歳時記(diary):十月の項

一日

透析当番。血圧低い人とか、なかなか対応に困ったりして。
最近昼間っから眠気が差す。ちょっと昼寝、のつもりがしっかり寝てしまったりして。軽いうたた寝は仕事の効率を上げるそうだが‥‥。

「period」(吉野朔実)読了。絵が綺麗な上に作品世界がなかなかハードなのでけっこう痛いのだけれど、引き込まれる。個人的にこの系統には樹なつみ・清水玲子などが入ってくる。(偏見)
最近週刊医学界新聞の医学生・研修医版に連載されている記事で吉野さんが挿絵を描いているのを見つけたんだよね‥‥そういえば。(Web上からも参照できます)

二日

真夏日だったとか。確かに暑かった。
その暑い中を森のギャラリーまで。狙いは一枚板のテーブル。‥‥結構高いのね。
家に帰ってネット検索してみると一枚板ドットコムとか木彩とか。木材図鑑を見ると木目の雰囲気とかいろいろ情報があるし。

三日

泊まり明け。──もうそろそろ終わろうかというタイミングで心肺停止患者来院。蘇生して集中治療室へ入れて──残念ながらお看取りに。もうこれだけで一日分働いたような気分になってへろへろ。

四日

夜間外来にいらした御大に学会発表内容のチェックを受ける。まだ修正が必要。
うがーとかいいながら図書室の文献を探し始める。Pubmedとかuptodateとか、情報検索や他人が書いてくれた要諦が揃ってきているのはよい時代だなと思うのはこんなとき。

五日

憲法論議を、また一つ。
日本国憲法に掲げられた「非武装・戦争放棄」の原則って、本気で守ろうとするならきっと軍隊を持って国を守っていこうとするよりずっとずっと難しくて、それでも「そうありたい」って考えたから憲法に書き込まれたのだと思う。
単にたとえば自衛隊を解散すれば九条を遵守していると言えるわけじゃなくて、隣に軍事力の大小しか外交の際に考慮に入れないような国があったとしても自国の利益と国民を守っていけるくらいの非軍事的力(たとえば外交力とか経済力とかいろいろ)を備えて、ようやく九条を持ってやっていけてる、と言えるのだと思う。
戦後の日本で、九条はまだ実現されていない。だけれど、実現不可能と判定するにはまだまだ惜しい理想だと思う。「わたしたちはこのような国を目指す」という目標として、掲げつづけたいと思う。

あと一つ、二十五条がなかなかたいへんな中身を含んでいる。「健康で文化的な最低限度の生活を送る権利を有する」そして、それを保障するのは国の責任と書かれている。
「健康で文化的な最低限度の生活」ってなんだ、といって、あれこれの裁判が起こされたり紛争が起きたり。医療保険などを国の政策としてやっている理由はこの条文にあるといっていい。この条文があるために「医療保険に入れない貧乏人はほうっておけ」なんてことは言えないことになっている。
じゃあ今、この内容が実現されているかといえばわたしはNoだと思う。けれど、「最低限度の生活」をどう考えるかで、Yesだと考える人もいるだろう。下を見ればきりがないのも確かだから。
よく読んでみるととても興味深い条文がいくつもある。憲法を変えるなら、まずどこを変えた方がいいか、じっくり考えないといけないと思う。

六日

明日から出張、ということでばたばたばた。退院予定の患者さんもいるしなぁ。
結局寝たのは12時過ぎだった‥‥。

七日

起きたのは五時過ぎ。眠‥‥。
朝早い新幹線に乗って、新潟へ。学会参加のため。到着してまずポスター張って、それから講演を聞いたり。午後はあんまり目ぼしいものがなかったのでだらだらしていた。
夕方から自分の発表。順番としては最後で、無難になんとか終了。ふぅ。

終わってから打ち上げで飲みに行ったのだけれど、入った店で頼んだコースが「日本酒がひとり二種類ずつ各一合出てくる」というもの。もちろんおつまみなども美味しかったのだけれど、六人で入ったので計十二合のお酒が出てくる。最初はともかく、後の方なんて味わかりませんが(滅)。どれもよいお酒だったのは確かなので、舌がマヒする前に味わいたかったかもというのが正直な感想だったり。

八日

学会二日目。いろいろ聞いて、ふたたび飲んで帰ってくる。
帰りの新幹線の中で「鬼女の都」(菅浩江)読了。オカルトのように思わせておいてオカルトがからまない結末。でも、都で惑わされる地方人の感覚はわが事のようにわかる。うん、やっぱり、京都は怖い。(笑)
京都出身の知り合いに読ませたらなんて感想をよこすかしら、とか考えてみた。

九日

語彙数推定テスト。だいたい六万語程度の語彙があると推定されるらしい。‥‥って、平均的な日本人はそもそも「語彙」って単語を知っているのかしら。(笑)
相方もだいたい同様の結果であった模様。

