曲目解説


H.シュッツ:ドイツ語マニフィカト SWV494

 「ドイツ音楽の父」と呼ばれる初期バロックの作曲家、ハインリヒ・シュッツ(1585〜1672)がドレスデンの宮廷礼拝堂楽長を経て、87年におよぶ長い人生の最後の作品となったのが、詩篇の中でも最も長い第119篇に作曲した12曲である。これに詩篇第100篇と、この《マニフィカト》が添えられ、彼の辞世の歌『白鳥の歌』として出版される予定であった。しかし手稿譜は長い間行方不明となってしまい、発見されたのは1900年になってからのことである。ただこの《マニフィカト》には1669年頃の初稿が伝えられており、1926年にいち早く出版された。
 神の御心としての律法をテーマとして始まった曲は、華やかな神への讃美をへて、新約聖書における福音の告知へと到達する。これは、イエスを身籠ったマリアが感動して歌い出すルカ福音書の誉め歌であり、古来多くの名曲を生み出してきたテキストである。シュッツはここで3拍子を基礎とし、淡々とした筆致の中に明るい喜びをにじませつつ、曲を進めてゆく。歌詞の扱いは単語ひとつひとつに至るまで、入念でしかもやさしく、彼の作品中でも特に親しまれている。

川上裕美子


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