歳時記:水無月の項

一日

受け持ちが減ったので至極のんびり。
午前中救急外来。今日から独り立ちということで、野放し(違)になる。
終わってから退院する患者さんと家族に、最後の病状説明などしていた。

夜、ちょっとヒマができたのでWeb関連をちょっといじる。

二日

ゆったり日曜日。朝起きて掃除に洗濯。干し物日和で何より。この間はせっかく干したのに外出している間に雨が降り出したしね。
洗濯物が乾く間に出かけて「ほしのこえ」サウンドトラックと「月迷風影」(有坂美香/Victor)の二枚のCDを購入。前者は自明、後者は「十二国記」アニメのエンディングテーマ。作曲がZABADAKの吉良さんであったりするのでやはり買わなければと思った次第。その後市立図書館で「石ノ目」(乙一/集英社)など借りてきた。

三日

当直明け。ちょっとしんどい。
実習に来ている学生さんと病棟業務。日本では医学生さんはお客様・見学者だが、アメリカではClinical Clerkshipの制度のもと、医療チームの一員として動いていくらしい。できるだけ病棟で過ごしてもらうプランだけれど、短期間では大したことはできないので、患者さんを選んでお話してもらったりした。

終了間際だけれどひとり患者を受け持つ。"ふらつき"を主訴に受診して、血液検査で貧血があることがわかった90歳近い人なのだけれど....貧血が進んだ原因がはっきりしない。痛みもなにも訴えないのだ。
データのパターンから消化管出血を疑って「吐いたものの中に黒っぽいものが混じったりしませんでしたか?」ときくと、「そういえば...」とのこと。なんでもチョコレートを食べた後にチョコレート色のものを吐いたのであまり気にしなかったとのことで。
緊急内視鏡でしっかり胃潰瘍があったけれど、それでも痛みを訴えなかったのは....いったい何故なのでしょうかね。

四日

午後から今一つ体調不良な日。発熱少年していたし。

午後に一人患者さんが退院。長くかかった人で、ひとつ荷を下ろした感じ。
その後、その人と同室で同じ病気の人が「彼女退院しちゃったね」と声をかけてきた。彼女より前に入院していて、退院を見送ることになった気持ちは、どのようなものだろうと思う。
その上、残された彼女は外国人で、異国の地で入院を続けているのだ。カンファレンスでも、彼女についての問題点は治療だけではなく経済的問題・家族背景についてもあげられている。治療だけでなく、治療を続けること自体が困難な人は、けして少なくない。

五日

午前病棟・午後救急の日程。
最近とある患者さんに怒られっぱなし。それなりに入院の長引いている人なので、ストレスもたまっているところにミスというか不手際というかがあると、それが非常に気に障るらしい。非はこちらにあることが多いので謝りっぱなしなのだが。
自分のせいじゃないことも含めて頭を下げるのもなかなか大変。

夜、帰ってからFlet's ISDNの設定を仕上げる。実は昨日から開通だったのだが、使っているプロバイダ(@nifty)への申請を忘れていてちょっとはまったりした。
ISDNを経由して接続できている人なら設定は楽勝。接続先の電話番号とIDを変更するだけでつながるはず。FreeBSDをダイアルアップルーター状態にして接続が可能になった。

六日

‥‥この日は何をしていたんだろう。忘れているし。

七日

午前病棟、のち手術に入り、午後はカンファレンスの日程。今日で腎臓科の研修終了ということになる。

夜は代理で当直にはいる。夜回診でICUに回ると不安定な重症がたくさん....。案の定何回も呼ばれる羽目になったのだけれど、なんというか手の打ちようのない状態で、経過観察と対症療法に終始するのもストレスフルで。
気疲れする当直だった。

八日

都内へ出る。電車の中で「石ノ目」(乙一/集英社)を読了、「ファイアストーム」(秋山完/ソノラマ文庫)を再読。
表題作「石ノ目」が伝奇的な題材を扱いながら推理小説のようなひねりがあって途中で思わぬ展開を見せる。「はじめ」は集団幻覚なのか、それともやっぱり"ナニか"がいたんだろうか。後書きで作者は"これまでと傾向が違う作品"というようなことを書いていたけれど、わたしには基本的に同じ流れの中で作品を生み出しているように思えた。

九日

諸般の事情があり、岡山へ。
用の済んだ後、書店で「夜話」(夢路行/マーガレットコミックス)と「ポストガール」(増子二郎/電撃文庫)購入。前者は1998年の第二刷。よくぞ残っていたものである。
「ポストガール」は即日読了。「キノの旅」と雰囲気が似ているな〜と思いつつ、わりと好きな系統のお話。

十日

本日より循環器科。
‥‥とはいっても、本日循環器には入院患者がなく。ちょっとゆったりしていた。
午後は心臓カテーテル検査の見学に入る。週2-3回ペースでこれから放射線を大量に浴びる生活に入るわけだ(違)。

夜は当直だったのだが....。ICUには手の打ちようのないような重症がいるにもかかわらず、不思議と呼ばれず、わりとゆったり過ごせた。何だったのだろういったい....。

