歳時記:九月の項

一日

朝から出勤。病棟の業務をごそごそとこなしているうちに昼が過ぎる。いつものことではあるが。
今日は夕方から医局の企画「納涼屋形船」というわけで、ちょこっと秋葉原に寄ってNCRのクイックガレージでiBookを修理してから集合場所へ行った。
JR浅草橋駅から少し歩いた所の船宿から出て、お台場付近をひとめぐりして帰ってくるコース。お台場付近で停泊して、夜景を見つつ宴会という趣向である。
出席者は比較的年配の先生が多くて、家族連れだったりするので子供たちの賑やかさが際だつ会であったように思う。船内でカラオケなども始まったが、通信カラオケということはPHSでも使ってデータ通信しているのだろうか、と余計なことも考えた。

行き帰りの電車の車内で「<骨牌使い>の鏡」(五代ゆう/富士見書房Fantasy Essential)を読了する。五代さんの作品を読むのはデビュー作「はじまりの骨の物語」に続いて二作目だけれど、重厚な話のつくりが大きな魅力だな、と感じる。
剣と魔法の物語、というとファンタジーの代名詞のようになっているけれども、しっかりしたファンタジーほどしっかりとした魔法の体系をもち、魅力的な武器の物語を持つ気がする。この作品での「骨牌」も、初めさりげなく登場して物語の鍵になっていく、とても魅力的なマジックアイテム──その域を既に越えているかも知れないが──だと思う。

二日

休日。ぐたぐたしてから、少し出勤して退院時要約の処理。
その後は「わたしは虚夢を月に聴く」(上遠野浩平/徳間デュアル文庫)「ミドリノツキ(中)」(岩本隆雄/ソノラマ文庫)を読了して、FreeBSDの設定に取り組む。
一度カーネルをコンパイルしなおした時には一部ソースに問題があったみたいで、一度落しなおして再挑戦。エラーが出た部分はコメントアウトするとなんとかコンパイルが通った。無事に起動して、現在は新しいカーネルで稼働中。
ipfw機能が組み込まれたということで、ipfw+natの設定を進めていく。一応一通り書いてはみたのだが....ほんとに動くのだろうか(実は現時点で試験はしてない)

三日

また新しい週が始まる。
今週はもう一人の同期が夏休みということで、各種細かい仕事が全部わたしに降ってくる(笑)。血液ガス採血も大量にあるとかなり大変で。

午後、科長の先生と受け持ち患者さんについて話していると、看護婦さんが「状態のおかしい患者さんがいます」と報告に来る。慌てて病室へいってみると、顔色は蒼白、手足も冷たくなってきているといった状態。すぐに蘇生を開始したが状態改善することなく、数時間後には死亡宣告となった。
死亡宣告の場にはわたしも立ち会った。これが二回目となる。自身の祖父の死亡の場にも立ち会ったから、合計では三回になるだろうか。──いつも、どんな顔をしていいのかと思ってしまう。
これに慣れる日は来るのだろうか。慣れなくてもいいのだろうとは思うのだけれど。

五日

水曜日は救急当番。朝早く起きて出勤して採血を済ませ、余った時間で受け持ち患者さんを回っておく。この日は結果的にはかなり忙しい日になったので、ああよかったという感じではあった。

この日の救急はひどく多忙。急性腹症あり、めまいあり。
このめまいの人でひやりとした。ふらつき・吐き気を訴えて受診した人で、麻痺や意識障害などがなかったのでよくあるめまいだろうと(実際めまいを訴えて来院し、点滴一本ですっきりする人は少なくない)採血・点滴で様子を見ていた。心づもりとしては吐き気が治まった所で帰宅でいいだろうと思っていたのだけれど、指導の先生はCT撮影で脳病変を確認した方がいいという。(ずいぶん慎重だなぁ)と思いながらもCTのオーダーを書き‥‥結果は小脳出血。即日入院となった。
まさかと驚きながらも、見落とさずに良かったと胸をなでおろした一瞬だった。

六日

‥‥二日続けて新患を受け持つ。これ、結構わたしにとっては大変で、初期状態の把握と指示出し・検査計画の立案とオーダー、投薬のオーダーとやることはたくさん。しかもこの日は回診が重なってまさに目の回るような状態。
昨日入った患者さんはどうやら骨髄穿刺を必要とするような状態ということで、その準備も進めて、たくさんの伝票を書いて。
はふぅ。

