オーストリア・スイス旅行記

諸般の事情があって、二週間ばかりの欧州旅行を計画した。気がつけばドイツ語圏、というのはわたしと相方の趣味以外の何者でもない。
とはいえ、それなりに楽しんできたので、しばらくお付き合い願えれば。

九月八日

すこうしゆっくり起きだすと、食事をしてから荷造りを始める。もっと早くやっておけば、とも思うが、なにしろそんな時間はなかったもので....。
何とか荷物ができてきたところで、家を出て列車に乗る。成田エクスプレスに乗り換えて、予定の時間に成田に着いた。

飛行機は成田発バンコク経由チューリッヒ行。そこで一度荷物を受け取ってから、改めてウィーン行きに乗り換えるプラン。
海外旅行は二度目ということで、早め早めを心掛けつつ移動する。チェックインも早めに済ませて、しばらくのんびりしていた。
離陸後は「八月の博物館」(瀬名秀明/角川書店)など読み耽っていた。

バンコクにはほぼ定時に到着。けど、つくのが真夜中で、出発は0:15などという結構とんでもない時間だったりする。それでも乗る人がいるのだが。
機内では後半、機内の照明も消えてしまい、寝るしかないような感じで退屈する。レーザー光の照明などあったらよいなどと思いながら横になっていた。

九月九日

長い日。時差の関係もあるが。
チューリッヒに着き、一旦transferのため入国する。荷物を受け取るぐるぐる回る台のところでじっと待っていたのだが、預けた荷物二つのうち一つが出て来ない。ははぁ、これがbaggage lostってやつか、と思いつつ、すぐ目の前のlost&foundと示されたところへ行って手続きした。
この時、あんまり荷物の細かい特徴を把握していなかったので、職員からの細かい突っ込み(違)にきちんと答えられなかった。荷物のメーカーや色・形、ステッカーなどはきちんと把握しておいたほうがいいと思う。また、この際この後の滞在先について聞かれ、見つかったらそこに送るとの由だった。

のっけからちょっと疲れつつ、ウィーンへ。宿としていたPrintz Eugenにつく。ちょっと早かったがチェックインができ、やれやれと部屋に転がり込む。ちなみにフロントには一応、baggage lostしているのでもし届いたら伝えて欲しいと言ったのだが、フロントのおっちゃんは慰めのつもりか「baggageは毎日なくなっている、気にするな」みたいなことを言ってくださった。‥‥それもちょっとイヤ。

部屋で一息入れた後、なにしろわたしの分は明日着る服もないということで、買い物のためにKahlsplatz方面へ。でもこの辺はあまり日用品を手頃な価格で売る店がなく、宿に帰るつもりでWieder-Haupt Strasseへ。買い物はできたが遠くまで来てしまったので、バスを使って宿近くまで戻った。
日の最初にWien Karteを買って使い始めた。いろいろの特典がついて17ユーロだから、それなりの期間ウィーンにいるなら使って損はしないと思う。一番最初に使うとき、券の裏面のスタンプコーナーにスタンプを入れるのを忘れずに。名前なども書いておいたほうがいい。

へとへとになって部屋で寝ころんでいた夜十一時、部屋の電話のベルが鳴る。非常識な奴だな、と思いつつ対応してみると、フロントからで荷物が届いたとの由。‥‥早い。
とりあえずめでたいということで、相方とジュース(町中で買ってあった)で祝杯をあげた。

九月十日

起きて朝ご飯。パンにチーズとハム、ヨーグルトなどと、簡単なものをセルフサービスで取って食べる。準備を済ませ、九時過ぎには宿を出た。
本日のコースは離宮を二つ。ベルベデーレ宮殿とシェーンブルン宮殿とをめぐる。まずは宿から程近いベルベデーレ宮殿へ。上宮と下宮とがあり、上宮には19世紀くらいの絵画がいろいろ展示されているとのことだったが、入り口に列ができているのを見て諦める。庭園を満喫するだけにとどめた。
その後はすぐ近くのカール教会へ。ペスト流行の鎮静化を願ってカール六世が建てたという建物はキリスト教の教会としては珍しいデザインだと思う。内部に入ると天井のフレスコ画やら壁の各種宗教画やらが美しい。中にリフトが作られ、塔の上の方に上がることもできるようになっていた。

