歳時記(diary):二月の項

一日

帰りがけ、夜闇に淡く梅の花が咲くところを通る。
夜桜よりさらに通向けな気のする、夜の観梅。しん、とした冬のひととき。こういう味わいがあるから、歩くのも悪くはない。

二日

他人からUSBメモリで貰ったExcelファイルを自分のMacで開こうとすると「マクロを含んでいます。開きますか?」のおなじみのアラート。とりあえずマクロなしで開こうとするとライブラリがないとか言って開かない。ではとマクロありで開いたら‥‥やっぱり開かない。
あれーっと思いながら手近のWindowsマシンで開こうとしたら「ウイルスが感染しています」とウイルス対策ソフトからのアラート。ウイルス駆除が済んだUSBメモリを再度Macに持っていったら、今度はあっさり開いた。
ウイルスに感染したファイルって初めて見たかも。(爆死)

三日

日直勤務。外来当番だったのだけれど、そろそろ昼食にしようかな〜と思った辺りからつぎつぎと救急車やら時間外受診やら。昼食とったのは3時だった。

「マルドゥク・ヴェロシティ」(冲方丁/ハヤカワ文庫JA)全巻読了。
前作ではバロットとウフコックが(いろいろの経過がありつつも)難題をクリアしていく経過だけれど、「ヴェロシティ」では初めは仲のいいペアだったボイルドとウフコックが中盤からだんだん窮地に追い込まれ、決裂していく。終盤のボイルドは罠に搦め捕られた猛獣が罠を引きずりながら大暴れしているかのようで、迫力と痛みを感じた。どっちが好きか、って言われたら「スクランブル」の方かな。

四日

昼飯喰ってから本屋で買い出し。「空色勾玉」「白鳥異伝」「薄紅天女」(荻原規子/徳間書店)が揃ってたので確保。

「朽ちていった命──被曝治療83日間の記録──」(NHK「東海村臨界事故」取材班/新潮文庫)を購入&読了。以前にハードカバーで読んだような気もするのだが、所有してはいなかったので購入。
臨界事故当時、わたしは学生で茨城にいた。臨界事故だというニュースを聞いて「そっちも放射線で大変なのかい」と、見当外れの心配をする知人に、そもそも臨界事故とはどういうことなのかの説明で苦労した記憶がある。
致死量以上の放射線を浴びた人をどこまで治療できるのか、その取り組みは残念ながら患者死亡という結果で終わっている。けれどもその過程でぎりぎりまで諦めず、とれる手をすべて尽くしていったことは、けして無駄ではなかったと思う。
今後の見込みの厳しい患者を治療する場合、スタッフの志気の維持の難しさも語られている。「患者を助けるために」治療を始めるのだけれど、長く苦しい治療を続けていく中で、「治療をすることは本当に患者を助けることになっているのか?」という自問をすることになる。その答えははっきりしないことが多いのだけれど、その疑問を抱えながらの治療は正直しんどい。スタッフへのインタビューのなかで、そういう視点も取り上げられていてよい出来だと思う。

五日

通勤の車内で順調に「西の善き魔女」進行中。常識人のつもりでいてフィリエルは結構飛んでもないし。展開も結構忘れているので楽しく読む。

六日

夜は当直。呼ばれつづけるわけじゃないのだけれど、ぽつ、ぽつ、と呼ばれてあんまり休めず。呼ばれたらすぐ起きて動き出さないといけないけど、呼ばれなければ寝ていていいって休憩時間で熟睡するのはけっこう難しい。朝方近くなってくると眠気が勝って眠れるのだけれど。

七日

当直明けの午後。患者さん診察して歩いているうちはいいんだが、カンファレンスとかで相談事になると‥‥眠い‥‥。
なのに不思議と帰りの電車内では「西の善き魔女」がどんどん読める。謎。

八日

受け持ちが増えないとわりとスムーズに仕事が片づく。善きことかな。

九日

朝起きたとき、一瞬休日のような気がして寝直しかけた。危ない危ない。
子どもが週頭から熱を出していて、昨日は親に子どもの世話を頼み、今日は午後から自分で面倒をみる。近所の小児科にも連れていって診察を受けたり。

少子化問題と労働条件、なんてことをふと考える。今話題のホワイトカラー・エグゼンプションが実施されれば、労働時間の規制が無くなるからいつ出社して仕事をしてもいい建前になる。
じゃあ子どものいる親が仕事をしやすくなるかというと、むしろ逆ではないだろうか。今だったら「子どもが熱を出したので休まないといけません」と申し出たとき、子どもの世話が出来るのは親しかいないから、了承するしかないだろう。その人の分の仕事は他の人がある程度肩代わりをして。
でも、時間制限なしになってしまえば、そもそも休むとかそういう話じゃなくなるだろう。そして、仕事の量も何にも変わらずに、自分でちゃんとやってねってことに、なるんじゃないかなと思う。何時に出てきて何時に帰っても構わない、会社は関知しない、指定の期日に仕事が完了していればそれでいいって制度下では、そうなりそうな気がする。
‥‥いや、自分も相棒が帰ってきたところで病院にとって返したんですけどね(爆)

