歳時記(diary):九月の項

一日

今日のかけ声。
透析室というところはなにしろ患者さんの血圧が変わりやすいところ。始まるとき終わるときその間と何度となく血圧を測りながら患者さんの状態を監視している。
で、まぁ、この日も透析が始まったところで看護師さんが「透析始まりましたよ〜、血圧測りますね〜」なんて声をかけていたのだけれど。何を思ったのか、血圧測定開始のボタンを押しながら、本日の透析室担当看護師Kさん三十[ピー]歳夫と子供二人持ちは
「血圧測りますね〜、どーん!」
と声をかけて爆笑を買ってしまっていた。

ボタンを押すときはやっぱり「ぽちっとな」でしょうに(誤爆)

二日

当直明け。夜間あんまり寝られなかったけれども、少しでも寝られていればそれなりに体は動く。

今夜のあんまり好ましからざる患者は、夜半過ぎに歯痛を訴えてきた患者。
聞けば数日前に歯科治療を受けたあとから痛かったみたいだがそれだったら早く日中に歯医者に行っとけばよかったじゃないかとは言わずにおいた。我慢できなくなってしまったんだからしょうがない。
しかし、いくら同一法人とはいえ、他の歯科診療所の対応の悪さをわたしに訴えて何をどう期待しているのか理解に苦しむ。「事情がわからないから何とも評価しようがない」と逃げても「でも普通常識で考えておかしいでしょう」と食い下がってくる。──常識としては、そういう苦情は当の歯科診療所へ持ち込むべきものではないのか? 夜の救急外来はそういうことを話す場所なのか?
要するにこんなやり方は間違っているから何とかして欲しいといいたいらしいのだが、思いきり相手を間違えている感じでかなり憂鬱。

あんまり進めてないけど、最近すっかり頭が「ONE」に侵触されていて、何かというとそのネタが思い出されてしまっている。
宴会があって遅くに帰ってきてご不興の相方をなだめながら、ふと言葉じりをとらえて「あ、もんもん星人だ〜」とかからかったら爆笑されてしまい。なにがウケたのか聞いてみたら「悶々星人」と頭の中で変換されてしまったようで。(^^;;;
そりゃあ、意味深だ。(核爆)

三日

午前中往診して、終わったところで羽田に急ぐ。同じ年入職の同期の人々といわば同期会。
行きの列車と飛行機の中で「イリヤの空、UFOの夏」全巻読了。

「イリヤ」を読み直したくなった訳は、直接的には「ライトノベル完全読本」で記されていた意外かつ納得の事実──「妖精作戦」(笹本祐一/ソノラマ文庫)と「イリヤ」の関係についてを知ったから、だろうと思う。
読み直してみて改めて、「イリヤ」が発散する魅力を実感した。そのいちばん大きなものは、中学・高校の頃のバカバカしくも力強くて一直線な気持ちとか、好きな女の子に出会ったときのどきどきとか動揺とか自己嫌悪とか、そんな登場人物達のこころの動き、なのだと思う。
作品のあちらこちらで出てくるたたみかけるようなモノローグ、綺麗にまとまりきれない言葉、奔流のように流れ出てくる言葉、まとめ上げられる暇もないままほとんど暴力的に紡ぎ出されてくる想い。それを受け止めながら──あるいは受け止めきれずにたじろぎながら、確かに自分もそんな風であったということを思い出すような。「イリヤ」は、わたしにとってはそんな作品であるようだ。

そして、榎本や椎名など、基地関係の人々の謎。イリヤの保護者のようであり、恋路を邪魔するような行動をとったかと思うと、次の時には浅羽をけしかけるような言動をとる。その謎は徐々に明らかにされてくるけれども、話が進むにつれて榎本たちも時に痛々しいような、傷ついた姿を見せるようになってくる。悪でない敵役は、みずからが為さねばならないことを果たしつつも、その中で傷を抱えているのだろう。その痛みの中でもなお仕事を果たし続けられる勁さは、浅羽にはないもので、それが浅羽の自己嫌悪のもととなることもあるのだけれど。

