書評:「ハッピー・バースデイ」新井素子

「ハッピー・バースデイ」新井素子著/角川書店

前作「チグリスとユーフラテス」の帯に「今世紀最高傑作」などと記されていて(発行は1999年)、「次の新作まで一年以上も待てというのか〜〜」と思ったのだけれど、結局3年待ってしまった。
やっとでた新刊を手に入れてから読むまでに一月ばかり。読み始めたら一気だった。読み終えて満足して感想など書き始めているのだけれど、新刊欠乏症を発症するまでにそう時間は時間はかからないだろうな、と思う。

主人公は「あきら」こと沢木明と、「裕司」こと市原裕司。あきらは新人賞を受けて今話題の新人作家、裕司は地方から出て来て現在一浪中。本来多分関わりあうことはなかった二人が、ほんの小さなきっかけでかかわりあいを持つようになり――そして、物語が始まる。
前半ではあきらが正体不明の男からかけられて来るいたずら電話やいたずら手紙に悩まされ、「次回作」への周囲の期待もあいまってじわじわ壊れていく様子が描かれていく。読みながら、一種サイコホラー風な進み方だと思った。
そして、後半は一転して、おもに裕司の方に視点が当たり――タイトルに示された、「ハッピー・バースデー」へと向かっていく。エンディングでは二人がそれぞれに「ハッピー・バースデー」を迎え、ま、ハッピーエンドと言えるのではないかな、これは。

あきらのこころの動きなど、けして論理的だとは思えないけれど、それを切って捨てられないような、圧倒的な迫力を感じた。そのあたりは評価が別れるところかな、とは思うが、わたしは気に入って読んでいた。
エンディングの最後の一行は、読み終えてすこうし居心地の悪さを感じたのだけれど。これは議論を呼びそうだと思う。

読みながら思いだしていた新井素子作品は二つ。「あなたにここにいて欲しい」と、「いつか猫になる日まで」ストーリーとかではなく、場面の状況なんかで似ているところがあるなぁ、と。
そういえば、どちらも他人に依存的だったキャラクターが成長するお話。「ハッピー・バースディ」も、そういうお話だと言ってもいいかもしれない。


Written by Genesis
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