十日

子どもの面倒見日直(ぉぃ
熱は下がったとはいえ、機嫌があまり良くならず。子ども背負ったまま洗濯物干したり洗い物したり。そーいや「上と外」(恩田陸/幻冬舎文庫)にネクタイ姿で子ども背負ってるお父さん出てきてたなあ‥‥。

十一日

休日出勤して病院の様子を見てきてから、文献検索のために大学図書館へ。普段は慶応大学の医学図書館を利用しているのだが、Webで調べたら本日建国記念の日につき休館。他に開いてて紹介状とかなしで入れるところは、と調べたら東京医科歯科大学付属図書館が該当しそうだったので電話で問い合わせ。丁寧に対応してもらって好感を持つ。
そんなわけでお茶の水に向かって、調べものを済ませた。

「上と外4・5」(恩田陸)・「ファンタジーのDNA」(荻原規子)・「コッペリア」「レインレイン・ボウ」(加納朋子)・「天涯の砦」(小川一水)とまとめ買い。最近箍が外れてて‥‥。

十二日

義弟に来てもらって庭木の剪定。山桜と椋榎の枝を整えて、ついでに裏の鼠黐もばっさり大枝を落とす。いや、鼠黐は正直じゃまになりつつあるもので。

「上と外」(恩田陸)読了。冒険小説風に始まって、青春小説で終わる、といったところだろうか。冒険小説はしばしば青春小説兼ねてることが多いけれども。

十三日

行きの電車内で「西の善き魔女 真昼の星迷走」読了。ふぅ、面白かった。
けど、作品途中でいつの間にかどっかにすっ飛んでしまったディー博士の行方。船に乗ったところまでは分かっているのだから、乗った船の着いた先をさらにたどっていけばディー博士の行方も知れるような気が。船が沈んでしまったという記述もなかったと思うし。‥‥ふれてはいけない話かな?(^^;

十四日

当直明け。細切れの睡眠だと日中眠い‥‥。

十五日

通勤の行き帰りで「空色勾玉」再読。ここんところ萩原規子を立て続けに再読中。
古代ファンタジーといえども、舞台が日本風だとどこか土の匂いがする気がする。自分の中にある日本の風景に登場人物達が違和感なく溶け込んで、動き出すからだろうか。
「空色勾玉」の狭也と「西魔女」のフィリエルはどこか似た感じがするのだけれど、天然系の稚羽矢は似たようなキャラクターが思い当たらず。まぁ別に問題はない。

十六日

古巣に出勤したら「今日も腎生検あるから」って。ここんところ立て続けだなぁ。
穿刺も少し慣れてきて、当たる感覚が掴めてきた気がする。

十七日

相方と二人で「それでもボクはやってない」を観に行く。
客層は平均年齢高めな感じ。幅は広かったと思う。まぁ事前の情報としても結構硬派の映画、ってことだったしね。
内容は、全体にどシリアス。終わってからもずしんと残るものがある感じ。「有罪率99%以上」ってことが示す現実はこういったものかって感じで。作品中で否認事件の無罪率も明かされるんですが、3%前後って何の数字ですかって感じで。やってない事件を否認しているケースも、実際には犯人だけれども処罰されるのが怖くて否認しているケースもあるだろうけれど、実際に無実である人が3%しかいないってことはないだろうに。
「裁判官だって人間」って辺りの話が妙に納得いく。「官」であり「人間」である以上、出世や左遷を気にしたり、同じ「官」である検察官や警察官の方に(どちらかといえば)近しい意識を持つことを咎めることは出来ないとは思う。それを是としていてはいけないとは思うが。
Webを渡り歩いていたらこんな記事を見つけた。こういう感覚がかなり広くあるのが現実、なのだろうな。

