歳時記(diary):七月の項

一日

土曜休暇‥‥なのに出勤して相方に恨まれる。ひとり人工呼吸器離脱を指示して帰ってくる。

帰ってきたあとは模様替え。北側の窓の下にベッドを置いたら朝方まぶしくて寝てられないとの苦情があり。いやわたしはまぶしいとは全然思わずに寝こけてるんですがこういうときは世界平和に貢献するために相方の言い分を通すのが平和主義者のやり方ってもんですそうでしょ?

二日

寝て曜日。朝寝して昼寝して。ちょっと体調も悪かったんですが。
夕方にやおら出かけてヒロセオーダーへ。オーダーメイドのスーツってやっぱり男の浪漫じゃありません? 普段着る機会は異様に少ないんですが‥‥。

三日

体調は大分快復。
患者さん達は比較的落ち着いてるっていうか待ち体勢っていうか。待つしかない時期ってあるんだけどね。やることが多いような少ないような、そんな気がする。

四日

午前中診療所に出かけて‥‥ひとり入院患者を連れて帰ってくる。うぐぅ‥‥。

当院には中国出身で日本の医師免許を持つ先生がおり。非凡な力をお持ちであることに間違いはないのだけれど、それでもやはり日本語は難しいとかそんな話を今日していた。
その先生曰く、やはり漢字は難しいのだとか。現在中国で使われている簡体字と現在の日本の漢字は大分違ってしまっているから、同じ漢字の国とはいえ大分違うと言っておられた。

五日

昼前からあちらこちらから呼ばれて立て込み。昼を食べたのは三時。
用件のいくつかは透析開始時の穿刺だったのだが‥‥不調だった‥‥。

六日

世の中は北朝鮮のミサイル発射の話題で持ちきりなのだが‥‥。日本国憲法前文にあるような「平和を愛する諸国民の公正と信義」を期待してよいのか考え込んでしまうような国家って、相手に困るんだろうな。
彼らを信頼して、日本の安全と生存を保持することがほんとにできるのかって思ってしまうし。九条に示された「武力による威嚇と武力の行使」を行わずにこの紛争を解決する素晴らしいワザってやつはそう簡単に思いつかないし。
それでも──現行憲法に沿った形での解決ができればとわたしは願っている。諦めるには、まだ早いように思うから。

七日

わりとさっくり帰れる。やれやれ。

八日

土曜出勤。午前中のうちはばたばたと忙しく。
午後になったらようやく一息つけた感じで、書く暇のなかった書類とか、落ち着いてやるような仕事に手を出していた。

九日

休日ではあるが透析患者会の学習会、ということで病院へ。かくして相方にまた恨まれ。

ウチのお子様は寝付きがなかなか悪く。ミルクやることもできない男親としては泣きわめかれた場合だっこして揺らしてやるくらいしか手がないのだが、おかげで日に一度はヒンズースクワットをやっている気がする。
結構へばります、これ。

十日

ひところのラッシュが少し治まってきた今日この頃。
研修医の面倒もようやく見られるようになってきて‥‥アラがどんどんみえてくる。どーやって指導したもんか悩み中。

十一日

医局においてあった新聞に「生活保護世帯にも医療費負担」とかって文字が躍っていて、思いつく奴もそれを実行しようって奴もきっと生活保護家庭の実情なんて知りもしない連中なんだろうと腹が立つ。
十分な収入がなくて「健康で文化的な最低限度の生活」もできなくなっているから生活保護を申請せざるを得なくなっている訳で。十分な収入を得ることができない理由ってのは単に失業したとかだけではなくて、体を壊して働けないとか、子どもや年寄りの世話が必要で働く暇なんかないとか、そういう理由である訳で。善人ばかりじゃないし自業自得と言えなくもない過去を背負っている人もいるけれど、だからといって生きる価値もないと烙印を押されていいわけでもない。
生活保護もらってようやく生きている病人世帯や年寄り世帯にむけて、国の財政が厳しいからアンタらからも医療費取ることにしましたとか言い切れる政治家も官僚も人間やめちまえと思う訳だ。

