歳時記(diary):十二月の項

一日

相方と二人して都内の勉強会へ。お題はアルツハイマー病の画像診断。
思いっきり専門外じゃんって言われたらその通りなんだが。ただまあプライマリケア領域で認知症のこと判りませんじゃすまないし、アルツハイマーの方の死因のナンバー2が腎不全(ナンバー1は肺炎)って言われると他人事じゃないし。患者さんにとっても家族にとっても、病名をはっきりさせて予後をきちんと話してあげるのは重要だと思うわけだ。
時々、自分が役に立たない予言者になっているような気が、することはある。(変えられない未来を正確に告げるだけ、ってね‥‥)。

二日

在宅日直。ついで、ってわけじゃないが病院であれこれして。
「小娘オーバードライブ3 遅れてきた魔法使い」(笹本祐一/ソノラマノベルス)読了。小石川道羅ェ門、まだまだあやしいものを屋敷内に残していそうな気が。

三日

ときどき、自分の代わりに自分が考えたことを記述してくれる人が欲しくなりませんか?

書類とかサマリとかカルテとか、書かないといけないことがたまるとこんなやくたいもないことを考える。

四日

退院がここのところ続いたのでその後始末を。入院も入るし、帰りは遅くなるし。

bsfilterの高速化には、スパムメールが入るフォルダ内にあまりメールを入れておかない、というのも効果的な様子。

五日

気分は同時多発テロ対応中、てな感じの一日。
夜間の入院患者一人受け持ちして、透析の回診して。回診途中で入院の依頼が来てそっちを少し対応して、他の入院中の患者さんの対応もして、透析後に体調おかしくなった人を入院にして各種検査指示薬剤投与指示して予定入院の人の対応して。
今日一日だけで四人受け持ちが増えた‥‥。

たまったストレスをお喋りで解消してたりする。研修医(♀)と喋ってたら川原泉ネタで盛り上がったりしていた。

六日

夜飲み会が予定されていたのだけれど、仕事が終わらない。やむなくキャンセルの憂き目に。

七日

外来。
初診の高齢者、入院した方がよさそうだなと思ってお勧めすると、「以前入院したときに幻覚が見え出したりして大変だったので、できれば入院させたくない」との由。おそらくは譫妄であったのだろうと思われるが。
もともとあまり問題行動がなかった高齢者が入院を契機に大騒ぎすることは少なくなく。家に連れて帰ったらよくなったり、薬剤投与で落ち着いたりする。中には譫妄をきっかけに認知症症状が進む人もおり。治療の上では問題になりやすい。自宅で世話する方が環境が変わらない分起こしにくいんだが、病人を介護するのも大変だしね。

八日

規制改革会議の医療分野規制緩和策の原案についての報道を読む。原文は発見できなかったので報道があった範囲内での評価だが、ひと言で言って役に立たなそう。
ヘッドラインに書かれている看護師による処方・検査は、現場では事実上行われている。「便秘なんで本人が前飲んでたラキソベロン渡していいですか?」なんて電話はしょっちゅうあるし、低血糖症状かもしれないと思って事後承諾で簡易血糖測定したなんてことは少なくない。それに承認を与えて処方なり検査なり指示を残すことはそれほど負担ではない。そこを解禁したところでどれだけ業務が楽になるかは疑問だし、有害事象が発生する確率が上がるようなことだったらやらないで欲しい。
医者が相手にしているのは患者であって、症状や検査所見ではない。検査所見を正常化することや、症状を取ることに目を奪われると治療が却って進まないことがある。看護師ができる医療行為を拡大することで、判りやすい症状や検査所見に目を奪われた対応が広がることは、却って好ましくないところもあると思う。
医療従事者の派遣についても、各業種でこれだけ派遣による労働条件の低下が議論されているときに派遣自由化の方向を打ち出すのは理解に苦しむ。医療業界の労働条件の悪さについては最近論じられているところだし。医師に関して言えば、そもそも足りないところに派遣できるだけの数がいないことが問題の大本であるはずだし。
混合診療解禁についても熱心なようだが、先ごろ東京地裁で出た混合診療を認めるとする判決の例でも、問題となったケースで患者が求めているのは「活性化自己リンパ球移入療法」で、治療効果がはっきりしないとされて先進医療の適応を取り消しになった治療であるわけで、よい治療とは言えないという判断がされた治療を続けられるような道を開くことになる。見ようによっては、混合診療の悪い面があらわになってきているとも言えるだろう。それよか熱心になって欲しいのは海外で実績のある薬剤の保険収載を早くするとか、そのための国の審査体制を整えさせるとかをやって欲しいものだと思う。