十八日

庭の山桜の枝を切ったおが屑をアロマキャンドルで焚いてみる。甘い感じの香りでなかなかよいのだが、部屋全体に行き渡らせるにはかなりの分量が必要っぽい。

「産科医減少『少子化の反映』」(リンク先は質疑応答の内容を記したblog)って発言が柳沢厚生労働大臣の口から出ていたらしい。少子化問題とか焦点の課題なので言動が注目されるのは当然だと思うのだけれど、やっぱりこの人、少子化問題についてはあんまりしっかりした見識を持っていないんじゃないかと思うのだが。
「出産数当たりの産婦人科医師数は減ってないからOK」って感覚がまずおかしい。最近の傾向としては「産婦人科だがお産は取り扱わない」って診療所・病院が増えてきてるのが問題のはずで、現場の状況でなく紙の上・数字の上で対策を立てている印象がある。それに、医師労働が過重って前提に立ったら医者を増やさないといけないはずで、お産を取り扱う現場の医師・スタッフの負担が重くなっていることにあまり考慮を払っていないように思われる。
質問の後半で助産師の数が足りないって問題に対しても、看護師に助産師資格を持たせるようにするという対策しか打ち出せず。助産師の課程は最低半年で、その上で国家試験を受けなければならない。現実には一年課程のところが多いと聞いている。一年間看護師が休職して助産師課程を受講できるような余裕がある職場は数少ないはずで、結局のところ厚生労働省の基準では違法の状態が続いてしまうことになる。現場が知りたいのは明日からどうすればいいのかということで、そこに対する答弁がない。
福島の大野病院事件のことも触れられていたが、大臣の答弁にあるような第三者機関は早く作る必要があるだろうと思う。けど、本人否認でも有罪率97%の刑事裁判ということを考えると、厚生労働大臣としては「有罪でも構わない」って思いなんだろうな、きっと。その先に待っているのはハイリスク患者のたらい回し、ってことなんだが。

十九日

当直明け。ここ数日風邪っぽいのもあって、夕方には体が大分重く。咽頭炎だなぁ。

「クリア・ヴォイス」(飯田雪子/GA文庫)読了。わーい久しぶりの飯田さんの新刊だぁ。わたしとしてはすでに絶版の「再生のとき」が大好きなのですが、プランニングハウス刊行の作品は惜しいものが多いなぁ。

二十日

なんということもなく仕事が終わる。
平穏無事は佳きことかな。

二十一日

「空色勾玉」を読み終える。十年ぶり位かな?読み直すの。細かいところはほとんど忘れていたので新鮮な感触。
しかし、確かに「鳥彦」系のキャラクターはその後もちょこちょこと荻原規子作品に出てきている気が。

二十二日

受け持ち増えて、計十三人受け持ち状態で本日終了。
これまでで最大かもしれず。もっとも、もっと受け持っている先生がいないわけではない。

それだけ持っているから‥‥というわけでもないが、夫婦でわたしが担当している患者さんもおり。奥さんの方が先に入院していて、旦那さんの方が今日入院。初めは気づいていなかったのだけれど、「奥さんも入院中で‥‥」なんて話を聞いていたらそれと判明。

二十三日

某カッコで括れば同類項な後輩と雑談。
S.A.C. 2nd GIGみてるんです〜」などと話していて、ふとブギーポップの話になる。「最近のブギーポップがいまいちなのは、霧間誠一が出てこないからだ!」とかって怪説を唱えてみたんですがどんなものでしょうか。

二十四日

土曜出勤。行き帰りで古書店でネット通販した「再生のとき」(飯田雪子/プランニングハウス)を読了。紺野キタさんがイラスト、ってあたりでもわたし好みな一冊。

二十五日

ネタの解説を求められましても。出所はKanonだろうってくらいは一般常識レベルかと思いますが。「カノソかも」とか言われてもよぉわかりません。

お子様が下痢中、相方が発熱中ということで、一日不機嫌な子どもを背中に背負ってあれこれしていた。だっこしててもいいのだがそうするとほんとに何も出来ないので。おんぶしててもまぁまぁ背中でおとなしくしていてくれるので、最低限の家事をそれでしていた。

二十六日

OpenSky行きたいなぁ‥‥(じたばた)。でもしばらく週末もロクな休みがない‥‥。

二十七日

「天涯の砦」(小川一水/ハヤカワSFシリーズJコレクション)読了。事故で軌道ステーション(の一部)に取り残された男女が脱出を目指すストーリー。
限られた環境・資源・時間と来れば、いわゆる「方程式もの」になるかと思っていたのだけれど、誰かを切り捨てなければ生き延びられないという選択を登場人物に迫ることはなく話が進む。「どうすれば(自分を含む)皆が生き延びられるか」が検討され「みんなで力を合わせて立ち向かう」ストーリー。読んでいて読みごたえがあって印象がいい。小川さんらしい、と感じた。

二十八日

某研修医と話していたらびよりすとであることが判明。ならばびよらじょーくは知っているかと尋ねたら知らないとの由。
‥‥まぁびよりすとだしな(ぉ


Written by Genesis
感想等は、掲示板かsoh@tama.or.jpまで。リンクはご自由に。

日記のトップへ
ホームページへ