『萌え』症候群〜その発病および傾向と対策に関する一考察。ウけました。

十日

二日に引き続いて、板探し。本日は秩父まで出張る。

帰りがけ、BOOKOFFに寄ったら、「Eternal」と1997年発売の限定BOXと、鶴田謙二の作品集を二つ見つける。う〜ん「Spirit of Wonder」「SF名物」は持ってるんだけどなぁとか悩みながら結局両方買ってしまう。(滅) 漫画の「Forget-me-not(1)」も持っているので、あとはアベノ橋魔法商店街か。

十一日

クレヨン社を聴きながら車を走らせる。粗大ごみ捨てして、印鑑証明登録して銀行回って。

役所で手続き待ちしてたらカサ振り回して遊んでいる子どもが二名。危ないので注意しようかと思ったら──喋ってる言葉が日本語じゃない‥‥。
一応日本語で注意してみたのだが、どこまで通じたのやら。

十二日

準夜透析当番。待機の間にTeXいじりとか。
書いていると少しずつコマンドとか覚えてくるから、もちょっと使い込んでみようかな。
とはいえ、スタイルファイルまだ書けないんだけど‥‥。

十三日

夜は泊まり。
そんな夜に「医者ヤバイ」(ここの#159)とか読んでるわたし。確かにヤバイねぇ。
他にも笑っていいのかわからないこんなジョークも見つけたり。

十四日

外来してカンファして──夜は準夜透析担当。労基署に知れたらヤバイって。
もっとも、抜本的にこういう労働環境を是正しようと思うと医者をもっともっと増やすか医療提供体制を縮小──つまり病院を潰したり救急外来を閉めたりしないといけなくなるので、薮をつつこうという人が少ないのだけれど。

十五日

早起きして飛行機に乗る。機中で「半分の月がのぼる4」(橋本紡/電撃文庫)読了。拡張型心筋症:dilated cardiomyopathyですか、それはまた厄介な病気をとりあげるもので。
早世とか夭折とか言われる形で世を去る人は少ないながらいる。事故であったり自殺であったりするが、病死も少なくはない。恋愛ドラマなどではヒロインが不治の病に侵されるのはまぁ一つのパターンとすら、言えるかもしれない。
臨床医の仕事は第一に病態を正しく解明してリスク分析をしっかりすること、第二に確実に治療できる病態に正しい対応をすること、そして第三に、患者とともにリスク分析の上に立って対応方針を決めていくこと、ではないかなと思う。第三の仕事の中にはもちろん予想される悪い結果に対してすこしでもましな結末を用意することが、あるのではないかなと思う。
苦痛を緩和し、死の受容を助け、穏やかな最期の時を用意すること。難しい仕事だけれど。

十六日

最近の帯祝の帯はイオン加工で美肌効果まであるらしい(爆滅)。

「銀河英雄伝説」買い集めていたのがそろってきたので読み始め。戦記物だけに人が死ぬ死ぬ。人の愚かしさまで含めてリアルっぽいのが何とも言えず。でも確実に名作。

十七日

相方の受診に付き添ってから帰京。道中の読書は「キノの旅 IX」(時雨沢恵一/電撃文庫)「裏山の宇宙船」(笹本祐一/ソノラマノベルズ)「疾走 千マイル急行」(小川一水/ソノラマ文庫)。
「千マイル急行」重厚な機関車の旅路とその中のドラマは波乱に富んで読みごたえがある。生真面目な登場人物達が大好き。

国立天文台四次元デジタル宇宙プロジェクトですか。ぐりぐり惑星軌道やら何やら動かしながら天体を考えるのは不思議な気分。

十八日

休暇中はこともなし。善きかな。
一番心配だった血小板減少症のかたも変わりなく。院外の先生にコンサルトしながら診ている。電子メール使ってコンサルトってのもネット時代の診療のあり方、かもしれない。そこで一番問題になるのは個人情報保護とのかねあいなのだけれど。

十九日

糖尿病sick dayってふれこみの患者さんが入院。見た目元気そうだったけれども血液検査はひどいことに。こりゃあいかんと追加検査含めてあれこれ採血してみると──そんなに派手な異常がない‥‥。
どうも点滴の液が混ざった血液を採血してしまったらしく。そりゃあぐちゃぐちゃのデータになるわ。ときとしてデータが嘘をつくときがあるけれど、それはこんなときだろう。

二十日

無医地区問題と医療費についての歴史 を読む。まぁ、医者が居着かない理由の一部は説明できますけどね。医療供給は交通の問題とからむ、ってのはその通りだと思うけれど。
日本では一次救急・二次救急・三次救急って区分があって、三次の医療機関では軽症を拒否したりする。それにけして理由がないわけではないのだけれど、「見た目軽症」「見た目重症」ってのは確実にある程度の数がいて、医療機関へのアクセスが不良だと、特に助けられる重症(ただし自覚症状は軽度)が、受診抑制によって見落とされていく可能性が高くなる。
医療費が高くなっていると言う。実際右肩上がりに伸びているのだけれど、それでもGDP比に直すとサミット参加国中での順位は高くない。
ちなみに今どんどん進められている、公営医療保険の縮小と民間医療保険の拡大が極限まで進んだ形が、世界最大の医療費を使いながら医療難民が大量にいるアメリカの医療制度であるわけで。医療費増加を恐れてばかりいれば必要な医療も抑制される上に、結果的には医療費増加を抑えきれない可能性が十分にあると思える。