シェーンブルン宮殿は前回も行ったところだったが、今回は季節もよく、花壇の美しさが印象的だった。
前回見学しなかった内部見学もした。classicのパスで公開されているところを一通り回る。無料の音声ガイドを英語で言われてもわからないからと借りなかったのだが、もしかしたら日本語もあったかもしれないと後悔した。少なくともガイドブックは日本語版があったので、確認してみてもよかったと思う。
基本が王宮なので何を見てもため息しかでないのだけれど、やっぱり豪華そのもの。や、とりあえず眼の保養にはよさげなところです。
敷地内のカフェで軽食を取ってから、mazeを経由してグロリエッテへ。ここからの眺めがとてもよろしい。今回は見送ったけれども、グロリエッテのテラスのカフェで一杯、というのも楽しいものだろうとは思う。

景色を見渡した後、Wagenburg(わたしたちは勝手に「お馬車の博物館」と呼んでいた)に行こうと思ったが、時間切れで断念。夕食を取ろうとKarlsplatzから程近いMullerBislへ。前回のウィーン訪問時もここへ来たことがあるのだが、日本語メニューがあったりするので使いやすい。
頼んだメニューはスープと川魚のソテー、それにビールとレモネードのカクテル。どれも美味しかったのだけれど、ビール&レモネードは甘いビールという感じになって口あたりもとてもいい。飲み過ぎご用心な飲み物だった。

九月十一日

この日は旧市街の日、と決めていた。トラムD号線でオペラ座の前まで出た後、とことこ歩いてシュテファン寺院へ。
とりあえず中に入るとパイプオルガンの響きが聞こえた。初めは単なる音階を長く伸ばしているだけだったので、何か曲が始まるところなのかとじっと耳を澄ましていたが、結局なにも聞けなかった。
ぐるりと中を回った後、軌道エレベーター(違)で塔の上へ。ここはチケットを売っておらず、エレベーターの箱の中で集金する仕組み。わずかな時間で一気に塔の上へ連れて行かれる。降りるといきなり工事現場のような金網でできた足場の上を歩くことになり、塔の上も断崖絶壁の上から街を見下ろすような感じになるので、高所恐怖症の人は避けたほうが賢明。軽くその気のある程度のわたしでも、腹が冷えるような感じがした。眺め自体はとても素晴らしい。ウィーンのまちが一望できる。

シュテファン教会を出た後、フィガロハウスを見る。入り口を入って階段をのぼるとそこに受付がある。中味はごく普通、といおうか。楽譜に手紙に肖像画に、といったところ。好きな人は中の展示を見てもいいだろう、というくらい。
道を引き返し、ペスト記念柱を見てから王宮へ。前回旅行で見なかった王の居室や王宮の食器の展示を見て歩く。‥‥金鍍金した銀食器って一体...と思ってみたり。食器の展示だけでもため息が出る。
王の居室は主にフランツ・ヨーゼフ皇帝と皇妃エリザベートが使っていたもの。皇帝の居室は比較的質素で、ノーブリス・オブリージュを地で行っていたような皇帝の性格が窺えるような気がした。ちなみにここには日本語の音声ガイドが用意されている。

このあたりでいいかげん昼を過ぎ、空腹になったので、歩き回ってサンドイッチ様のものを買い、緑地のベンチに座って食べる。気候的には晴れていても風が吹くと肌寒く感じるくらいで、東京の10月くらいの気分だった。
その後は相方の注文で自然史博物館へ。王政時代から受け継がれた数々の鉱物・動物・昆虫などの標本や、古生物の化石の標本などを眺めていく。解説があまり細かくなくて、あってもドイツ語がわからないためにひたすら眺めるだけだったのだけれど、量がかなりのものなのでそれだけでも堪能できる。
展示室は天井も高く、上の方の壁に絵も掲げてあったりして重厚な作り。博物館らしい博物館、と言えるかもしれない。

この日の夜はオペラ、と決めていた。ウィーン初日に演目をチェックしたら、この日の演目が「魔笛」(W.A.モーツァルト作)ということで、これにしようと決めていたのだ。
当日売りの立見券の発売は開演一時間前の六時。六時十分頃に窓口へ行くと、既に長い列ができている。建物の外側から回り込んでようやく列の最後尾についたが、結局入場したのは開演十分前くらい。場所も舞台の上手側の立見席で、もうちょっと中央に近いところならば舞台がよく見えたのにと後悔することしきり。
とはいえ、雰囲気だけでも味わえたからよしとする。二幕ものだけれど、一幕終わった後には立見席も少しすき間ができて、少しはゆったり見ることもできた。
オペラの中味については、英語の逐語訳を表示できるディスプレイもあり何とか筋についていけた。やっぱり一流を見る価値はあるなと感心した次第。舞台で花火まで使うというのは日本の常識とは違うなぁと思ったりした。

