曲目解説


J.S.バッハ:ミサ曲イ長調 BWV234

 通常ミサ曲という場合には、「キリエ」「グローリア」「クレド」「サンクトゥス」「アニュス・デイ」の5部からなるものを指すが、1730年代末に作曲されたバッハの4つのミサ曲(そして当初の《ミサ曲口短調》)は「キリエ」と「グローリア」のみから構成されている。このような構成は、バッハの属するルター派における慣習によるところとされている。
 ところで、これらのミサ曲はどれも旧作カンタータのパロディであることが判っているが、なぜこのような転用、悪く言えば「使い回し」をバッハは行ったのだろうか?時間がなかったので手持ちのもので間に合わせたという説もあるが、近年では肯定的な評価がなされるようになっている。例えば小林義武氏は、当時「カンタータ」というジャンルが衰退しつつある時代背景にあって、バッハは自身の作品が忘却の運命に陥らないよう「最も優れたものを選び出し、それらをミサ曲に変えること」を行ったのではないかと述べている。
 そのような自らの作品群の集大成が、2年前に本団でも演奏した《ミサ曲口短調》となるわけであるが、それ以前にも、バッハは自らの作品群から特に良いものを選定し、ミサ曲として再構成していたとも考えられる。

第1曲 Kyrie
(テンポ指定なし)−レント−ヴィヴァーチェ、イ長調、4部合唱
第2曲 Gloria
ヴィヴァーチェ−アダージョ、イ長調、4部合唱
《イエス・キリストをおぼえよ》(BWV67)第6曲による
第3曲 Domine Deus
アンダンテ、嬰ヘ短調、バス独唱
第4曲 Qui tollis peccata mundi
ロ短調、ソプラノ独唱
《心せよ、汝の敬神いつわりならざるや》(BWV179)第5曲による
第5曲 Quoniam tu solus
ニ長調、アルト独唱
《主なる神は太陽にして楯なり》(BWV79)第2曲による
第6曲 Cum Sancto Spiritu
《神よ、われを調べ、わが心を知りたまえ》(BWV136)の冒頭合唱による壮麗なフーガ

宮崎文彦


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