二十一日

準夜透析当番しながら文章書く。挨拶文とか、意外に難しい‥‥。書き慣れない形式であることもあるのだろうけれど。あと、言い回しに気を使わなければならないことも。

二十二日

日中の勤務のあと、夕方から銀行へローンの相談。事前に「参考にしたい」とかって予防線を張り巡らせたせいか、個人的に苦手なお勧め攻撃もなく淡々とこちらが聞きたいことを提示してもらえた。
押すと却って逃げていくタイプの顧客って結構いると思うんですよ。それともそういう人は少数派なのかなぁ。ま、セールスマンのよいカモにはなりえない客なんですが。

夜は妹夫婦と鍋をつつく。鱈腹食べたあとのわたしの腹を見て「お腹出てきたね」と冷厳な指摘を下した奴一名‥‥。体重計は人生最高の値を示していましたとさ。

二十三日

妹と姪が泊っていって、妹は免許試験場へ免許の更新へ。その間姪を預かっていた。
まだ片言も出ないレベルの幼児を預かって大丈夫かとも危ぶんだのだが、案に相違してわりと落ち着いており。昨日一緒に鍋をつついた効用か、人見知りも出ず。
それでも昼前にはぐずりだしたのでベビーカーに乗せて近所の公園に連れだしたら、公園につく前に見事に熟睡。鬼のいぬ間のなんとやらで、ベビーカーの傍に陣取って「老ヴォールの惑星」を読み進めた。

夜は相方の友人の医学部合格祝い。二日続けて鍋を鱈腹‥‥。

二十四日

受持患者は多くないんだけどなぁ、なんか多忙。
外来透析も受け持つようになったからだと思うんだけど。

二十五日

入院受持一名。九十過ぎの透析管理中の方。高齢者での透析導入にはもちろん是非もあるだろうけれど‥‥比較的元気なんだもんなぁ。やれる治療はやってあげたい程度には。

夜はお泊まり。透析管理中の嘔吐患者をひとり入院。

二十六日

この日の朝は負荷試験から始まった。朝寝静まっている頃から採血×五回。おまけに看護婦さんから「この人もお願いします〜」って追加まで受けて、朝から十分働いた気分。
朝礼が終わったあとに外科病棟から電話がかかってきて、腎不全の患者が心不全との由。検査して治療始めてそれでもよくならないので午後には透析を始めて。そのすき間で入院患者を三人受け取って指示だししてさらに昨日入院した二人の新患を対応して。
‥‥とりあえず今日は給料分以上に仕事しました、まる。

二十七日

昨日とは打って変わって落ち着いた一日。平和が何よりだね。

二十八日

午前中外来。
名前に憶えのない予約患者がいるな〜と思ったら二年も前に外来通院中断してる患者だったとか(爆) そんなのが何故か二人もいたりとか(滅)。
最初の対応が時間かかるんだぞ〜と叫んでみても、屍拾うものなしって感じで。はぁ。

二十九日

臨時で外来。めまいとかインフルエンザの予防接種とか検査の結果返しとか。久しぶりだけど嫌いじゃない。

業務終わってから新宿へ。ロフトプラスワンにて「宇宙作家クラブPresents ロケット祭り8」
初参加なのだけど、ネタが濃ゆい濃ゆい。19時過ぎに店に入ったらすでに話は序盤戦、席もほとんど埋まっている状態。正面に座りたかったけどすでに埋まっていて、なんとか上手側に椅子を確保する。
学問的にはともかく、日本のロケット開発についての黒歴史の一端を見聞きできたからよしとしよう(ぉぃ)。小娘オーバードライブな現実とかミサイルをたき火に放り込んでも簡単には発火しないこととか。
行き帰りの列車の中では「老ヴォールの惑星」(小川一水/ハヤカワ文庫)と「まろうどエマノン」(梶尾真治/デュアル文庫)読了。あと「モノクローム・ガーデン4」(夢路行)と「ハル」(瀬名秀明)購入。

三十日

夜から泊まり。比較的穏やかに。

三十一日

そろそろ帰ろうかな〜という頃になって緊急手術が始まったらしいと話を聞く。んじゃ血液浄化の仕事もあるかな〜と待ちかまえているとその通りに。
‥‥で、気づくと午後九時過ぎに腎臓内科グループ全員集合と相成るわけで。「腎グループは仲がいいねぇ」とか主治医に言われたけれど。


Written by Genesis
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