十二日

家帰ってきたら相方が「エイリアンストリート」読み始めてたのでついつい自分も手を出す。
少年漫画より少女漫画の方が面白いものが多い気がするのだが、なぜだろうか。

十三日

夕方医局の机に戻ってきたら、旅行代理店から今度学会出張行く際のホテルの予約が取れましたと手紙が届いていた。これこれで予約が取れましたのでつきましては費用の振込を‥‥ってそれはいいけれど。なんで期限が七月十四日なんですか。
そりゃあまぁ期限ギリギリに申し込んだのは自分だけどさ。ネットバンキングなければまず無理だって。明日は外来してカンファやってだぞ。
しょーがないのであんまり使いたくないネット振込を。やっぱりなんかセキュリティとか、心配で。

十四日

"論文書け"って圧力が強まっている今日この頃。
日本透析医学会の専門医試験受験の要件には原著(論文や症例報告)が一つ含まれてるんだよね‥‥。
ここは一つ、小説でも書くつもりで書くしかないのか。

十五日

今夜は当直。
「一ヶ月前から症状があって‥‥」とかって訴えでかかってくる人とかいて、どうしようかと思ったり。できるだけのことはしましたけれど。できれば救急外来には来て欲しくなかったなぁ‥‥。

十六日

「エイリアン通り」読了。大分昔に一回読了したはずなのだけれどかなり忘れている。
ちなみに相方はその間に「CIPHER」「ALEXANDRITE」と読み進めているらしく。いいな〜。

十七日

夏の映画では「時をかける少女」と「ゲド戦記」を観ておきたいと思っているのだが‥‥観に行く暇あるだろうか。
「時かけ」は特に。「ゲド」はきっとずっとやってるだろうから。

十八日

少し時間が取れたら早退しようかな〜とか思っていたらアレコレと呼ばれるし。とかく物事はうまく行かないものらしい。

十九日

夜帰ってみるとニュース23をやっていた。「患者になれない」と画面の端に出された文字が全て。
国保料未納者に何が起きているかを追った特集だったけれど、なかなかしっかり出来ていたと思う。もちろんお金があっても納める気がなくて納めていない人もたくさんいるのだろうけれど、納める気があってもそんなお金がないひとや、医療を必要としていてもお金の事情であきらめている人がたくさんいるということがまず問題だと思う。
「月収入は6万円」とかって紹介されていたけれど、それって生活保護基準以下じゃないかと突っ込んでみたり。

二十日

昼食取りながら後輩からお菓子のおすそ分け。消化器科のボス(木枯らし紋次郎似)が 「あそこのロールケーキはうまいんだよな。隠れた名店だな」とかって話しているのに結構違和感が。(^^;

秋田の幼児殺害事件の容疑者宅を取り壊す方針が出たとか。‥‥有罪の確定判決が出てからするべき話じゃないか?少なくとも。まだ供述も変遷していて実子の殺害についても捜査中の段階で、まるで殺害が疑いのない事実と決まったような対応はどうかと。
取り壊したあとに無罪判決が確定した日にはどうするのやら。決めた町長宅は問答無用で取り壊しだな、きっと。

二十一日

インヴァネス、って服がある。世の中では多分シャーロックホームズが着ているコート、というのが一番通りやすい説明だろうと思うのだけれど、スコットランド・インヴァネス地方にあったケープ付の外套のこと、とされる。日本に輸入されて袖無しのものがトンビと呼ばれて和服用コートになったらしい。
で、こいつを手にいれたいなぁ‥‥と思っているのだがなかなかよいのがなく。冬までに何とかなるかなぁ。

二十二日

調子の悪い患者さんの対応でばたばた。
遅い昼食を摂っていたら外科の先生方がカルテ眺めながら鳩首会談中。そのあと「先生、これから緊急手術ありますんで〜」と声がかかる。つまりその後わたしの仕事があるってことですな(爆)。
なんだかんだと大分遅くなってしまった。

二十三日

大分前からnamazuを使ったローカルファイルの全文検索のためのCGIがうまく動かなくなっていたんですが、MacOS標準のFileVaultを切ったらうまく動くようになった。Apacheの問題かと思っていろいろいじり回したんだけどな。解決してやれやれ。

たまの休暇は買い物したら終わってしまった‥‥。

二十四日

午後は病棟カンファレンス。気がつくと受け持ちのほとんどが退院待ちor退院調整中である罠。退院って一大イベントなんだよぉ。
かと思うと退院決まったところで調子崩す人がいたり。人生すべてぶっつけ本番なのね‥‥。