七日

この日のメインイヴェントは、午前中に予定されていた骨髄穿刺と夜から始まる初当直。
まずは朝一から骨髄穿刺。名前は相当おどろおどろしいが、針を刺して少々液体を抜き取るというだけなので、それほど危険な検査というわけでもない。ただ、刺す場所が胸のど真中ということで、やっていることが丸見えなのはあまり気分のいいものではないかもしれない。
採取した骨髄液をその場で処理してプレパラートを作る。その後で検鏡した結果は白血病が考えられるということで、この病院で対応しきれないことが分かり、その日のうちに転送となった。‥‥都合入院三日間というのは最短記録。

当直の方は、張り切っていたわりにはあっさりと終わった。あまり呼ばれなかったもんで。(^^; 平和が一番だ、やっぱり。

九日

都内へ出る。ひさぁしぶりに秋葉原へ行って、BSD Magazineを買ったり「ブギーポップ」最新巻を手にいれたり。この週末で都合6、7冊本を購入している。
夜は夜でFreeBSDマシンをいじる。この間までうまく行っていたuucp接続ができなくなったということで、あれこれいじり回す。結果、うまく行かない。(死)
プロバイダ側の設定が変わっているんじゃないかという結論に達しているのだけれど....これって単に責任転嫁しているだけって気もする....

十一日

uucpの接続は....やっぱりわたしが間違ってました。(死) アクセスポイントの電話番号が変わっていたらしい。
それでもなにかうまくいかない。エラーログを見ると、認証の所で蹴られる。いつ変えたか覚えてないけど、8月末にパスワードの変更をしたような記憶があるので、その影響かとも思っているのだけれども。
「教えてえらいひと」するしかないかなぁ。

十三日

この間飛び飛びになってますけど、忙しさはむしろ軽減していたりします。病棟がおちついているもので。

研修始めて三ヵ月が経過、ということで病棟にて総括会議。看護婦さんや病棟付の事務の人なども交えて「いい所・今後の課題」などの出し合い。
全体には評価されているのだけれど....「いつも元気そうで、疲れを見せない」ってのは....なんだかねぇ。悪いことじゃあないんだけど、もっと忙しくしてもいいってことじゃあないよとは言っておこう。(^^;;;;;

十四日

昨日新入院の人は食事が取れそうにないという事で、中心静脈栄養を開始。大腿のつけねの所から血管に管をいれているということで、尿失禁状態だと非常に汚くなってしまう。
それじゃあ、尿道カテーテルをいれて、尿が洩れてこないようにしましょう、ということになったのだけれど。入れに行った看護婦さんが戻ってきて曰く、「先生、尿道孔が三つあります。」
そんなばかな。
見に行ったら....確かにそれらしき穴が開いている。チューブはちゃんと奥まで入っているのに全然尿は出て来ず、チューブ内に水を注入したら別の孔から漏れ出てきたという。
‥‥人体の神秘を感じた一瞬でした。

十五日

夜、iBookを職場から持って来てあれこれと設定する。それに加えて、FreeBSDマシンのDHCPの設定。初めdhcpd.confを手書きしたのだけれど、うまく行かないのでportの中にあるアプリケーション:dhcpconfを利用。うまいことiBookからFreeBSDマシン経由でinternetアクセスできた時には万歳しちゃいました。(^^;

十六日

市立図書館へ久しぶりにいって、借りていた本をかえす。返却期限をオーバーしてしまっていた。
代わりに、と、「君にしか聞こえない」(乙一/角川スニーカー文庫)を借り出す。一冊だけなのはちゃんと期限を守るため。
さっそくその日の内に読み終えてしまったのだけれど.....裏カバーの「せつなさの達人」という表現が嘘じゃないなと思える切ないお話が3篇。表題作「Calling You」を読みながら「銀河通信」(谷山浩子)をふと思い出した。
「ケータイ」で人と繋がることに執着する人間関係を希薄だと批評することは簡単だけれど、それだけ人とのつながりに餓え、一方で怖れも抱いているのだろうと思っている。

十九日

救急外来は喘息らしき人がふたり。うち一人は既往に喘息がなく、初発と見られたためにちょっととまどった。
その人は中年の患者さんだったけれど、喘息と聞いて「薬ずっと飲まないといけないんですか?」とがっくりした感じだった。

この日は当直。結果的にはわりと寝られた。
ICUの患者さんで人工呼吸器を装着されている人が血中酸素濃度がよくなく、設定を変えてやっても全然良くならない。心筋梗塞でも起こしたのだろうかとかいろいろやってみた結果、どうも痰が詰まっているのではないだろうかという結論に達した。
吸引チューブを入れて吸ってみても吸いだせないということで、帰ったばかりの呼吸器の先生を「帰ったばかりだからちょうどいいだろ」などと言いながら(鬼)呼び出して、気管支カメラをやってもらう。ねっとりとした痰が気道を塞いでいたらしく、吸い出すとおもしろいようにデータが改善していく。なんとか呼吸状態が安定してほっと一息ついた。