結論。「イリヤの空、UFOの夏」は名作である。それがいちばん言いたいこと。

羽田から那覇へ飛び、空港で車を借りてやや遅れての会場入り。ゆっくり語って楽しんだ。

四日

ゆっくり朝食を食べてから、空港へ。今日からはおまけの旅行。ということで、遅れて到着する相方の迎えに。
ま、その頃からかなり風が強かったりとイヤな予感はあったのですけど。まぁのんびり車を走らせながら、座喜味城跡を歩いたり残波岬を眺めたりして、ホテルへ戻る。──その頃にはビーチが遊泳禁止になるくらい風が強くて、みるみる間に雨も強くなるし、翌日が思いやられる天気。まずったかなと思いつつ、就寝。

五日

昨日は午後から暴風域に入るといっていたはずなのだが、今朝のニュースでは朝から暴風域に入っていたとのこと。飛行機も飛ばないらしいが、空港に行かないと今後の予定も立たないということで強行出発。
やっぱり暴風域に入ってる地域なんて車で走るもんじゃないってのは確かなようで。横合いからものが飛んできて肝を冷やすことも数度あったが、まぁそう危ない目にあうこともなく二時間ほどのドライブを終え、那覇までついた。
飛行機の特別空席待ち整理券を一時間くらい並んで貰い、那覇での宿を探す。──結論から言うと、宿探しは携帯電話でも使って早めに始めておいた方がよかったらしい。観光案内所でも一人ひとりに対して対応できるほど余裕がなくて、情報をまとめて配って、あとは自分たちで交渉してくれというくらい。
空港に着いたのは午前十時半頃だったけれども、宿がやっと見つかったのが三時半過ぎだった。(見つかっただけよかったかもしれないけれど)

夜はすることもないので読書とネット三昧で過ごす。空港で買った「Q&A」(恩田陸/幻冬舎)を早速読了。解かれたような解かれていないような、ちょっと不思議な謎が残る。
ネット遊びでは合宿所報告選とか。2ちゃんねるのログから抜粋された"厨"の話題。──医学的管理を要するケースがかなりあるなぁ、ってのと、ある程度は家族というか、生育歴や環境の問題があるんだろうな、ってことを思った。
何より面倒なのは、警察など役所が、「平気で嘘をつく/自己中心的な主張をする」人の対応に慣れてないってことかな、と思ったりする。まぁあんまり深読みしてこられるとそれはそれで大変だし、仕事柄百パーセント被害者の言い分を信じる訳にもいかない(狂言なども珍しい事件ではないしね)のも辛いところだろうけれど。捜査の中で被害者に新たな傷を与えないための配慮はもう少し考えられていいのではないかな、と思ったりした。

六日

朝から台風のさ中ぐうたら。仕事は休まざるを得ず。
昼前から那覇空港でじっと空席待ち。その間に「ソウルドロップの幽体研究」(上遠野浩平/祥伝社)、「スカーレット・スターの耀奈」(梶尾真治/新潮文庫)読了。
「ソウル・ドロップ〜」は相変わらずの不思議流の物語。「スカーレット・スター〜」は「泣けるラブストーリー」という感じ。SF的世界を土台にしながら描き出す、男女の心の通い合いがよかった。いちばん気に入った設定は「キュービックスターの真綾」。愛って、こういうものなのか、と思ったりした。

じっと待つこと八時間以上。ようやっと空席が確保できて八時過ぎの飛行機に搭乗。帰り着いたのは1時を回っていた。

七日

出勤したら仕事場の皆さまに「帰ってこられたんだ〜」と歓迎される。はぁ、何とか帰ってきましたよ。
で、そのまま当直だったりするあたりが。(死) 呼ばれない夜でよかった.....。

八日

明け。割と寝られて何より。

現在摂食に問題のある患者さんが二人。食べる体力がない人と、食べる意欲がない人と。
ある意味では末期状態なのだけれど、世間一般でこの方たちを「末期の人」というには語弊があるよなぁ.....。

九日

長期の患者さんの退院のめどが立ってきたということで、夜はサマリー書き。改めて書いてみると....医学的には大したことをしてないなぁ、とか。かかった時間のかなりの部分は退院先の調整であったりする。
転院・施設入所をする上でネックになることはいくつかある。透析をしていることもそうだし、痴呆で騒ぐとか、気管切開をしているとか。そして最大のものはといえば、お金ということになるだろうか。たとえば生活保護の人が長期療養できる施設・病院は数少ない。ヘタをすれば介護保険の一部負担金すら払えない人々であるから、まぁ当然といえば当然なのだけれど。
だんだん、金の切れ目が命の切れ目であるような、そんな流れができている気がする。

