曲目解説


J.S.バッハ:モテット「怖るるなかれ われ汝とともにあり」BWV228

 モテットとは、ヨーロッパ中世12〜13世紀頃に成立したポリフォニー(多声)声楽曲のことであるが、時代や地域によって多種多様であり、正確な定義や成立については不明な点も多い。すでにバッハの時代には、モテットよりも自由詩を多く含んだカンタータに重きが置かれており、真作と考えられているモテットは5曲に過ぎない。しかしながら、様々な技法を駆使し融合させたバッハのモテットは、どれも評価が高い。
 このモテットは、ミサ曲と同様のイ長調で1726年の作。テキストは、旧約聖書イザヤ書第41章第10節と同43章第1節、ならびに後半のソプラノ・パートには、ゲールハルト(詩、1635年)エーベリング(曲、1666年)によるコラール"Warum sollt ich mich denn graemen?"(なにゆえにわれ悲嘆すべき)の第11・12節が使われている。
 なおバッハはこのコラールを、《クリスマス・オラトリオ》(1734年)の第3部第33曲でも用いている。この曲の歌詞は「私はあなたをしっかりと心に留めておく」という、亡き人を想う歌詞であるが、今回演奏のモテットもライプツィヒ市参事会員未亡人の追悼式のためのものと言われている。

宮崎文彦


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