九月十二日

この日はザルツブルグへの移動日。
起きて朝食後、荷物をまとめてWien WestbahnHofへ。10:20発のザルツブルグ行きICを予約していたのだが、結論から言えば予約は不要で、席はがらがらにすいていた。わたしたちは日本でユーレールパス・フレキシー(二ヵ月間のうち好きな五日間有効となるパス)を購入していたのだが、このパスの説明書きによると一等でも二等でも追加料金はかからないとのことだった。座席指定をつけるとさらに追加料金を取られるので、乗れればいいなら特に予約をする必要はないように思われた。(どうしても座れるように、といったような確実性を求めたいなら別だが....)
三時間少々の旅はさながら「世界の車窓から」(いや、そのものなのだが....) ふと思ったのだが、あの番組で日本の新幹線の車窓など紹介したらどうなるだろう。思い切りつまらない気がするのは気のせいだろうか?

1:45過ぎ、ほぼ定刻にザルツブルグ駅到着。
駅についてまずは駅前の案内所で市内案内のパンフレットを探し、そのあとたまたまいた出店の屋台で食べ物を買って腹ごしらえしながら行動計画を考える。そう遠くもない距離だったが、荷物もあるのでタクシーを使うことにした。宿となるAltstadhotel-Wolf-Dietrichまではそう遠くもなく、5ユーロ程度で到着した。

取った部屋はPapagenaのお部屋で、一言でいって豪華というか何というかな部屋。歌劇「魔笛」の鳥刺し・パパゲーノとパパゲーナの部屋というコンセプトであるらしく、森の中のような浴室、寝室の扉には鳥かごを模したような模様といった具合。
個人的には笑えた。

荷物をおいた後、新市街の観光に出る。とはいってもそう見所は多くなく、ミラベル宮殿の庭園が一番だった。
広々した庭に花が綺麗に整えられている。咲き乱れるというほどではないが、整然としていて好感が持てた。

九月十三日

この日は旧市街を回る。小さな街なので歩いて見学した。
ホテルを出てLinzar Gasseをくだり、橋を渡るとそこは旧市街。AlterMarkt広場からResidentz広場へでる。ここで少し待ってGlockenspielの演奏を聞いた。微妙にリズムがあやしい感じなのだけれど、味わいのある演奏だと思った。
その後は大聖堂とResidentzの見物。大聖堂前のマリア像が戴冠しているように見える位置で写真を撮って、中に入った。日本語での音声ガイドもあって、日本人観光客が多いのかなと思ったりした。聖堂内部は細かな装飾がたくさんあって見ていて飽きない。二度の大修復を経ているとのことだった。
Residenzは歴代大司教の居住したところとのこと。ちらっとみておわりにしてしまった。
屋台でパンを買った後、Kapitel広場からSt.Peter教会の墓所とカタコンベを見る。墓地は映画"サウンド・オブ・ミュージック"にも使われたのだそうだがわたしはよく覚えていない。でも映画に使われるのもうなずける、美しい場所だった。
ゆっくり墓所を回った後、Hohensalzburg城へ登るケーブルカー乗り場へ向かった。お城はあちこちから街を一望のもとに見渡すことができてとても気持ちのよい場所。カフェなどもあるのでお昼をそこで食べるもよし、わたしたちのようにサンドイッチなどを持ち込むもよし、と思う。
お城から降りてから、もう少し旧市街巡りをしようと歩きだしたところで、FranziskanerKircheの戸が開いているのを見つけた。礼拝をしているのか、パイプオルガンの演奏がされていたので、少々失礼して聞かせてもらった。オルガンは教会全体を一つの楽器のようにしてしまう楽器だから、広々とした空間全体に音が満ちて行くような感じがする。しばしゆったりと和んだ。

その後モーツアルトの生家へ。けして広くはない建物だけれど、スペースを有効に使って展示をしていた。そう大量の展示があるわけでもなく、ちょこっと寄る程度のものと思ったほうがいい。
そのあとはGetreidegasseをのんびりたどっていく。どん詰まりの所近くにあった土産物屋でネクタイなどを買い求め、Griesgasseをたどって元の方へ戻って行った。
土産物屋の向かいにBlasiuskircheがあり、壁にキリストが十字架にかけられている壁画があったのだけれど、そこに刻まれていた"I.N.R.I"の文字を見て、「光響祭」(秋山完/"天象儀の星"所収)などを連想していたりした。

この日の夕食はSUSHI。たまたま見つけた寿司バーのテイクアウトで済ませてしまった。ネタの味はまぁまぁだけれど、シャリが酢飯でなくただの飯(さすがにジャポニカ米だったが)だったのがちょっと残念。Soy sourceとワサビもきっちりついてきた。