十日

往診して、カンファして。

先日亡くなった患者さんについて少しディスカッションがあった。広範な脳塞栓症で亡くなったのだけれど、日本の脳卒中に関するガイドラインをみても「治療の標準は何か」が書いてないのでは意味がないではないか、というような話を研修医と。
アメリカなどはガイドラインが充実しているのだけれど、一方でそれは「それに沿っておけば訴えられない」とか「保険会社がお金を出す基準になっている」というような事情があったりする。また、当然のことだけれどガイドラインが前提としている条件が崩れたときには手探りで「最善の治療」を考えていかなければいけないのはどんな国でも変わらないことだと思う。
EBMに沿った診療、ということではまだまだ日本は進んでいないのは確か。でも、だからといってEBM先進国の医療や医療制度が優れていると手放しで言うことはできない。(米の国の周産期死亡率は、日本のそれよりずっと高いわけで。もちろんそれは産科医の腕の問題ではないけれど)
大事なことは、欠点を克服するための不断の努力、ということになると思う。けれども、Evidenceの欠如という問題を補うためには、Evidenceを求めるための研究に患者さん達が協力してくれないといけない。薬Aと薬Bのどちらが効くか、という問題に答えを出すためには、Aを使う組とBを使う組に分けないといけない。「前評判のいい薬Aを何故使わせてくれないのか」と文句を言う人ばかりいたら、この研究は成り立たない。
──Evidenceをはっきりさせるための研究が進めづらい、風土があるんじゃないかななんて話まで、今日は行き着いていた。

十一日

出勤日。
当直の申し送りで急変している患者さんがいるということでバタバタする。血圧低いし、補液を追加したり家族に説明したり診断のために画像検査を行ったり。
そんでもって他の患者さんも診ないといけないし入院は入るし。──ぱた。

それでもまあなんとか普通の時間(註:それでも残業が五-六時間つく)に帰れて、「ONE」に手を出してみる。長森瑞佳シナリオクリアを目指しつつ、気がつくとみさき先輩シナリオに入っていたみたいで、そのままクリア。\(^-^)/
──まぁ莫迦にされましたけどね。「ゲームになんでそんなにハマれるの?」って。だって、ええ話やないか〜(笑) 最後近くはかなり切なくて。「強い人」よりは「強くなりたい人」にハマる様な気が、します。

十二日

車の車検だのバイクの修理だの、で時間がつぶれる。

んで、夜は「華氏9/11」鑑賞。前作「Bowling for Columbine」に比べると、マイケル・ムーア独特の語り口が影を潜めて、ある意味普通のドキュメンタリーっぽくなっていた気がする。一つには、題材の深刻さがあるのかなと思った。グラウンド・ゼロの死者、アフガン戦争の死者、イラク戦争の死者、それは攻めた側にも攻められた側にも存在し、それが政府の行為によって為されたものであるという告発の重大さを考えると、語り口の重さもやむを得ないのかな、と思った。

十三日

外来行ったら、外来の看護婦さんに「沖縄ではお疲れさま」と言われてしまった。はい、疲れましたですよ。

しかし、予約外来でもないのにほとんど自分が毎回見ている患者さんと腎臓悪いといって紹介されてきた患者さんを診ていたら終わってしまった。腎臓病の有病率ってもっと低いんじゃないんでしょうか(爆)

プレイしてないし、プレイ予定もないけどKanonのSS(SideStory)なんかを読んでいたりする。(ONEのSS見てると一緒にKanonのSSが載ってることも多いし。)
で、Kanon-SSさだまさしネタのSSを見つけて喜んでいたりするわたし。(爆)
この作者さん、「今はもういない月宮あゆへ…」なんてタイトルからは新井素子属性も感じてしまった。

十四日

週末にCPC予定。だいぶでき上がっているけどまだまだ詰めないと。
来院から死亡までがほんとに短いケースだったので「あれもやってない、これもやってない」と反省しきり。きっと当日は判らないことだらけで呆れられるのだろうけれども。
しょーがないので「ノーガード戦法」とか嘯いている哀しきわたし。

十五日

午前中、外来が大混雑ということで支援にはいる。
──たまたま、ですよ。たかだか十数人しか診てないんですよ。なのになんでご指名でくる患者が二人ばかりいるんでしょうね(爆)。
だいぶ前に一度診察した神経症の患者さんと月曜日に診察した腹痛の患者さん。ほかにもいろいろ。はぁ、疲れた。