十一日

あまり疲れの残らない直明け。
午前中の救急外来(曜日が変更になった)も、来た人といえば二十代前半女性の腹痛位だっただろうか。引き継ぎ間際に超重症が来たけれど、そのままICUに入ってしまったのでわたしは何も手を下していないし。
運がいいとかわるいとか、とつぶやいてみたりする。

午後よりOSCEの評価者として、当院の一年目医師達とともにお出かけ。一年目が実際に診察などを行い、それを先輩の医師達がチェックリストにそってチェックしていくという趣向。
わたしが割り当てられたのが神経学所見のブースだったのだが....自分自身のやり方が本当に正しいのかに自信が持てなくなったりして。「ちょっと違うと思わなくもない」みたいな、歯切れの悪いアドバイスになった気もする。

行き帰りの車中で「医療現場に臨む哲学」(清水哲郎/勁草書房)を読む。‥‥一読じゃ無理、もう一回読みなおさんとなぁ。

十二日

なんかどーにも眠たい。当直明の翌日、というのは、前夜によく眠れていないと変な疲れが残ってしまうことがあって、それかなと思う。昨日結局帰ったのはそれなりに遅い時間だったし。

午前中は心エコー検査にはいる。暗闇の中で影絵のようなエコー画像を見ていると....眠くなってしまう。(死) 危険危険....。
昼には受持患者さんの心房細動の除細動。ときどきテレビなどで出てくる電気ショックをかけるアレである。不整脈を電気で取り除くという野蛮な手口であるが、ちゃんと効果はあって無事に正常な脈に戻った。
覚醒状態でやるにはつらすぎるので麻酔をかけるのだが、その甲斐あって患者さんはほとんど苦しくない状態で終了した。終わってからいわく、「電気イスにでも座るような覚悟できたのにあっさりおわったなぁ」。‥‥わたしらは死刑執行人ではないのです。

十三日

比較的ゆったり。
午前中には一般外来の研修。初診の患者さんを診察して検査・薬のオーダーまで、指導医に監督されつつやってみる。指導医は院長先生が直々に当たってくださって、無用に緊張してみたり。
記念すべき初症例は検診で尿糖が出ていると言われてきた人。糖尿病の疑いもあるとして、今後も追跡することにした。

十四日

当直の間に、先日退院したばかりの人が再入院したとのこと。‥‥再び主治医となる。リターンマッチ(違)は初めてのケース。
しかし、金曜日はカテの日。午前中に合計6件の心臓カテーテル検査(CAG)と経皮的冠動脈形成術(PTCA)を行った。終了は午後一時過ぎ。
今日は既に循環器科初の退院患者も出る。‥‥展開が早くて目が回りそう。

んで、夜はCC(ケースカンファレンス)。件の再入院の人についてのカンファレンスだったりして。予想通りに詰めが甘く(爆死)、課題がたくさん積み残しになった。がんばろっと。

十五日

土曜日は朝の勉強会がないのでちょっとのんびり。
午前中で仕事を終わった後、すこうし書店を巡る。「あずまんが大王 4」(あずまきよひこ/メディアワークス)かなんか買って医局へ戻り、当直に入ったのだけれど。まだ残っていた同期(沖縄出身)が見つけて読んで、それなりにウけていたりした。
午後の時間帯で心不全の患者さんが一人入院。入院の指示を出した循環器のボス曰く「先生にプレゼントしておくから」‥‥そんなプレゼントばかりだったら嫌すぎ....。

十六日

当直はそれなりに。朝方にほとんど呼ばれなかったので連続4時間くらい眠れた。

iBookにiCabをインストール。Netscape6が重すぎのため入れてみたのだが....やっぱりこの方がよさげ。しばらくメインブラウザとして使うことにする。

十七日

某先生曰く「循環器の華はAにPすることだから」
そのA──すなわちAcute Myocardial Infarction:急性心筋梗塞らしき患者が転送されてきた。折しもこの日の午後は心臓カテーテル検査の予定。ICUのベッドも空いているし、当然そんな絶好のタイミングで送られて来た患者は研修医の受持になるわけである。
けれども、(幸いにしてというべきか)到着時には症状も治まっており、心電図変化もはっきりしない。診断は不安定狭心症となってICUにて厳重監視となった。以前にCAGをされており、狭窄も指摘されている人なので、今回はさらに狭窄が進んだのだろうと予想しているのだけれど。

十八日

夕刻、医局へ戻ってくると朝礼の時のように人が集まっている。‥‥そう、W杯の日本-トルコ戦の中継を見に集まっていたのだ。
試合は残念な結果ではあったのだが....、よく頑張ったというのがわたしの感想。勝敗は時の運もからむしね。次の大会を楽しみにすることにしよう。

十九日

午前心エコー、午後病棟の日程。
心エコーは自分でプローベを持って当ててもみた。やっぱり思い通りの画像を出すのは難しい。

夕刻、心不全の入院があるとの話が。担当はわたし、という話になり、仕事が一区切りついたところで患者さんを診に行く。コンピューターで採血の結果を見てみると.....炎症反応は上がっているし、肝酵素の上昇などもあって、とても普通の心不全のデータではない。
よく腹部の所見をとってみると圧痛もあり、腹部CTにて胆嚢炎かという話になった。患者は医者嫌いの高齢女性で、初めは腹痛の訴えもはっきりせず、見落としていたらしい。症状から疾患が即断できないという点で、高齢者はとても怖い。

