歳時記(diary):七月の項

一日

ひたすら寝倒れたら、何とか朝には仕事に行ける程度には復調。
行ったら行ったで結局普段通りに仕事をして。もっとも、比較的余裕のある日程であったのは幸い。

少し早めに帰れたので、本棚から「獣王星」(樹なつみ/白泉社)なぞ取り出してみる。未読だったのだけれど──これは好き。
死刑星──獣の星には不釣り合いな「輪」「獣王」といった整った階級制度。何故なのかな、という疑問はやはり物語の核心にかかわるもので。それにしても、痛い話が多いな〜>樹先生。

二日

往診は(臨時込みで)十件あるし、帰ってきたら入院が二件いるし。カンファレンスもあるしでばたばたばた。
それでも何とか帰ってきたところで、「獣王星」を最後まで読み切った。
自分の生き方を自分で選んでいく、そうでこそ獣王──そんなことを思った。

三日

土曜日。半ドンなんてことはなく。
本日休みの先生の患者さんの呼吸状態が悪かったり、自分の患者の呼吸状態が悪かったり。他にももちろんルーチンワークがまっていたり。
夜は夜で当直だし。入院が少なかったのが救い、か。

四日

ようやっと当直が終わる、引き継げると思いきや──交代の先生の一人が来ない。電話を入れてみたら「今実家だけどなに?」。かんっぺきに忘れられていたらしい......。もちろんその先生あわてて来ましたけれど、来るまで代わりをやってました。
そのあともいろいろすることがあって、気がつけば帰るのは夕方になってました....。

この日病院で同期の四人にはみんな会って、あとは兄貴分の先生にも会った。一人を除いてみんなここにいる義務はないはずの人。みんな仕事が好きなのね.....。

ワーカーホリックの医者に診て欲しいですか?(爆)

五日

外来は忙しさ爆発。ひとりお休みの先生がいて、応援が少ない。しょーがないので回す回す。さいわい「いつもの人」もそこそこいたので、そういう人はわりと時間がかからずにすむし。
んで、そろそろ午後の外来も始まろうかというような時間にようやくとりあげた最後のカルテを開けると「腎臓内科先生御机下 蛋白尿血尿の精査をお願いします」なんて書かれていたりすると....ぱた。

六日

そろそろやらんと....とか思いながら、内科認定医の症例まとめなんかに少し手を付けてみる。
一人分作ってみると、意外に短くまとめないといけないらしい。病歴の長い患者さんなんか、いくつか吹っ飛ばさないといけないことが出てきそう。内科の各分野に加えて外科転科症例や剖検症例など。さいわい自分で受け持った患者さんで全部そろいそうだから、まぁいいか。

七日

入院がなくて患者さんが落ち着いていると、やらないといけないことはわりとスムーズに片が付く。(それってまぁ治療が順調に進んでいるってことだしね)
そいでもって夜は当直。まぁ比較的平穏に。

八日

木曜日だけれど、明日から二日間出張ということで本日臨時往診。数もそれほど多くなくて、少し落ち着いて回れた。
午後で患者さん回診していない間の指示を出して。患者さんにも挨拶して。

──んで、寝る前に急変の報を聞く。いや、いつ急変してもおかしくないくらい全身状態の落ちた患者さんで、原因は痰詰まり。咯出力自体が極度に落ちていることは判っていたので家族にもあらかじめ伝えていたことではあったのだけれど。何とか事無きを得る。
これで寝たのは二時。

九日

何とか七時起きして大宮へ。透析療法従事職員研修といういかめしい名前の勉強会に。
会場が大宮ソニックシティというあたりからすこうしイヤな予感がしていたのだけれど、会場入ったらばっちり的中。大会場で後ろの方に座ったらスライドなんて見えやしないってのと、メモをとりたくてもささえになる机がない。膝の上に資料を広げてメモを取るしかないってのは何とかならんのかと思った。
そんな悪条件下でも聞く人を飽きさせない講演をする先生、即効性の催眠デンパを発信していた先生など、さまざまではあった。

行き帰りの読書は「楽園の魔女たち 楽園の食卓(上・下)」(樹川さとみ/コバルト文庫)。「楽魔女」ついに完結。ハッピーエンドでなにより、です。
個人的にはサラ・バーリン萌えで通してきましたが(ぉぃ。彼女の"詐欺師"ぶりに会えなくなるのはちと残念かもしれず。
彼女の人格解離はつまるところ統合されたんでしょうかねぇ....。

