合唱団たちばな

第1回 演奏会


1979年11月6日に行なった「第1回演奏会」のプログラムを紹介します。

ごあいさつ
 本日はお忙しい中、合唱団「たちばな」の第一回演奏会においでくださいまして、誠にありがとうございます。
 私どもの合唱団は、昨年、「国立高校音楽部OB合唱団」として産声をあげました。はじめのうちは、練習場所も一定しておらず、苦労の連続でしたが、地道な活動を続けてまいりました。今年になりようやく練習場所も定まり、メンバーも国立高校卒業生ばかりではなく、大学等の友人をも加え、新たなる合唱団として再出発いたしました。そして、歌うことにより、心がひとつに溶け合う合唱団にしたいと願いながら、今日ここに第一回の演奏会を開くことができるまでに至りました。
 今後とも初心を忘れず、ますます歌の輪を広げてゆきたいと願っております。皆様の率直な御意見、御指導をいただければ幸いです。
 それでは、未熟ではありますが私どもの日頃の練習の成果を、最後までごゆっくりお聞きください。
 なお、今宵の演奏会に際し、御尽力いただきました皆様方に、心より感謝いたします。
団 員 一 同

第一回演奏会によせて
 本日は「たちばな」第一回演奏会に御来場いただき、ありがとうございます。
 合唱団「たちばな」のメンバーは、私が音楽を教えている都立国立高校の卒業生達であります。彼等は在校中音楽部に所属し、数々の演奏会、コンクールに出演し、その特訓の成果をぶつけ優れた評価を得てきた連中であり、また一方では後輩の指導にも熱心に力を貸してくれる、私にとって有難い協力者達でもあります。それに何よりもとても愉快な楽しい連中であります。
 一方指導者の岡本君は、これもかなり以前の卒業生でありますが、彼は早稲田大学からプロの合唱団に入団し、歌うかたわら指揮もするという、かわり種の指揮者であります。私も個人的な演奏活動を通して、さまざまな指揮者と接しますが、彼は時に、それらプロの指揮者の中でさえも仲々見出し得ない、すぐれた能力を、あるいはニュアンスを見せてくれます。岡本君は、けだし、異色の俊才指揮者であります。
 本日はこの両者がどのような演奏をしてくれるか本当に楽しみであります。すばらしい演奏であることは間違いありません。
 皆様もどうぞお楽しみに。
都立国立高校音楽科 森 一夫


プログラム
■第1部
無伴奏混声合唱曲 おてわんみそのうたより
  東京のわらべうた
おじぎの前に
おてわんみそのうた
  くわいが芽だした
  でこ坊やかえろうよ
  でんでれずんば
作 曲
指 揮
三善  善
岡本 俊久
■第2部
愛唱曲から
指 揮
ピアノ
岡本 俊久
伊藤 雅子
  秋のピエロ
作 詩
作 曲
堀口 大学
清水  脩
  夕 焼 雲
作 詞
作 曲
編 曲
三木 露風
山田 耕筰
増田 順平
  あわて床屋
作 詩
作 曲
編 曲
北原 白秋
山田 耕筰
増田 順平
  秋 の 女
作 詩
作 曲
佐藤 春夫
大中  恩
  海はなかった
作 詞
作 曲
岩間 芳樹
広瀬 量平
  大地讃頌
作 詞
作 曲
大木 惇夫
佐藤  真
■第3部
混声合唱組曲 白い木馬
T 一陣の強い風がぶどうの枯葉を吹きとばし
U ゆきんこが遠い国から
V 折れたバラ
W 小さな詩
X 名も知らぬ異国の港町にて
作 詩
作 曲
指 揮
ピアノ
ブッシュ孝子
萩原 英彦
岡本 俊久
伊藤 雅子
■第4部
アニメ主題歌集
編 曲
指 揮
ピアノ
金川 明裕
岡本 俊久
岸本 賀代
  鉄腕アトム
作 詞
作 曲
谷川俊太郎
高井 達雄
  ムーミン
作 詞
作 曲
井上ひさし
宇野誠一郎
  ガッチャマンの歌
作 詞
作 曲
竜の子プロ文芸部
小林 亜星
  キャンディ・キャンディ
作 詞
作 曲
名木田恵子
渡辺 岳夫
  銀河鉄道999
作 詞
作 曲
橋本  淳
平尾 昌晃
  宇宙戦艦ヤマト
作 詞
作 曲
編 曲
阿久  悠
宮川  泰
増田 順平