九月十四日

なにやら朝から警官の多い日。
この日回ったのはモーツアルトの住居だった場所で、現在は記念館となっている建物と、カプツィーナー修道院、そして夜のSaltzburger Schloss Konzarte。

モーツアルト記念館は指向性の強いレーザー光を使った音声ガイドシステムを使っているのか、一つの部屋の中で数種類の解説が聞き分けられるようなシステムになっていた。日本語もあり。でもやっぱり展示の量としてはこじんまりしていた。

カプツィーナー修道院へは"聖しこの夜"の作者の生家の脇の階段をひたすら登って行く。ここも眺めがよくて、天気もよかったので最高の気分。修道院の中は見られなかったけれど、周りを散策するだけで楽しめた。

夕方、一度ホテルへ戻り、コンサートへ行く準備をした。途中で夕食を済ませるつもりで早めにホテルを出、ミラベル宮殿方面へ。――しかし行く道行く道警官や軍人が道を塞いでいる。見ていると歩行者も通れない感じで、やむなく遠回りの道を探していたのだがらちがあかない。どうも宮殿を中心にそこに通じる道を封鎖している感じで、通れそうにない状態だった。ものは試しと警官にチケット代わりの領収書を見せて通れるか聞いてみると、通れるとの答え。というわけで、封鎖中の人通りのない中を二人して歩いて行くことになった。
何とか宮殿前まではたどり着いた。食事は結局一昨日も入った店が(封鎖のど真ん中で客もほとんどいない状態ながら)営業していたのでそこに入った。店の親父曰く、"Congressの警備がきつくてやってられない"(超訳)とのことで、だれか偉い人でも来ていたのだろうと思う。

コンサートホールは宮殿の広間。一般公開されていないところを使って、百人ほどを収容するホールになっていた。音響としては過ぎるほどによく響くので、マイクを使わなくても十分によく聞こえた。
演者はバルトーク弦楽四重奏団。このコンサートにはしばしば呼ばれているらしい。演目はベートーベンの弦楽四重奏を二つと、ご当地のモーツアルトの四重奏。
内容を云々するほど耳が肥えてはいないけれど、雰囲気もよく楽しんで聞けた。宮殿の豪華なお部屋で、壁には蝋燭を真似た照明がついているというようなところで室内楽を聞けるというのはそうない機会だろうと思う。
来ている人もそれなりの服装ではあったけれどけして豪華な服を来ているという訳ではなく、セーターにスラックス程度の人も少なくなかった。わたしは一応ネクタイなんぞ絞めて^H^H^H締めてみたが、そのくらいの格好で十分だと思う。値段も30ユーロ程度と手頃なので、時間があったらお勧めしたい。チケットはわたしたちの場合ホテルのフロントに相談したら取ってくれた。

九月十五日

この日はザルツブルグからチューリッヒ経由でルツェルンまでの移動日。手段としては列車を用いた。
ECの列車「マリア・テレジア」は10:31発。定刻よりやや遅れてザルツブルグ駅のホームへ入って来た。2分程度の停車時間はあるので、日本の列車よりはゆっくり乗れる。とはいえ、発車のベルなしでいきなり発車してしまうので、乗った後で降りてホームをうろうろするのは難しい。
列車の旅は快適で、のんびりできたのだが、少々困ったのがスーツケース。二つ持って行ったのだが、一つがかなり大きくて列車の網棚には乗せられない。(乗せてもはみ出してしまって落ちて来そう)やむなく通路においておいたのだが人が通ると邪魔....。列車での移動が多いなら、スーツケースは網棚に乗る程度のものがいいかもしれない。

検札の際、車掌から「Buchsへ行くのにバスに乗り換えることになります」というような予告がされていた。ザルツブルグの駅でも案内板にBuchs S.Gなどと書かれていたので、二人して首をひねっていた。
オーストリア・スイスの国境の境はFeldkirchという街。ここの駅に着いたところで、車掌を含めて全員降車し、バスに乗り換えた。国境ではパスポートをチェックされたがほとんどちらっと見るだけで通り過ぎ、あっさりとBuchsの駅に着いてしまった。
駅にはこれまでと違った列車が入線しており、乗り込んだところで何事もなかったように発車した。
勝手な予想だが、国境で列車を換える都合やなんやかやがあって、列車によってはこのような運用がされているのではないかと思っている。

チューリッヒには予定より十数分の遅れで到着。駅の構内のATMでキャッシングを行ないスイスフランを手に入れた。
ルツェルン行きICに乗り換えて、到着したのはまだ明るい6時前だった。