二十一日

現在勤めている病院は一応臨床研修指定病院となっているが、じゃあどこから見ても先端的なすばらしい研修をやっていると胸を張れるか、といえば残念ながらそうではない。いい研修ができる素地はあるかもしれないがそれを生かせてない、というのがわたしの評価だ。(ってなんかとっても偉そうだが)
で、まぁあれこれともの申していたりするのだけれど、とーぜんながら上の先生には目立つ存在となる。それは覚悟していたけれど、今日上の先生と話していた時に面白いことをいわれた。
「先生には6、7年後には研修委員長をやってもらおうと思ってね」
んで、そのために初期研修のうちに系列のわりと有名な先生のところに短期の研修にいってもらおうと思っているとか専門研修で海外に行ってもらおうと思ってるとかいろいろ言って下さった....。
いや、別に内容に異義はない。むしろ進んでそのレールに乗ってしまうかも知れない。ただ、知らないうちに他人がわたしの人生設計を考えていたという事実が単純に面白かったのだ。
人生って面白いなぁ。(^^;;;;

二十二日

休日ということで、ちょっと出勤した後のんびりする。

先日来ぐちゃぐちゃといじりまわしてきたuucp関係の設定だけれど、結果的にはどうもプロバイダ側の設定変更によるものであったらしい。システム変更をしたさいにきちんと変更できなかったらしく、どうもわたしのせいではなかったらしい。
「とりあえずuucp via TCP/IPだけはつながるはずです」と連絡を受けて、やってみるときちんとつながった。\(^o^)/

二十三日

CMの類いにはぱっと聞いただけではよく分からないような内容のものがある。
駅前をうろついていたらマクドナルドの店先を通りかかり、エンドレスでくり返されているMCが耳に入ってきた。「月見バーガー」とやらの販促のようなのだが。「月見バーガー644個ください」とかって言っている客の台詞が入っていてなんだか奇妙な気分になった。
644個。一食五個としたって129食分。一日三食ならざっと一ヶ月分。そんなに月見バーガーは持ちがいいのだろうか。
それとも、この客の家には実は飢えた子供が10人もいて、ひとり一日20個くらい食べてしまうのだろうか。そうしても三日分に相当する量だ。これはきっと、24時間保育の保育園でこどもの食事用に買いだめしているに違いない。しかし、マクドナルドのハンバーガーだけではやはり栄養が片寄ってしまう。生活習慣病予備軍が増えるばかりだ。

‥‥などとやくたいもないことを一瞬考えてしまった。

二十五日

午後、研修で三郷まで出張。帰りに「キャノンガール」(岡本賢一/ソノラマ文庫)読了。
時系列上では「ギガミリオンの幸運」の続編に当たる作品だけれど、エピソード的には別のもの。面白く読んだ。

二十七日

昨夜から当直。三時から八時過ぎまで眠れたけれど少し寝不足。(これでもよく寝られた方らしい)
夜半過ぎまでは比較的呼ばれ、でも眠りについたころからはあまり呼ばれないというパターンを踏襲。これが確立してくれると「当たらない人」になれるかなと思うのだけれど。

そこそこ眠れたとはいえ眠い。仕事を終えた後は早々に帰って寝た。(でも自転車がパンクしてて、歩いて帰るはめになった.....)

二十九日

土曜日で、一応出勤日ではなかったけれど、仕事は幾らでもあるので出勤。
午後は神経関係の懇話会で、指導医の先生の発表もあるということで聞きにいく。脳外科や神経内科の先生方が集まって症例呈示をしたり、講演を聞いたり。知らない疾患についてあれこれ語られていてもこっちは眠くなるばかりなのだけれど(死)、見たことのある疾患だとある程度話も分かって聞いていて面白い。
終わったあとは飲み会だった。

飲み会で、ふと末期の患者さんにどう対応していくかという話になった。脳梗塞で植物状態の患者さんに対してどこまで治療していくのがよいのか、と言われると明瞭な答えは導けない。
受け持ちの患者さんでも、進行胃癌を抱えていて、全身浮腫と肺炎で入院、という人がいた。低栄養からくる浮腫がなかなか改善せず、「積極的に治療するだけ無駄だから、何もしない方がいいんじゃないか」と言われたこともある。結果的には利尿剤の増量で徐々に浮腫が改善し、退院に漕ぎ着けた。
でも、次に同じような患者さんがいた時に、同じように改善するとは限らないだろう。「どこまで積極的に治療すればいいか」の模索は多分永遠に続く。


Written by Genesis
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