夜はAppleWorksとPowerPointをいじくり回して勉強会の資料作りを。やるのは木曜日だ。

十日

研修二日目。再び大宮へ。
テーマごとにやはり興味を持っているもの、あまり持っていないものと分かれてしまうのだけれど、透析療法にかかわる話題を一通り網羅していく。しかし、講義ばかりの勉強ってこんなに疲れるものだったんだろうか....。

終わってから大宮のまんがの森に寄って「新 土曜ワイド殺人事件」(とりみき&ゆうきまさみ)とか買って帰る。ちなみに往復の車中の読書は「Hyper Hybrid Organization 00-01」(高畑京一郎/電撃文庫)と、「復活の地 I」(小川一水/ハヤカワ文庫)。
"HHO"には病院近郊での災害で設備のない病院に患者が運び込まれてくる、という設定があるけれど、医師法の第19条に「診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」とある。
この「正当な事由」に、設備や人の問題が入るか、というのは結構悩ましい問題だったりする。たとえば「患者が立て込んでいるから新規の診療申込は受けられない」というのは"あり"なのか、また「専門が皮膚科だから内科は見られない」というのは正当な事由に当たるのか、「いまベッド満床で、話を聞くとそれは入院が必要だから診察はできない」というのはどうなのか。
医者の側からすれば、診察を受け入れること自体が危険とすら思える状況──たとえば蘇生に必要な人手がない状況で心肺蘇生が必要な患者の搬送依頼が来る──もあるのだけれど、そこで受け入れ拒否とする判断が法律的に見てどう評価されるかは気になるところではある。

十一日

天気の浮き沈みの激しい日。晴れて、雷雨が来て曇って晴れて。

投票、買い物と済ませて、「モノクローム・ガーデン2」(夢路行/一賽舎)と「火消し屋小町」(逢坂みえこ/小学館)など読み通す。
それから「ロボコン」の観賞会。スポ根ならぬロボ根ドラマ(ぉぉ は、リアルであったかで安心して楽しめる。ラストの勝敗は思わず手に汗握ってしまった。

十二日

外来は少しずつ「なじみの人」が増えてきていて、ある意味では勉強することが増えてきている。
個人的に外来診療での課題に糖尿病の外来管理を設定している。病棟ではそれなりに進んでいてインスリンを使っている人も多いし、血糖測定も頻回にできるし、食事量の管理もしやすいのだけれど、外来ではそもそも血糖を頻回に測るのはそれ相応の指導をしてからでないと無理だし、食事量も変動するし。使う薬は飲み薬がメインになる。そういう特性を踏まえながら、管理ができたらいいかな〜と思っている。
初診で来た軽症の糖尿病の人とかいないかな〜なんて目を光らせている今日この頃。

十三日

今週から腎臓内科にひとりローテーター(一つずつ科を回ってくる研修医)が来ている。指導担当は主にわたし、ということになり。考えることが増えている。
人を教える、ことの怖さは、自己流や自己満足に陥りやすいことではないかな、と思っている今日この頃。むつかしーよなー。

十四日

今のところ患者さんがわりと落ち着いていて何より。とはいえ、予後が厳しい患者さんもいるのだけれど。
「今夜がヤマ」「ここ二三日が厳しい」などの表現がよく言われる。説明を聞く側にしてみると、人にもよるだろうけれど「助からない可能性が高い」という風に聞こえるだろうし、逆にその「厳しい」時期を乗り切れると安心するところもあるだろう。
でも、人がいつ死ぬかというのを予測するのは難しい。逆に、厳しい病状を乗り切れるかどうかを正確に判断するのも難しい。「まず助からない」状態はある程度判ってくるけれども、それでも「今夜を乗り切れるでしょうか」という問いに正確には答えられない。
今日ある家族の方にした説明は「岬の突端にいるような崖っぷちから、崖を縫う細い道を歩いている崖っぷちに変わった程度にはよくなった。」その心は、少しは危うさが少なくなって、うまく歩き通せれば崖から落ちずに通り抜けられるけれど、少しでもふらつけば落っこちてしまう、のつもり。少しは急変の可能性は下がったけれど、いつ起きても不思議ではないことには変わりはない。こんな状態で経過するのは、家族の方も大変だろうと思う。