九月十六日

朝起きてテレビの天気予報を見ると、スイス全土にお日様マークがついていた。というわけで、リギ(Rigi)山へのハイキングという計画になったのだが、朝のうちは雲が多く、「もし途中で天気が悪くなったら引き返そう」などといいながら船つき場へ向かった。
コースとしてはヴェギスWeggisまで船で行き、そこからロープウェーでリギ・カルトバードまで、登山列車に乗り換えて山頂のリギ・カルムRigi Kulmに至るコースを選択した。それほどのんびりとしたつもりもなかったのだが、10:36発の船に乗って、帰って来たのは5時近くになっていた。

船のお代は二人で30CHFほど。高っ、と思ったがしかたない。ヴェギスにつくと、15-20分ほど登ってロープウェーの駅まで行った。初めリギ・カルトバードまでの切符を買うつもりだったが、係員が「top?」などと聞いて来たのでそうだと答えたらカルムまでの切符がきた。これまた一人で32CHFほど。スイスの鉄道の高さを実感することとなった。
この頃にはだいぶ晴れて来ていて、あたたかい日差しの中で船に乗り、歩くことができた。天気が悪いとだいぶ寒い思いをする可能性が高かったと思う。
リギ・カルムに着き、まずはすぐそこの山頂まで登る。見晴らしが非常にいいのは言うまでもないが、一方はかなり切り立った絶壁に近くなっていて、天気がよかったのも手伝って足下が冷えて来るような見通しのよさだった。
その後駅で腹ごしらえをしてから、下りのハイキングコースを歩きだした。初めは登山鉄道の線路沿いにリギ・カルトバードまで降りるコースをたどろうかと思っていたのだが、カルムからStaffelまでの線路沿いのハイキングコースが通行止めのようだったため、一旦カルムヒュッテKulmhutteまで下ってからStaffelの駅へと回るコースを選択した。
牛が放牧されていて、のんびり草を食んでいるところが間近に見えるようなコース。ところどころに牛が出て行かないように柵が設置してあって、人が通れるような細い通路が通じていた。眺めもいいし、空気も美味しいということで、歩くのは全然苦にならずにStaffelの駅に到着。ここからは線路沿いのコースをたどり、Kanzeliに寄ってからカルトバードへと至る道をたどった。
途中でパラグライダーをやっている人を見た。残念ながらこの日は風もあまりないおだやかな日で、パラグライダーにはちょっと辛い日だったのではないかと思った。

カルトバードまで降り、さて帰りは登山列車で降りて帰ろうということで切符を買おうとした際「ユーレールパスを持っているか?」と聞かれた。提示すると、割引で終点のヴィッツナウVitznauまでの切符が10.5CHFになった。
もしかして湖船でも使えるかも、と話していたのだが、日付を記入はしていなかったので提示はせずに切符を買った。その時47CHFというかなり高額な請求をされたのだが、あとでみると"Vitznau / BASEL SBB / VIA LUZERN SBB"とあり、どうもどこでどう間違ったのか、ルツェルン乗り換えのバーゼル行きの切符を買わされていたらしかった。

部屋に戻り、ユーレールパスのトラベラーズガイドを読み直してみると、割引どころか無料で乗れる船の対象の中にルツェルンの湖船が含まれており、割引対象の中にはしっかりリギ山の登山列車が含まれていた。合わせてかなりの額をこの日は交通費として使っていたから、惜しいことをしたと思ったが後の祭りだった。
教訓。取り扱い説明書はよく読もう。読んだと思っても使う前にもう一回。そして、買った切符はよく確かめよう。

九月十七日

この日はさらに足を伸ばし、四森州湖(Vierwald-statter-see)の一番奥のあたりに作られた"Weg der Schweiz(スイスの道)"のハイキング。実業之日本社発行のブルーガイド「スイス」に曰く、「平坦で歩きやすい」コース。
行きは列車で、帰りは船でというプラン。切符は買わずにユーレールで済ませた。まずはルツェルンからアルト・ゴルダウ駅へのIRに乗り、そこで乗り換えてフリューエレンFluelenに行くプラン。
アルト・ゴルダウの駅で降りてから接続の列車を探したのだが、掲示板を見る限り特急には停車駅の案内があるのだが普通列車にはなく、終着駅の名前が記されているのみ。"Erstfeld"という駅へ向かう列車に乗ろうかどうか迷ったのだが、自信がなかったので約一時間後の特急を待つことにした。あとで地図を見てみると案の定フリューエレンのさらに先の方の駅。余計な時間を喰ってしまった。