混合診療が普及すると起きてくることは歯科の現状をみるといい。「保険ではいい入れ歯が入れられない」なんて声が多く聞かれる。「国民健康保険だけじゃ長生きできない」なんて国になって欲しくはないのだが。

九日

車のバッテリーを換えて、帰ってきてから落ち葉掃き。──掃いても掃いても降ってくる〜。

十日

祖母が入院。──勤務先に。
面会に行きやすいって意見はあるかもしれんが、スタッフはやりにくいと思うぞきっと。こっちとしては気にしないでいいのだけれどそうならないだろうし。
そーいえば当院勤務の医師で母親介護しながら勤務を続けている方が居られたが‥‥そんな方の担当になったらやっぱり気を使うだろうなぁ。

十一日

最近腎臓疾患以外の方を受け持つ機会も多く。患者数の関係なんだが。多いのはやっぱり高齢者。
ある意味治った後が大変なのが高齢者で、病気は治っても自宅で生活できないなんてケースは数多く。在宅介護ってある程度の余力がないとできないものというのが現状だしね。高齢の老夫婦なんて言うと片方のADLがちょっと落ちるだけで二人とも自宅療養ができなくなる。
医学的には病気は軽快・退院可能だけれど人として家に帰れとは言いにくい、そんなケースが少なからず。

十二日

ウチのお子様にはわたしはどうも絵本を読んでくれるひとと認識されている雰囲気がある。日にもよるが朝起きておもむろに「しょうぼうじどうしゃ じぶた」なんぞもって「ハイ!」とやってくる時もあり。
しかし、子どもの頃読んでた覚えのある絵本は大体生き残ってる気がする。

十三日

研修医の退院時要約をチェックしてると、改めて日本語力を感じたりする。表現が簡潔かつ適切であることは少なくて、冗長になったり言葉の意味の取り違えがあったり。
一つの学問を学ぶということは、その学問領域で使われる言葉の意味を適切に把握し、みずからも適切に使用することができるようになることでもあると思う。そこまで至るのはひどく難しいが。

十四日

午前中の外来にインフルエンザの患者。今年は流行が早いそうだが、子どもを中心とした流行にとどまっている様子。この後には大人の流行が来るのだろうが。

どーでもいいネタなんだが、本日外来に「瑟子」さん来院。こんな字初めて見た‥‥。

十五日

午前午後と透析当番。たまっている仕事も大分片づいてきて、少しゆっくり。
‥‥帰ると子どもの添い寝って仕事が待ってたりはするが。日によって大フィーバーで寝やしないときからすやすやと天使のように眠る夜まであり。

十六日

午前中ちょっと買い物して昼食を食べ、帰ってきて一休みして、夕方から再度買い物。ちょっと疲れる。
目当ては物置だったのだが、「雰囲気のいい物置がいい!」というご意見に叶うようなブツはあまり見当たらず。ネットでみるとカンナとかガーデンストアとか見つかったけれど。
木製は雰囲気はいいのだが、耐久性を維持するためには定期的に塗装をするなどの手をかける必要があるようで。手抜きがしたいむきには向かないかもしれない。

十七日

こどもを保育園に連れて行く担当をしていたときには、たまに朝連れて出ないと「連れてけー」と玄関先で猛アピールだった。けれども最近連れていくのが相方の仕事になっているので、アピールしても連れてってくれないと悟ったらしく出かけようとしても見送りに来ない。──現金な奴‥‥。