十五日

当直明け。何だか夜間の入院は発熱がらみが多かった。

んで、夜間入院したひとりであるまだ若い高熱・腹痛の患者さんを一年目研修医が担当し始めた。血液検査もあまりよくないし、画像所見上は腹部に何かありそうに思われる。
外科的処置をした方がいいのか?それとも薬で少し様子を見ていいのか?少しあわて気味の研修医に対して、指導医の方は「全身状態はどう?」と。
全身状態の評価、というのはかならずしも血液検査だけでは見て取れない。病歴に栄養状態、意識の状態、症状の強さと対症療法に対する反応、見た目の元気さとその変化。診察・画像検査・血液検査に加えて、個々の所見を総合した「印象」もポイントであったりする。見た目元気がなくて「病気っぽい」患者さんと見た目元気で「病気っぽくない」患者さんと。その違いを見分ける「カン」も、研修の中で身につけて欲しいことかもしれない。

十六日

午前中往診して、午後は少し患者さんを見て回って。
ひとり、病棟の中で困る患者さんがいる。端的にいって、寛容さに欠けるのだ。少しでももたつくこと、質問に対する対応が遅れることがあると大騒ぎを始める。周りの患者さんがスタッフを気の毒がるくらい。
彼女にしてみれば病院にミスがあってはならないし、患者さんを不当に扱っていると思われたことがあったらそれを堂々と指摘するのはなんらやましいことではないのだろう。そして、それは確かに何も問題となることではない。
しかし、不確実な点があったことに気づいて確認したりしていたことまでミスとしてあげつらっている彼女は、もはや正義の代弁者ではなく単なるクレイマーになってしまっていると思うのだが。
彼女を満足させるだけ、完ぺきに仕事をこなせたらよいと思う反面、次はなにをあげつらわれるのかと戦々恐々としているスタッフをどうフォローしたらいいのか、考えている。

十七日

休日。──なので休日出勤(ぉぃ
昼前から出てきて、少し患者さんみて書類を書いたりして。

夜は透析室の歓送迎会。おいしいものを飲んで食べて。満足して帰った。

十八日

朝寝坊。少し遅れてコミケット拡大準備集会へ。
会議とカタログ入手を済ませてから、相方と待ち合わせて買い物など。
買い物と夕食を済ませたところで、似顔絵描きの露店(‥‥というのか?)があって、面白そうだと描いてもらうことにする。
わたしの顔を眺めて、初老の絵描きさんは「個性的な顔ですね」とひとこと。
「そうですか?平凡な顔だと思ってたんですが」
「いやいや、めったに見ない顔ですよ

──褒められてません。しくしく。

十九日

夜から当直。
その前に買い物をしに。山靴など。
そんなに山を歩く訳ではないのだけれど、今後少し予定もあるのと、あれば使うだろうということもあって(爆)、少し高めのしっかりした登山靴を買う。
店のお兄さんによればしっかりした履き方が大事である由。指一本分くらい大きめのサイズで、しっかりとヒモをしめることで、足が靴の中で前後に移動しないようにするのが靴擦れ予防のポイントであるらしい。

二十日

午前中透析当番、午後は救急外来といつものスケジュール。
救急に来たひとりは薬物中毒ってことで、自殺企図があったみたいで警察経由で当院搬送となった由だが....そーゆー患者を精神科入院施設もない一民間病院につれてきていいのか?と思ったり。おそらくは患者さんの希望なのだろうけれど。
聞くとこれまでもいろいろとトラブルを起こしているようで、旦那さんも疲れた表情。「今日は受診日だったんですけど....。」って。こういう事情で多忙で受診中止、って人もきっといるんだろうな。

二十一日

この仕事をしていて幸せだと思うことの一つは、常に冷暖房が程よく効いたところで仕事ができることかな、と思ったりする。
でも、今日聞いた話では、某病棟で非常にガンコな患者さんが「冷房なんか入れたらわたしは風邪を引く!」と頑強に主張して、自分の部屋(六人部屋)に冷房を入れさせないなんてトラブルが発生しているらしく。周りの患者さんこそいい迷惑。
かといって、こういう患者さんに個室をあてがうと、二度と出たがらないような気もし。数少ない個室は重症の方、末期の方や感染症の方などにまわすのが先だから、どうしたものかと思案中らしい。
世の中にはいろいろな人がいる、と思うことはしばしばある。