ともあれフリューエレン到着。近所の食料品店でパンとソーセージなど買って歩きだす。ガイドブックいわく一本道でまず迷わないのだそうだが、他のコースの案内も出ているし、肝心のWeg der Schweizは初め線路と湖に挟まれた生活道路のような道になっているので歩いていて不安になった。途中に標示もあり、独立した道になってからはまぁまぁ安心して歩けた。
しかし。歩いてみるとかなりの起伏があって、道はいいのだがそれなりに大変。その理由は湖のすぐそばまで崖が迫っているような場所が少なくなく、回避のために少し高いところまで登る必要がある場所があるせい。おかげで景色は最高なのだが。

途中、景色以外の見所は二つ。ウィリアム・テルゆかりのTells-platteと礼拝堂、そしてその少し前に設置されたGlockenspiel。
礼拝堂は水際にあるので降りて行く道を通る必要がある。わたしたちは結局そちらに行かなかった。Glockenspielはいろいろな曲が鳴らせるようで、その中には歌劇「ウィリアム・テル」序曲もあった。鳴らしてみたかったのだが相方に止められた。

シシコンsisikonまで食事の時間込みで二時間とちょっと。距離は8キロ程度だそうなので悪くないペースと言えると思う。
シシコンから鉄道を使うか船を使うか迷ったが、のんびりと船で行こうと決めた。一時間位するとルツェルン行きの船が来ると掲示してあったのだが、待てど暮らせど来ない。よく見てみるとその船は日曜祝日運行とのことだった。シシコンからの列車はこれまた一時間に一本だけで、いまさら電車に乗り直す気も起きず、さらに一時間待って船でルツェルンに戻った。

戻った後は軽く市内観光。とはいっても街の二つの木造橋であるカペル橋とシュプロイヤー橋を渡り、ライオン記念碑を見て、あとは旧市街を一回りしただけ。
カペル橋は岸に近い部分の板絵以外は焼失したあと復元されたために新しい。とはいえ、絵の中に書き込まれた古い字体のドイツ語は十分に読めない。(死) もうちょっと勉強しとくとなぁと思った。
シュプロイヤー橋の方の板絵はテーマが「死の舞踏」だそうで、やや暗くなりかけてから渡ったせいもあって中世の雰囲気満点。そこかしこに描かれたしゃれこうべがなんとも言えない雰囲気を醸し出していた。
ちなみに、日本でより暗くなるのは遅く、7時過ぎでも十分に明るかった。サマータイムの時期であるためもあるようで、代わりに朝は7時頃でも薄暗かった。

シュプロイヤー橋の近くになにやら堰らしいものがあり、説明をちらっと見てみると発電所であるように思われた。日本の川と流れは同程度の場所で、ここで発電ができるなら日本各地に発電所がおけるなぁなどと思った。

九月十八日

この日はホテルをチェックアウトした後、駅のコインロッカーに荷物をいれて、交通博物館へ。
バスの料金体系は近距離のいくつかのバス停が1.8CHFで、その後がゾーン制。バス停"Verkehrhaus"から歩いてすぐにある。ユーレールパスを持っていると入場料が割り引きになる特典がある。

交通に関わるもの――船・自動車・鉄道・ロープウェー・自転車・二輪車・飛行機などだけでなく、電信電話や暗号に関する展示、放送に関する展示もあった。なにしろ量が多いので、とりあえず見るだけでもかなりの時間がかかった。
ここで一番気に入ったのはプラネタリウム。星空だけでなく月から眺めたような映像や各種惑星のアップなどもみせてくれて、解説が(ドイツ語のため)わかりにくくても十分に楽しめる。一応英語とフランス語のヘッドフォンもあるようだが、場内にドイツ語での解説が響いているためあまりよく聞こえなかった。

交通博物館を堪能した後は、湖畔の道を散策しつつ、30分くらいかけて駅まで戻った。荷物を引っ張りだして来てから、Olten行きのEC"ベルディ"に乗車。Oltenでベルン方面行きのICに乗り換えて、ベルン到着は5時過ぎだった。

ベルンでの宿はHotel Continental。ビジネスホテルっぽい感じの宿。
荷物をおいた後、夕食を取る場所を探しに町中をうろうろ。結局、Kornhausplatzに面した"Anker"というレストランで。決め手は表に掲げてあったKarteに料理の写真と日本語名が併記してあったこと。中に入ってから出て来たKarteには日本語はなかったが。
ガイドブックなど見ていて、"Berner-Platte"なる料理が名物と書かれていたので一度食べてみようと決めていたのだが、この店ではどうやらBernerTellerという名前で出されているらしかった。各種肉類とジャガイモ、ザウアクラウト、インゲンなどが合わせられている。普通の量を頼んだがそれで満腹するくらいだった。