二十五日

朝飯を喰っていると携帯電話にメールが入る。「今日休みます」って先輩の先生から。うーん体調崩したのか用が入ったのか。代わりってわけじゃないけれど午前中は透析室の回診で忙殺される。

二十六日

帰ってみると子供が寝ている。をを、今日は早寝だ!と相方と二人して祝杯。
なんか寝つきの悪いウチのお子様。十時に帰っても元気に「あそんでっ」って感じでにこにこしてるのはどうしたわけだか。
子どもってもっと早寝遅起きなものだと思ってたんですが、あんまり寝つかないしよく起きる。わたしの平均睡眠時間が七時間くらいある(夜中に目を覚ますことはあまりない)んですが、+1時間位しか寝てない日もしょっちゅうあるんじゃないかしらん。

二十七日

夏の休暇の予定を立てているのだが‥‥子ども連れだとなかなか宿の選択が悩ましい。東北方面ということになっているのだがよさそうな宿は車でないと行きにくいロケーションだったり。
レンタカーって手もあるけど。ううむ。

二十八日

外来やって病棟回診終えて、のぞみに飛び乗って京都まで。道程で「しにがみのバラッド4」「銀河英雄伝説 8」「パラケルススの娘 4」と三冊読了する。

二十九日

朝ホテルを出て、奈良へ。第38回医学教育学会参加。
お題として面白かったのは成人教育学、専門職の定義など。医師教育の目的は「いかに現場で役に立つ医者を育てるか」ってことだし、定型的な公式や理論だけでは解決できない事柄も含めて解決する人材を養成しようとすると、いきつくのは「いかに自分で考えてトラブルシュートできる人間を育てるか」ってことになる。同時に、トラブルの種類を選んでどうこういっているようだと患者さんのためにならないから、全く未知の種類のトラブルへも対応する術を知っている必要がある。そこまでできて初めて一人前のプロフェッショナルとよべるだろうし、それをどう育てるかが問題になっている。
結局、求められる資質としては自分の知識や経験を総動員してトラブルシュートできる能力だし、問題点を明確化してそれに見合った解決策を探索できる力、そして患者さんと協力関係を結んで維持できるだけの交渉力、などが必要なのだろう。

ところで、発表見てたらとある先生のスライドに「雨、逃げ出した後/Hedgehog's Dilemma」とか「瞬間、心、重ねて」とかって出てきてたんですけど‥‥先生、実はシンクロ率高い?(死)

夜は香川の北原先生や天理よろず病院の先生他と飲み会。所属病院が見事にばらばらな集団で飲んでいた。

三十日

この日はあまり魅かれる演題もなく。「必修化に伴う諸問題」のシンポジウムを聞く。
大学の側からはすでに全分野ローテート方式への疑問が数多く上がっているようで。将来の志望科に合わせた形で外科系のみローテートとかも選べるようにして欲しいようで。それを実施するならまず卒前研修でプライマリケアや専門科にとらわれない幅広い力を身に付けてから、だろうと思う。あとはコアローテーションだろうか。
市中病院にかなりの数の研修医が流れ、たぶん以前ほどには大学医局所属で動く人はいない、という流れは変わらないだろう。けれどもみんな実力はつけたいし、勉強もしたいのだ。市中病院で仕事をしているわたしなどからすれば、大学に求めたいのは「いつでも勉強においで、みっちりしごいてあげるから」といった形で専門研修の門戸を広く開けておいてくれることなんだけれども。
根本的には医師の需給調整がうまく行ってないってことで。偏在とかいうけれど、開業医はともかく勤務医については必要数を示したら?と思うのだが。もちろんその際には現実に医療を必要としている人の数から必要医師数を割り出して欲しいのだが。

帰りの新幹線の中で「黒と茶の幻想」(恩田陸/講談社文庫)を読む。なんとなく、話の雰囲気が「三月は深き紅の淵に」の第一話に似ている気が。それぞれがかなり頭のいい数人が集まって、本筋の話と本筋でない話とが入り交じりながら会話と心理描写中心に動いていく筋書き。

三十一日

帰ってきて相方が作ってくれた食事を温め直す。もう一品くらい欲しい気がして、SPAMをスライスして軽く炙ってみる。
‥‥しょっぱ。ナトリウム25%カットとか書いてあってもなおしょっぱい。こんなもんを軍用レーションで配っているから彼の国ではメタボリックシンドロームが流行るのだろうとか邪推をしてみる。


Written by Genesis
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