二十二日

腎内科の患者さんはそれほど多い訳ではないが、透析室は満員御礼で悲しい悲鳴が上がっている状態。整形外科でリハビリ中の人、肺がんの症状コントロール中の人、循環器で心臓カテーテル目的入院の人、そういった透析患者さんも対応しなければいけないのが現状。
病院によっては透析患者の定員を設けて「透析ベッドが空いてませんので新入院できません」という制限をかけているところもあるのだけれど、当院では現在そういった取り決めをしていない。でも、さすがに透析ベッド数の三倍を超える透析患者がいるってのはねぇ.....。

二十三日

午前往診。初往診の人ひとり。
同じ科の先生が約一年病棟で診ていた人。ようやく在宅療養レベルとなって自宅へ。奥さんが主介護者だけれど不安が強い。あれこれと質問に答えていた。

二十四日

透析当番。──やることムリョ多数。
自分の患者診て透析の対応して。そうこうしているうちに救急に透析中で下血の患者がいるとかで、ベッド調整までしている。最後の患者の透析が終わって、病院を出たのは九時....。昼過ぎまでの業務ってのが基本だったような気もするのだが(死)。

二十五日

のんびり起きて、だらだらする。
午後から献血なんか行ったりして。普段日赤にはお世話になってるしねぇ....。

献血の合間や移動の間に「象と耳鳴り」(恩田陸)と「愛情世界の聖なる希望」(早見裕司/富士見ミステリー文庫)を読了。今日はちょっとミステリがらみの日、かな。

二十六日

外来。
当院はオーダーリングシステムが整えられており、注射・処方・画像検査などはコンピューター端末上からオーダー可能となっている。外来の受付済み患者もリストになって出てくるのだけれど。
『「空閑」ってリアルにある名前なんだ....。」
元ネタはもちろん「スケッチブック」(小箱とたん/Mag Garden)だったりするあたりがアレですが。見たことない名前だったものでてっきり創作だと思っていたんですが、ぐぐってみるとそれなりにいろいろ見つかってくる。名前って多様なのね....。
その中でもへぇと思ったのは空閑少佐のエピソード。いや余談なんですが。

二十七日

夜、ここんとこ調子の悪かった患者さんの看取り。全身の状態が全体として良くない、って状態だとねぇ....。
帰って寝ると一時を回っていた。

二十八日

今日から上の先生が夏休みをとられているということで、業務いっさい全部かかってくる。やっぱり落ち着かない。ばたばたとあちらからこちらからよばれるし。
それでもまぁ、もともと水曜日は業務の余裕はある日で、何とかこなせたけど。

二十九日

今月頭に退院になった人が再入院になる。体重がひと月たたずに15kgくらいも増え、浮腫に胸水とそろってきてしまったため。
よくそこまで....とも思うけれど。体重が増えるということは直ちに心臓には負担が増えるので、心臓弱い人だとここまで増える前に心臓機能が持たずにギブアップ気味になって受診することになる。

夜は当直。幸いあまり呼ばれずに推移。

三十日

朝方、しびれてきたと言って受診してきた人あり。聞くと透析中、とのこと。麻痺は全く見られないのだけれど、どーもあやしいといって入院にしてしまった。
(後日談としては、しっかり脳梗塞であった様子。小さなものではあったけれど。)

往診の予定を外しておいたので、朝からサテライトの透析診療所の回診。以前入院で受け持った人が少し元気になってきたみたいでやれやれと思ったり。

三十一日

透析当番。午前午後と2クール。そいでもって夜は打ち上げ花火の鑑賞の予定が入っている。
ヘタに緊急透析でも入って予定が遅れれば花火大会に間に合わず、相方の機嫌を損ねてしまい、ひいては夫婦関係の危機につながりかねない....てのはそんなに誇張でもないような。(ぉぉぉ
‥‥まぁそんなわけで最後の患者さんの回収が終わったのを見届けてダッシュをかけた次第。結局出発準備に若干手間取って初めからは見られなかったけれども、久しぶりに夏の花火を鑑賞。
今年の枝垂れ柳は途中で火玉がランダムに動くようなものが流行なのかなぁ?  


Written by Genesis
感想等は、掲示板かsoh@tama.or.jpまで。リンクはご自由に。

日記のトップへ
ホームページへ