Program Note


マニフィカト BWV243

 《マニフィカト》もラテン語で歌われる作品です。前述のように、ルター派教会の礼拝は基本的にドイツ語化されましたが、「マニフィカト」はラテン語でもドイツ語でも歌われるレパートリーでした。 歌詞は『ルカ福音書』の第1章46節、マリアの祈りのことばから採られています。大天使ガブリエルから受胎告知を受けたマリアが、エリザベトのもとを訪れると、本当に男の子を宿しており、それに感動したマリアが神を讃えて歌う、というものです。 その祈りのことばが「マニフィカト」なのです。
 バッハは1723年ライプツィヒで迎えた最初のクリスマスのために《マニフィカト》を変ホ長調で作曲しました。 その後1732~1735年頃に大幅な改訂を加えて、ニ長調による第2稿を書き上げました。これが現在、一般的に演奏されている稿です。 初稿には、ライプツィヒなどの伝統に則ってクリスマス用の賛歌が挿入されていましたが、それが改稿に際して取り除かれたのですが、それはこの《マニフィカト》をいつでも演奏されるものとしたかったからではないか、と考えられています。
 本作は12の楽曲からなりますが、それぞれが5声の合唱から重唱、ソロと声楽の編成が変わるばかりでなく、オーケストラも全楽器によるトゥッティから通奏低音のみ(第5曲)や2本のフルートと通奏低音(第9曲)など多彩です。 そして何より、テクストの内容に合わせて音楽が表現する気分は実に多岐にわたっています。 ニ長調でとりわけ輝かしく響くトランペットとティンパニが活躍する冒頭合唱〈我が魂は主をあがめ〉は、地上のあちこちで民衆が歓呼しているかのようですし、第3曲のソプラノ・ソロによるアリア〈この卑しいはした女を顧み〉では、オーボエ・ダモーレとともに、非常にドラマティックにマリアの嘆きが歌われます。 三重唱での第10曲〈主は憐れみをお忘れにならず、僕なるイスラエルを助け〉には、マニフィカトの伝統的な聖歌旋律がオーボエによって導入されます。 そして最終曲で「はじめにそうであったように」ということばのとおり、冒頭合唱が短く繰り返され、輝かしい賛美のなか全体は閉じられます。

高野 昭夫(ライプツィヒ・バッハ資料財団国際広報室長)


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