ベルンの街では少しずつ日本語の掲示を見掛ける。駅の観光局で買える観光用地図にも日本語で地名の案内がある。それなりに日本からの観光客があるのだろうか。

九月十九日

この日は一日、ベルンの街を歩き回るプラン。旧市街だけなら小さな街なので徒歩で十分。
まずはMarkt-gasseを通りながら、通りに散在する噴水を見ていく。どれも彩色が美しく、ゆっくり見て歩く価値があると思った。
通り沿いにあるアインシュタインハウスは建物の三階にある。案内が小さいので歩いていないと見過ごすと思う。午前中行ったときは入り口のドアが閉じていて電気も消えていたので閉館かと思ったのだが、午後に再訪してみたときにはドアを開けて中に入れた。
展示内容は写真や説明文などが中心。それほど大きな家ではなく、こぢんまりとしていた。

てくてく歩きながら、通りをそれて大聖堂へ。入り口のファザードに飾られている最後の審判の像は、彩色も綺麗で見入ってしまった。周りには足場が組まれていて、改修中なのかもしれない。
向かって左手に堂内への入り口があり、小さなショップになっていた。ここで塔へ登る際のチケットも買える旨の標示も出ていたが、まずは堂内の見学をする。窓のステンドグラスがなかなか彩色も豊かで、見ていて飽きない。最前部の説教壇近くまで行けるので、日本人観光客らしき人物がそこに立って喋ってみたりしていた。
上手側にはキリストが十字架にかかった後、遺骸を抱きしめて女性が悲嘆にくれている像があった。
堂内の座席の背には一つ一つ違った形の彫り物がしてあって、見て歩くと面白かった。いつ作られたものかなど、詳細を知ることはできなかったのだけれども。
堂内を堪能した後、チケットを買って尖塔へ登る。入り口はどこかな〜と標示にしたがって歩いて行くと、狭い階段が口を開けている。ここがつまりてっぺんまで100mあるという尖塔の見晴らし台への入り口で、目が回りそうになりながらひたすら登って行くことになる。高所恐怖症の人はいうまでもなく、おそらくは閉所恐怖症の人にもあまりお勧めができかねる感じ。
見晴らし台に立つと足下がすーすーする感じはするものの、眺めは最高。できるだけ近くを見ないようにしつつ(;、風景を楽しんだ。ちなみにチケットは登りきったところでチェックされる。
帰りも当然階段なのだが、こちらは打ってかわって窓が広く取られており明るい。それはいいのだが、足下のみならず、窓からの風景が非常によく見えてしまい、自分が高いところにいることが実感できてしまって少々怖かった。

眺めを楽しんだ後は熊壕まで行って熊に会う。本日出番は三頭だけのようだったが、名前まではわからなかった。
このあたりで雨が降り始めたため、一度市街の方へ戻る。Markt通りはアーケード完備のため歩きやすい。戻りながらアインシュタインハウスへ寄った。

雨でも観光できる場所、ということで、相方の注文もあり美術館Kunstmuseumへ。クレーのコレクションが有名、ということだったが、確かにたくさんのクレーの絵があり、ドイツ語で説明もついていた。とーぜんほとんど理解できていないので、あとで勉強しようと誓ってみたり。相方はクレーに対するイメージが変わったようだった。
ガイドブックには他にもピカソなどがあるというふうに書かれていたのだったが、それは見ることができなかった。展示替えの関係かもしれない。
他に、教会の壁画とおぼしい絵もあり、デッサンや他の教会画との比較をしているようだった。
ここと翌日の自然史博物館では貸しロッカーを使用した。2Frのコインが必要だが、使い終わると戻ってきた。荷物を抱えて見物は辛いので、とても助かった。

見終わるころには少し天気が回復していたので、再び熊壕の方まで行き、坂を登ってバラ公園から街を眺めてみた。ベルンの旧市街は屋根の色がほぼ一色で、それがとても綺麗だった。
時期外れではあるが、公園の薔薇も少しずつ咲いていて、ローズガーデンの雰囲気は少し味わえた。

九月二十日

午前観光、午後買い物の一日。

まずはふらりと自然史博物館へ。ウィーンでもそうだったが、ここもまた大量の展示物があって圧倒される。熱心な解説員でもいたら、一日かけてようやく回りきれるかどうか、というくらいだろうと思う。
圧巻はアフリカなどの動物の生態をジオラマにしたもの。剥製を用い、ポーズも決まっているジオラマは、生きているかのような雰囲気を醸し出していて見ていて飽きない。ライオンやゴリラなどはいうまでもなく、シマウマやインパラなど草食動物、また小動物までいた。
場所を変えると、宇宙そして地質の展示になり、ボイジャーやガリレオから撮った映像のビデオや、隕石の標本、また各種岩石や貴石の標本が展示されていた。見せ方もかなり工夫されていて、ジオラマや映像を多用していた。
一番気に入ったのは動物の生態に関する展示で、巣についての特集がされていた。鳥の巣・蜂の巣・ビーバーの巣・蟻の巣・もぐらの穴などなど多岐に渡る"巣"についての展示がかなり広い部屋の全体に渡って作られていて、とても面白かった。
全体としては生物・地学分野の展示が多かったが、見せかたに工夫がされていて退屈しない。ウィーンの自然史博物館と比べるとより現代的な感じがした。