夜は当直。昨日あたりから一年目の先生が副直として当直に入り始めている。──んで、ICUには重症膵炎がいるっていうと、相談が来たりする訳だ。
治療を開始しているのにあまりよくなった印象がないというのが困り者で。できる限りの対応をしつつ夜が更けていく。気持ちとしてしんどい夜。

十六日

明けて、そのまま仕事なのはいつも通り。
食事が摂れない患者さんに、栄養補給のための胃瘻チューブ挿入術を外科の先生にお願いする。強制的に栄養を摂らせて生かすことは倫理的にはどうなのだろうと思うけれども、生き続けて欲しいという希望があるならばやむを得ない、だろうか。
もっとも、患者さんの理解が得られずに、押さえつけて処置をしているのって、あんまり正しいとは思えなくて。──所詮、血塗られた道か。

夜はCPCの準備を了えてから寝る。どーなるかなんて知ったこっちゃないや。(ぉぃ

十七日

往診して、カンファして、そしてCPCやって、その間に入院を二人持って。うちひとりは緊急内視鏡を要したりして。(核爆)
夜のCPC始まる五分前まで内視鏡室にいましたよ、ええ。

十八日

出勤日。今のところ透析室が少し落ち着いてきているので、余裕を持ちながら。
それでも昼過ぎに入院が来たりして、それなりに遅くはなった。

「ONE」三人目のクリアは長森瑞佳。──あちこちで「極悪」「鬼畜」等々言われているのをみてましたが。「折原おまえの血の色は何色だぁ〜」とか叫びたくなりました。それでもついていく瑞佳って....。
これも愛なのだろーか。

十九日

日直。
午前中は病棟、午後は外来。
──たまたまだけど、午後は救急外来受診者も少なめで(結果的に)楽をさせてもらったような気がする。

夜は都内で食事。行きの電車で「タリファの子守歌」(野尻抱介/富士見ファンタジア文庫)読了。

二十日

予定のない祝日。
というわけで、「ぶたぶた日記」(矢崎存美/光文社文庫)読了。くすっと笑えて幸せになれる、いいシリーズだと思う。

えーと、他にはONE&KanonのSSを読んでたり、ONEの長森エンドを見直したり、してたくらいかなぁ。
さだまさしネタのSSを見つけてくすくす。「関白宣言」はいいとして、「君が選んだひと」とは....。

二十一日

なんか今週は休みが多くて、かえって仕事がままならず。病院というところは治療や検査をしてなんぼというところであるのだけれど、日曜祝日も関係なく動かすのは人員や施設の関係もあって難しい。
結果、祝日が多いと検査なんかが思うように進まないので仕事がしづらいということになる。

二十二日

久しぶりにHP200LXを取り出したらバッテリーが切れていたので、単三乾電池を買ってきて入れ替え。起動させると......思いっきり初期画面じゃないか。
どうやらバックアップのバッテリーまで切れていたらしく。その結果、内蔵メモリに保存されていた2MB分相当の各種設定ファイルや日本語環境が綺麗さっぱり消滅という憂き目に。慌てて日本語環境再構築のためにinstjkit.exeを起動しようとしたらシリアル番号を要求されて途方に暮れる始末。しくしく。
シリアルNoが記載されたフロッピーとか説明書とかは出てこないし。日本語環境にはkatanaが入れてあったりフォントも入れ替えてあったり、さまざまいじり倒してあったから、いまさら新しく作り直せるかなぁ。(弱気)

二十三日

勤労できることへ感謝する日。──ということで出勤する。透析当番。
週末から休む予定ということで、事前に指示をいろいろ出したりと忙しかった。

して、「ONE」氷上シュンシナリオクリア。なんか謎かけだけされて去っていかれたような気がする。
とりあえず見ておきました、という感じか。

二十四日

往診、カンファ、そして当直。その合間を縫って患者さんに会って、指示を出して。幸い夕方から夜にかけては全く呼ばれずに終わったのでその間に少し仕事を進めた。

二十五日

日付変わったところからぼち、ぼちと患者さんが来る。頭痛にめまい、発熱など。朝方近くなって二人入院に。今夜の当直の睡眠時間、二時間。

朝食をあんまり摂らなかったので昼過ぎには無性に腹が減り。遅めの昼食(パスタだった)を二人分食べるかどうかで一思案してしまった。──別にみさき先輩に挑戦!と思ったわけではない。

二十五日-三十日

別稿に。 


Written by Genesis
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