に。
新井素子の「ラビリンス−迷宮−」という小説に、叡知の神デュプロスという(架空の)神が登場するのだが、この神、みずからを呪い殺した呪文が知りたくて、それを知るためにとうとう生き返ってしまうという神話をもっていることになっている。医者もある種その手の尽きない知識欲によって生きているというか、それがなければ成長しないというか、そういう側面があるんだろうな、と思う。

沖縄でまた米兵の事件があったと報道されてますが‥‥今後殺人や婦女暴行が米兵によって起こされた場合、無条件で基地の敷地を1haずつ返還する、とかって協定を結ぶってのはどうかと思うんですが。犯罪を犯した個人に対するペナルティーはそれなりに(軽い、って議論はあるかと思うんですが)決まっているのに対して、現在のところ米軍という組織に対して特にペナルティーはないように思える。事件が起きるたびに綱紀粛正・再発防止と唱えるけれどもあまり効果は上がっていないようだし、ペナルティーを重くしても良いように思うのだけれども。

十七日

午前、お子様のお散歩につきあう。てくてく歩いて大通りまで出て時々止まってはじーっと車の流れを見たりして。そのうち疲れてきて抱っこをせがむ。──つーか、帰ることを考えながら歩いてないだろ、お前。

「人類は衰退しました2」(田中ロミオ/ガガガ文庫)読了。妖精さんって、ある種幼児チックな行動パターンですか? 何とは無しにウチのお子様の行動とダブる気がしながら読み進みましたよ。

十八日

午後から病院機能評価の査問審査があるということで緊張して迎えた日。──そんな日に限って透析の患者が肺塞栓。それなりに判りにくい病気ではあるんですが、検査所見その他は典型的で。審査もそこそこに患者さん対応。
やっと各種仕事が終わってへたばって帰ってみるとお子様が発熱してるし。

十九日

朝からやっぱりお子様発熱続き。早く帰れとのプレッシャーを受けながら必死に仕事。
何とか八時過ぎに帰宅。これでも早い方なんですぅ。

二十日

昨夜は食事摂った後泣き出した子どもをあやしてたらそのまま寝てしまい。実睡眠時間十時間程で結構気持ち良く目覚め。

自衛艦「あたご」と漁船の衝突事故で、防衛省の発表を聞いてると、なんだか医療事故対応の悪い例を見ている様な気分になる。「判っていて当然そうに見える情報が小出しに出てくる」「初めと後で言っていることが変わる」などなど。起きたことについては取り返しつかないわけだし、自分たちの悪かった点も含めて、事実経過についてはさっさと認めてしまった方が傷は小さくすむってのはこういう事故対応での原則だと思ったのだが。
そういう面からも、危機管理省庁としての自覚はどうよと考えてしまう。

二十一日

当直。
あっちこっちから救急車要請来るのだが、今夜は気付けば初診の方が多く。他院かかりつけとか開業医かかりつけとか。病院なら自分とこかかってる患者くらい診ろよと思いもするのだが、これがまぁ医療崩壊の現実って奴で。
急に起きた症状にびっくりして受診してきた患者さんに「基礎の病気からしてその症状は予想される症状です」って言うのも大変心苦しかったのだが。インフォームドコンセントも、医療現場に余裕がないと充分に達成できないしね。

二十二日

多忙な金曜日。院内で一二を争うくらいに受け持ち数も膨れ上がっているし。

二十三日

透析診療所の回診に。合間で全腎協30年史を読む。
設立が1971年、そのころは透析医療がようやく医療保険の適応になったものの、自己負担分は毎月何万とかさみ、それでようやく命をつなぐ程度の透析ができるレベル。しかも透析の機械は日本全国で600台前後とのこと。最初の要求が自己負担の軽減と透析施設の拡充であったのも納得いくことで。
先人たちが正に命を削って要求してきた施設と制度の上で、いま透析の患者さん達が生きている。自分がいま享受しているものがどれだけの犠牲の上で作られているのか、知っておくことは必要なことだと思う。

二十四日

相方に言わせるとわたしはよく歌を憶えているらしい。‥‥とりあえず「大地讚頌」ベースパートは覚えているような気がしなくもないが、中学校くらいの基本じゃないかとおもったり。他にも「海はなかった」も覚えているのだが、これをどの機会で歌ったのかの記憶がない。
──まぁ、鼻歌で歌う歌には事欠かないって話なんですが。

二十五日

仕事終わったところでやろうやろうと思っていた論文投稿作業。文章がひと通り仕上がったのでさて投稿、と思うと、書式の整理や正誤表の作成(‥‥;)などの作業があり。日付変更近くまでごそごそと。
まわりでは研修医やら内科認定医受験予定者もレポート作成や認定医症例レポートまとめに精出しており。わーいお仲間(ばき)

二十六日

受け持ち多くてひぃひぃ言っていたら、明日は退院三人。──つーことは退院サマリ三件に紹介状三件ですか。書き終わると十一時‥‥。

イージス艦の衝突事件に関連して、「事故で叩かれて防衛省も可哀想に‥‥」なんて感想を抱く医師も一部にいるそうな。まぁ防衛省が加害者的な立場に描かれて叩かれてるのはその通りなんですが‥‥叩かれてるからって「まるで医療事故で病院が叩かれてるのを見るよう」まで思わなくてもいいんじゃないかって思ったり。医療事故報道の中には病院・医師に対する要求が過剰だなと思うことは多々あるんだが、今回の衝突事故についていえば、新聞報道が基本的に事実であるならば自衛艦側に回避義務があるような状況であったわけで。
最終的には何が事実なのかは海上保安庁の捜査や海難審判の決定として明らかにされることと思うのでそれを待ちたいと思うが。

二十七日

子どもが二人になって、「どうやって保育園に二人連れていくべ」と思っていたらキッズリムジントレーラーなるものを知る。小熊さんThanks.
車道の車通りがおとなしければこいつを使いたいですな。現実には相当難しいってことなんですが。

二十八日

受け持ち数が減るとぐっと余裕ができる。保留にしてたことが進み出したり。
とりあえずは発表なんかの準備が先だが。

二十九日

二月終わり。今週結局子どもが寝る前に仕事が終わることはなく。あんまり良くないよなぁ。


Written by Genesis
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