見終わって外へ出ると一時。ベンチで軽くパンでもかじろうかと、場所を探して川べりの方へ降りて行った。ガイドブックには特に記されていないのだが、公園があってプールがあるようだったので、そこで昼食を取った。
帰り途中でベルンの市街に戻るところで、小さなケーブルカーを見つけた。一人1.2Fr程度でもあったので乗ってみたが、かわいらしい感じ。川べりと旧市街の間は河岸段丘になっていて坂がきついのでこうしたものが作られたのだろうと思う。

そのあとは市内を歩きながら土産物屋を探す。しかし、正直言って安くて記念になりそうな小物類にはあまり巡り合えなかった。チョコレートはスーパーマーケットでまとめ買いし、折り畳み式のアーミーナイフは土産物屋で。スイスワインは地元の酒屋で購入した。
帰って来たところで荷造りを始める。――スーツケースに入りきらないくらいの荷物ができてしまっていた。手荷物にもいろいろ入れられるようにはしておいたけれども....。

九月二十一日

帰る日。
早めに起きて食事をし、支度を整えてベルン発7:56のICに乗る。一度チューリッヒ空港駅まで行き、そこのコインロッカーにスーツケースを預けてからチューリッヒHbfまでとってかえし、聖母教会(フラウミュンスター)を見るプラン。
相方の注文で、フラウミュンスターのシャガール作のステンドグラスが見たいとのことだった。

空港着が10:10ころで、再度チューリッヒへ向けて出発したのが10:35ころだった。ロッカーはすぐに見つかったのだが、ロッカーに入れる7CHFがなくて、売店で残っていたユーロを使って買い物をしたらおつりの計算で手間取ったりしていたため。ロッカーは大きめで、大小のスーツケースとバックパック一つが楽に入ってしまった。

空港からチューリッヒHbfに取って返す列車内で、検札に来た車掌にユーレールパスを見せると、チェックした後ごそごそしはじめた。おや?と思っていると、紙切れを出して来てそれをみつつ「ドチラマデイキマスカ?」と。見ると手元の紙にはローマ字で日本語の文が綴られていた。どうも日本語の勉強中であるらしい。「チューリッヒ」と答えると、笑顔で「サヨナラ」と返してくれた。

チューリッヒにつき、トラムを利用して二つ目の停留所がフラウミュンスターの最寄り駅。停留所に近い側の戸には「Entrance is other side」と記されていたので川の方の扉に行く。入場は無料だが、二階から件のステンドグラスを眺めるには要予約であるらしい。(団体客のみかもしれない)
中に入ると座席の後方と、建物の側面に二つのステンドグラスが見えた。シャガール作っぽいのは入り口入って正面(説教壇から見ると下手側)の青いステンドグラスで、建物後方・パイプオルガンの上方のものともう一方の側面のステンドグラスは、細かで豪奢な作りをしており、雰囲気としては別人の手によるものだろうと思われた。
壇を登って小部屋に入ると、有名なシャガール作のステンドグラスがあった。正面に三枚、側面に一枚ずつで計五枚。左から順に赤・青・緑・黄・青で統一されていた。
しばし見とれていたのだが、見とれながら考えていたのはさだまさしの「青の季節」という歌。シャガールの五枚のステンドグラスが出て来るこの歌の舞台はどこだろうかなどとやくたいもないことを考えていた。
ステンドグラスはあちこちで見ることができたのだが、細かな造形がされているものが多く、ここにあるような曲線を多用して大きな絵を描いていくようなものはあまり見られなかった。

ステンドグラスを堪能した後、今度は徒歩で駅まで歩き、空港行きのIRに乗ってチューリッヒ空港に着いた。その後はタイ航空のバンコク経由成田行きに乗って帰路についた。

余談だが、帰ってからさだまさしのアルバム「さよならにっぽん」のライナーノートをチェックしたら、「青の季節」でイメージされていたステンドグラスはまさにチューリッヒのフラウミュンスターのステンドグラスであったらしい。


Written by Genesis (2002.12.2更新)
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