夜、最近赴任した先生と話をしていてこんな笑い話が。
MacOSXの話などしていて「どーしてもUNIXとしてMacを使う人は、やっぱりUNIXに身も心も捧げた人じゃないだろうか」なんて話から「きっとプロンプトが出ないと動けないとかいいそうだ」という話になったとき。先生曰く「それってパーキンソン病じゃない」
‥‥パーキンソン病って進むと何か合図がないと歩き出せなくなったりするような症状があるのですが....なんかそのものずばりな気がする。ということはパーキンソン病の人にtcshをインストールすれば治ったり(しません)

二十日

なんとはなしにいろいろ。新入院も入らないし、けっこうゆったり。もっとも循環器は入ってきた瞬間が勝負で、初期対応が終わると後は治るのを待つだけというところがある。
夜、近隣の病院含めての循環器の勉強会に出席。終わってさらにどこかに行こうかなんて話も出たのだが。循環器のボス曰く「明日は神聖なカテの日だからねぇ」
‥‥まるで祭祀をつかさどる神官のような物言いであった。

二十一日

カテ日。
計6件の冠動脈造影および経皮的冠動脈形成術予定だったが、最初のケースが終わったのは11時近かった。PTCAが終わって経過観察をしている最中に胸痛が出現してきて再検査という例も含め、すべてが終わったのは3時だった。‥‥合計6時間ばかり、食事もとらずに検査漬けは疲れる。

業務が終わった後で循環器の先生方と飲み会。そこで聞いた名台詞。「人間は必要とされているところで仕事をしなければ能力を伸ばせない」。力を貸して欲しいと言われたときに最大限力を貸すことが、長い目で見ればその人の潜在力を伸ばし、力になるという話。
そうなりたいとも思うけれど、まずは貸すだけの力もない状態から脱却しないとねぇ.....。

二十二日

出勤してうろうろと仕事をしていると一時、ご飯を食べてうだうだしていると四時、そんな感じで過ぎる。あんまり目的意識的でない日々。
夜は久しぶりに自室で夕食をとる。とはいっても、以前代謝科の先生からもらった160kcalのレトルトのおかずと自分で炊いたご飯。筑前煮に野菜スープと豆の煮物。ざっと300kcal程度だろうか。(爆)
糖尿病になるような人は多くが食べることが大好きだから、カロリー制限をされ、しかもそれが続くのは非常につらいことなのではないかなぁと思う。もっとも、わたしはそれをきれいに食べてそれほど足りない感じもしなかったので、まぁちょうどいいということなのかしら。

二十三日

朝寝をして、洗濯をして、病院にちょこっといって仕事して、閉店セールしてる安売り店に行ってバイク用品なんか買って、ご飯を食べて。
読んだ本は「鵺姫真話」(再読)。そして「肩胛骨は翼のなごり」(デイヴィット・アーモンド/東京創元社)。後者は原題"skellig"。主人公マイケルが家族とともに引っ越したぼろぼろの家のガレージには痩せ衰えた男──スケリグがいて、彼と近所の学校に通っていない女の子ミナがお話の中心になる。医学徒的にはスケリグがリウマチを抱えていたり、マイケルの妹は何かしらの心疾患を患っているらしかったりと、病の影が強い物語だなぁと思ったけれど、全体のトーンとしてはけして暗くない力強いものがあった。

二十九日

しんっじられない程、忙しい週だった。
23日の当直帯で入院した心不全・肺炎の人(来たとき既に相当重症だったのだけれど)を受け持ったら病状がさらに悪化。もともと腎不全で透析をされている人でもあり、腎不全の原因が急速進行性のもので、Goodpasture症候群という肺胞出血と腎不全を来す病気の可能性が検討されたりと、早い展開にわたしの方は右往左往するばかりといった感じ。
幸い(なのか?)週の後半は科長の先生の学会出張が重なって、検査がなかったために少しはゆっくり患者さんのことを考えることができたのだけれど。
で、今日は当直で、呼ばれない間に少しはゆっくり書き物ができている。

「ブラックジャックによろしく1・2」(佐藤秀峰/モーニングKC)読了。研修医の給料月額三万いくらとか、意外と知られていない実態をふまえつつ、何とか患者のために働こうとする研修医の姿を、凄絶さすら漂うタッチで描き出している。
作品中で、退院前に患者と一緒の写真を残している外科医が登場する。二人で並んで撮った写真の笑顔が、二人の間の信頼関係をはかるものさしになるという視点は鋭いと思った。
現実離れしている作品だということもできるけれど....それでも、面白い作品だと思う。

三十日

当直明。ちょこっと仕事してから家に戻る。
その後はお洗濯に買い物。‥‥あと俺なにしたかなぁ?  


Written by Genesis
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