十八日

午後の外来にアレルギー体質な患者さん来院。透析始めてるのだが透析関係の各種薬剤・機材にもアレルギー反応が出ているらしい。──難儀な体質だなと同情するより他なく。

十九日

来月の臨床病理検討会の担当を仰せつかり。早速カルテ取り寄せて読み始めたのだが、そのブ厚さに少々めげる。
「病歴」を一渡り全部把握せにゃゃならないし、その病気がしかも慢性疾患と来たからには長い経過を追いかけなければならない。患者さんの人生を把握するようなものだ。

二十日

病棟の忘年会。飲んで喰って騒ぐ。
二次会でカラオケに流れて叫んで憂さ晴らし。

二十一日

「星虫」がアニメ化されると言うウワサをmixiの星虫コミュで聞く。──とりあえず公式サイトが立ち上がるまでは信じないぞ、とか。(苦笑)
絶版から十年を経て再刊行される作品ってそう多くはないと思うので、作品の生命力を信じて待ってみるつもり。

二十二日

たまっている未読書がパソコンの脇に積んである。減らしていきたいのだがちっとも減らない。
それでも今日は「じーちゃん・ぢぇっと!ハニバニ。」(ハセガワケイスケ/電撃文庫)を読む。
買いたい本はいくらでもあるのだが。

二十三日

買い物して昼飯喰って‥‥で寝倒れる。どんなタイミングでも寝られる特技に感謝するのはこんなとき。
「ニワトリはいつもハダシ」(火浦功)読了。「すたーらいと」シリーズ次は買いに行くか。

二十四日

クリスマス前夜。さしたることもせずに終了。晩飯に唐揚げ食べてシャンパン飲んだのがそれらしいことか。

二十五日

日本医療機能評価機構の病院機能評価受審を控え、院内では対応が進められている。リハーサル的に医者と看護師長への尋問質問が実施される。ほとんどのことは実際には「やっている」ことなのだが、それが記録に残り参照できないといけないと言われると結構しんどい。記録する時間下さいってな感じではある。

二十六日

最近の研修医は「遵守」が読めないらしい‥‥。

医局の忘年会。会場が大いに沸いたのが創作劇「研修医シンデレラ物語−ストーリー−」 脚本・演出は某代謝科常勤Dr、キャストは研修医総出演。大団円にはシンデレラ(♂)と王子様(♂)の熱い抱擁シーンまであるというさーびす満点の内容。
や、こーゆーものは恥を捨ててやるものですな(爆死)

二十七日

学術誌へ投稿していた論文の査読結果が届く。──えーと、全く考えていなかった方面からのクリティカルヒットって感じでしょうか。勉強し直さないといけない点がいくつも出てきている。
直して再投稿したら、今度はそのまま通るかなぁ。(弱気)

二十八日

本年最後の通常業務。
そこでTbc騒ぎにはまり。他の患者さんが落ち着いていたのが幸いか。

二十九日

冬期休業。でも透析当番で出勤。
普段二人でやってる業務を一人でやるため効率と速度重視。それほど荒れてはおらずよかったよかった。

三十日

実家の毎年恒例餅つき会。新年用のもちの準備なのだが、予報が軽く外れて暖かい日になったのは何より。
実家にある臼はかなり堅牢な奴で、相対的に杵がやわで傷んでいたのだが、今年は新調されており。材を聞いたら両方とも欅だという。道理で重たくて堅いわけだ。米もよかったのかきっちり搗き上がった。

三十一日

予定なし。駅まで出て少々買い物(主に本)。未読まだあるだろとか突っ込んではいけないってことで。
帰ってきてから庭木の整理をちょっとやって、未読消費。「オイレンシュピーゲル」(冲方丁/角川スニーカー)と「狼と香辛料V」(支倉凍砂/電撃文庫)読了。
来年は、もう少しよい年でありますように。


Written by Genesis
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