曲目紹介
●おてわんみそのうた
 子どもの頃を振り返ると、いろいろな想い出と共にいくつかのわらべ唄を想い出される方も、多いと思います。地方によって、また地域によって、それぞれ特色のあるわらべ唄がうたわれています。その中で今日は、東京のわらべ唄をおきかせしようと思います。
 一曲目は、言葉遊びのうたから始まります。相手をはやしたてるうた、ご存知の方も多いのではないでしょうか。次に、指遊びのうたです。歌詞をよくきいていただければ、五本の指が出てくるのがおわかりになるでしょう。そして、遊びの輪からひとり、ふたり、と抜けていく時のうたでこの曲は終わります。
 二曲目は、古い中世から伝えられているといわれるうたで、まりつきをはじめ、いろいろな遊びに用いられるようです。また、指遊びのうたが含まれています。ここには「チョキ」「パー」「グー」が交互に出てきます。
 三曲目はかえうたです。これも言葉遊びのひとつと言えましょう。
 四曲目、この節は、どこかエキゾチックな感じがしませんか。このもとうたは中国のものらしいのですが、日本に伝えられ、かえうたにしてうたい継がれたもののようです。言葉遊びのうたですが、その歌詞は
……でんでれずんばでてくるばってんでんでられんけんでてこんけん……
どんな意味を成しているのか、よくわかりません。
 むかしのがき大将や、いじめっ子や泣き虫が、今はすまして毎日暮らしています。でも今日は子どもの頃にかえって、あの頃の顔でうたいたいと思います。どうぞ最後までごゆっくりおききください。
(中尾)


●白い木馬
 この曲は、1974年に日本合唱協会および文化放送から、萩原英彦に委嘱されて出来た合唱作品で、同年11月3日「文化の日」に、山田一雄(指揮)、三浦洋一(ピアノ)、日本合唱協会によって放送初演され、昭和49年度文化庁主催芸術祭ラジオ合唱部門での優秀賞を受けたものである。
 詩は、ブッシュ孝子の遺稿詩集「白い木馬」から5編を選んだものである。ブッシュ孝子についての詳細は明らかではないが、死を予感した中で書き綴られたという。これらの美しい詩を、是非とも一度静かに味わってみていただきたい。
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 第一曲は、この組曲の主要動機であるピアノの旋律で始められる。遠くを夢みるような、しかし何処かに不安を秘めているような旋律である。すると突然、「一陣の風」のごとく速いパッセージ(走句)が現われる。もうそこは、現実を離れた詩と音楽の世界である。憂いを含むような前奏が続いた後、アルトとバスのユニゾン(斉唱)で5拍子の旋律が、重々しく歌い始められる。中間部はピアノのカデンツァ風の部分とそれに続く速いアルペジオ(分散和音)で、「銀のさざなみ」を想わせ、最後は最強奏で「天と地にみなぎる清冽な白い予感」と歌いあげて一曲目を終わる。
 夢の中に漂うような二曲目を経て、思い出したように主要動機が現われると、続いて三曲目が、女声合唱で始められる。鮮烈な色彩感を持った詩が、ときに優しく、ときに激しく目まぐるしくテンポを変えながら歌われる。そして再び女声合唱が現われた後、ピアノの分厚い和音で曲を閉じる。
 四曲目は、さながら「翼が生えた」ようにピアノが自在に活躍する。それに絡み合うように各パートがカノン風に旋律を追いかけて、たった4行の詩を見事にふくらませてゆく。やがて主要動機が何度か顔を出した後、ピアノが大きく翼を広げるが、最後は、何かためらうように思いを残しながら曲を終わる。
 終曲では、ピアノのアルペジオに乗って、何処か知らない異国の、輝くばかりの風景が歌い出される。白い壁、アーチ型の窓、鉢植えの花、そして青くたゆとう海。だが、ふとわきあがる寂寥感。「ここにも私の故郷はない」。女声部、男声部、ピアノとこの旋律を繰り返した後、もう一度全員で荘重に歌いあげると、主要動機がどこか遠くへ去って行くかのように弱まりながら、何度か奏でられる。そして消え去る寸前の灯のように、ユニゾンで一気に輝きを増して、最後の語句を歌い、全曲を終わる。
(櫻井)


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